ロンドン憶良見聞録

神よ、助けたまえ


「大変だ!ユーロが取れない!」
「こっちもです。XYZバンクは期限に継続してくれません。クレディット・ライ
ンが減額になりました!」
鼻っ柱の強い富井君と穏やかな武藤君が悲鳴をあげた。

オイル・クライシス(石油危機)の衝撃が、もろにディーリング・ルームを襲っ
て来た。先進工業国の中で輸入石油の比率が最も高い日本は、中東戦争
の影響を大きく受けるところから、欧米社会では「日本列島(経済)沈没近
し」と囁かれていた。
だから、日本の銀行にユーロ・ダラー預金を預けていた外国銀行は、一斉
に預金の引き揚げを図って来たのだ。

ヴェテラン・ディーラーの富井君が、新しくユーロ預金をインターバンク・マー
ケット(銀行間取引)で取り入れようとしても、「トミー(富井さん)申し訳無い
が、ジャパニーズ・バンクには出せなくなったので、勘弁してよ」
とディーラー仲間から気の毒げに断られる。




次頁へ