第2部 反 乱

第6章 エクセターの抗戦


前頁より



 1067年12月6日、聖ニコラスの日にウィリアム王はイングランドに
帰ってきた。十分な装備を整えた軍団を引率していた。

「まずは穏やかに手順を踏んで、エクセターの市民に対してウィリアム
王の支配を受け容れるよう、内内に使者を出し打診しましょう。まだノ
ルマン軍が征服していない他の都市も、王の今後の出方を注視して
いるでしょうから」
と、ウォルターは進言した。

 新体制に無条件降伏をするよう交渉した使者は、いとも簡単に拒絶
され、追い返された。

「予想した通りです。次には公文書を突き付けてやりましょう」
「して、内容はいかがする?」
「『全市民よ、余に忠誠を誓う誓約書を提出し、速やかに降伏せよ』と、
ただこれだけにしましょう」

 エクセター市の幹部たちは、意気軒高としていた。
「生意気なノルマンの成り上がり者めが。ゴッドウィン家でもこのエク
セターには一目置いていたのだ。高飛車なウィリアムにふさわしい返
書を出そう」

 ウィリアム王に回答書が届いた。
『われわれエクセター市民は自由を尊びます。したがって王に降伏す
ることも、またいかなる誓約書の提出も致しません。またエクセターは、
われわれ市民が自ら町を治めてきましたので、王の軍隊が市の城壁
内に進駐することはお断りします。しかし、われわれは、ハロルド前王
に支払っていたように、ウィリアム王にも同額の貢物を納めます』
という内容であった。

 同時に、エクセター市はデヴォン州、コーンウォール州の血気盛んな
ケルトの郷士たちに檄を飛ばして、エクセターとの連携を呼びかけた。
 エクセターに多くの志願者が参集した。

 王は、激怒した。
「余を虚仮(こけ)にしたな。このような回答を認める訳にはいかぬ。
また、余に逆らうような決起の呼びかけは許せない」
 ウォルターは静かに言った。
「これでエクセター攻撃の大義名分ができました」

 ウィリアム王は、イングランド各地に駐在しているノルマン諸侯騎士
達に、一部の配下をエクセター攻略軍に拠出するよう命令を出した。
ウィリアム王の気性と処罰の厳しさを承知している諸侯は、命令どお
りの兵士を割いて、差し出した。

 それでもノルマン軍団は十分な兵数ではないとウィリアム王は考え
た。エクセターだけではなく、この機会にデヴォン州、コーンウォール
州全域を完全に制圧したかった。
 そこで、かってはアングロサクソン貴族に仕えていたがノルマンの征
服により職を失った兵士たちを、傭兵として多数雇い入れた。

 ウィリアム王陣頭指揮のノルマン大軍団は、ロンドンを発って、征服
したウェセックス州を通過し、威風堂々南西に向かった。
途中、未征服だったドーセット州では、臣従しない町や村は、容赦なく
破壊した。

 軍団はさらにデヴォン州に入って、抵抗の中心地エクセターに近づ
いた。

 ウィリアム王の大軍団に、エクセター市の幹部たちは驚いた。まさか
これほどの軍団編成を整えて来るとは予想していなかった。
 幹部たちはギルドホールに集まって対策を協議した。

「ウィリアム王何する者ぞ、ケルトの民の戦さぶりを見せてやるぞ」
「いやいやこれでは篭城しても勝てそうに無いな。まだ間に合う。人質
を出して講和の交渉をしよう」
意見は二つに分かれた。結局は、思慮深いというか、やや臆病になっ
た長老たちの意見が多数を占めて、慎重派が交渉に赴くことになった。



 エクセター市郊外4マイルほどのところで長老たちの代表がウィリア
ム王に会った。王に人質を差し出し、降伏するというのである。
「少し話が旨すぎる様だが、芝居でもあるまい」



次頁へ