第2部 反 乱

第6章 エクセターの抗戦


前頁より



 ウィリアム王は堂々たる凱旋入門をしようと考えた。槍騎兵500騎を
先頭に従え、軍団はエクセターの東門に近づいた。

 ところが、無血開城の約束に反して、城門は閉まっており、城壁の上
には多数の兵士達が犇(ひしめ)いていた。

「約束が違うではないか。われらを欺いたのか」
と、王は怒った。
「いえいえ滅相もない。これは何かの手違いで・・・」
長老達も顔色を変えていた。内心恐れていた多数の抗戦派が、臆病
な長老達がウィリアム王との交渉に出かけている間に、再び論議を蒸
し返し、徹底抗戦を決めていたのである。

 城壁の上から兵士の声がした。
「われらはノルマンには屈しないぜ」

 ウィリアム王は部下に命じて人質の一人を城壁の前に引き出し、城
壁の上の市民や兵に向かってどなった。

「神は、和平の約を破るそなたたちの味方はされないぞ!よかろう。
そなたたちが約束を破るのであれば、こちらは人質を処罰するまでよ。
われらをなめるでないぞ!よく見よ!」

 王は、ひとりの人質の目をくりぬかせた。

 城壁の兵士たちは、王のフランス語を理解できなかったが、この処
刑に一瞬たじろいだ。ノルマンに抵抗し敗れた場合はどうなるのか、
わが身に置き換えて静まりかえった。



 だが、彼らも戦意盛んなケルトの戦士たちである。この処刑に屈す
ることなく攻防の激戦が開始された。

 前にも述べたように、エクセターは天然の要害であった。篭城した市
民や近郷の郷士たちは、危機感を持ってよく戦った。
 さしものノルマンの大軍団も堅固な城壁に攻めあぐねた。

  「もう2週間も膠着状態が続いている。いつまでも包囲戦を続けるわ
けにはいくまい。トロイの木馬のような名案はないか」
と、ウィリアム王はウォルターに尋ねた。

「トンネルを掘ってはいかがでしょうか」
「トンネル?なるほど」

 ノルマンの兵士は築城になれていた。攻撃は一旦休止された。
一部の警戒要員を配置して城内からの反攻に備え、大多数の兵士が
交代で城壁に向かって穴を掘り進めた。
 その穴が城壁の下に来た時、突然石垣が崩れて大きな割れ目が出
来た。



「今だ!突撃せよ!」
こうなってはノルマン軍団の槍騎兵軍団や兵士達の独壇場だった。
 自治都市エクセターは遂に降伏した。
 18日という長い抗戦であった。

 ハロルド前王の母ギーサは、これまで抗戦派を扇動してきたが、城
壁が壊されたどさくさの間に、身の回りの宝石や貴金属を持って西門
から逃走していた。
 僅かの家臣を連れて、ブリストール海峡に浮かぶ小島に向かった。
その先アイルランドには、ギーサの孫たちが亡命していた。ハロルド前
王が妾腹に生ませた遺児たちであった。

 しかし、ギーサはアイルランドに行かず、フランダースに逃げた。そこ
は、十数年前の1051年、故エドワード懺悔王からゴッドウィン家が国
外追放された時にも亡命先であった。

 ギーサ未亡人の逃亡で、イングランドにおけるゴッドウィン家の影響
力は消滅した。



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