UKを知ろう


アメリカ人が買ったスコットランドの古城

城とその地域の歴史的背景




US buyer found for Scots castle

 2004年7月22日のBBC NEWS スコットランド地方版に表題
のような興味深い記事が出ていた。

 14世紀に建造された古城が、インターネットのオークションで売り
出され、競売は失敗したが最終的には覆面のアメリカ人に話が決ま
ったという。

 話題の古城はリー城(Lee Castle)。所在地はスコットランドの南部
ローランド(Lowlands)のほぼ中央部にあるラナーク郡(Lanarkshire)
の町ラナーク(Lanark)である。英国の大河の一つに挙げられるクラ
イド川の要衝である。



 古城は、所有者の持つ”リー男爵”(Baron of Lee)の称号と、土地
261エーカー(acreは4,046.8平方メートルであるから、ざっと1百万
平方メートル!)付きで売り出された。最終的な価格は未公表である
が、8.5百万ドル未満(約10億円)とか。

 購入したアメリカ人は、「The Load Lyon King of Arms in Edinburgh」
の承認式を終えると、晴れて「第35代リー男爵」となるそうである。

 この古城は、昨年11月、リー城の公式サイトで公開オークションに
出され、200万以上の応募があっって注目されたが、いかさまの入
札者が多く、結局オークションは失敗に終わったという。

 著名なハリウッドの映画俳優ジョン・トラヴォルタや富裕なフランス
の伯爵夫人あるいは自称ウェッブの起業成功者などが応札したよう
である。

 インターネットの応札は今年4月に締め切られ、最高9.7百万ドルの
値もついたようであるが、お金の都合がつかなかったのか、お流れと
なった。その後、英国(UK)では5百万ポンド以上、アメリカでは8.5百
万ドルという価格で広告されていた。


リー城とラナークの由緒話

 これだけなら成金によるありふれた古城の買収話であるが、リー城
とラナークにはいろいろな故事来歴があった。

 もともと「リー」男爵領は、1272年に当時のスコットランド王アレグザ
ンダー三世(在位1249-1286)よりウィリアム・ロカード(William Locard)
に与えられたという。城が建てられたのは1304年であるから、ちょう
ど700年が経っていることになる。
(城の内外の様子は、上記のリンクをご利用ください。)

 この城が有名になったのは、イングランド軍を破って一躍スコットラ
ンド人の敬愛を集めた、ロバート・ザ・ブルースと関係が深い。
彼は、この城の前に茂っていた樫の大木「俗称えんどう豆の木」の枝
の下で、特許状に署名をしたと伝えられている。

 救国の父ロバート・ザ・ブルースに因縁があるだけではない。
 さらに三百年後、英国で初めて共和制を敷いたオリヴァー・クロム
ウェル(1599-1665)が同じ場所で食事をしたという。

 日本ではあまり紹介されていないが、オリヴァー・クロムウェルは連
合王国の歴史の中で、特筆すべき人物である。
 鉄騎兵(Ironsides)を率いて王党軍を撃破し、王を処刑し王制を廃し、
英国史上はじめて共和制(コモンウェルズ)を敷いた。
クロムウェルはアイルランドも弾圧したが、スコットランドでもこのロー
ランドの谷間まで攻め込んでいたのである。

 戦い敗れたローランドのスコッツたちは、ロバート・ザ・ブルース王
ゆかりの場所で倣岸として食事をとるイングランド人クロムウェルを、
苦々しく見ていたに相違ない。



 ラナーク(Lanark)という町そのものもスコットランド史では見逃せな
い。それはスコットランド王室で偉大な王と呼ばれたデヴィッド一世が、
12世紀にこの地に城を築いて以来、王の特許状を与えられた自由
都市ロイヤル・バラ(Royal Burgh)であったからである。

 また、ラナーク(Lanark)の南部にはニュー・ラナークの村がある。
英国産業革命期から資本主義の発展の過程で、産業資本家の立場
から社会主義者として活躍したロバート・オーウェン(Robert Owen)
(1771-1858)は、このニュー・ラナークで紡績工場主として経営に携
わる一方、劣悪な労働者の待遇改善や、教育の付与など意を注いだ。

 したがって、BBC報道の地方記事を偶然見つけたこの機会に、
マルコム三世とマーッガレット王妃の第6子、デヴィッド一世から
アレグザンダー三世にいたる12・3世紀頃のスコットランド王室や、
オリヴァー・クロムウェル、さらにはロバート・オーウェンなどの人物
について、少しまとめてみたい。


 ロバート・ザ・ブルース関連ついては、下記の掲載を参照ください。

700年かけたスコッツ「自治」の願い
「Brave Heart」とアザミの花エドワード2世の紹介を追加
君知るやスクーン石の嘆きと喜び「スクーンの石」遂に返還!!


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