UKを知ろう


注目すべきブリティッシュ・アイリッシュ協議会


ブレア首相に学びたい行動と政策


内政と外交で中世を清算、一挙に友好関係へ




1999年12月17日のBBC NEWSによれば、UKのブレア首相は
スコットランド・ウェールズ地方政府およびチャネル・アイランドとマ
ン島自治代表や、新に成立した北アイルランドの地方政府代表で
あるトリンブル主席相(First Minister)らとともに、アイルランド共和国
のアハーン首相らを招き、史上初めてのブリティッシュ・アイリッシュ
協議会を開催したと報じている。

これは1998年4月に締結された北アイルランド問題和平のための
「Good Friday Agreement」に基づく会議である。

日本では、いろいろ大きな(時には毒にも薬にもならないような)国
内ニュースの報道が多く、ブリティッシュ・アイリッシュ協議会が紹介
されていないようであるので、不肖憶良氏が総括しよう。



UKの歴史上、征服者であったアングロサクソンのイングランド政府
と、披征服者のケルトの自治政府代表が、このように地方分権を受
け平和的に集結したのは初めてである。
北アイルランド問題が大筋で解決し、21世紀以降UKの内政がより
良い方向に行く事は間違いないであろう。

北アイルランド問題和平締結は次の3点に意義があると考える。

(1)カトリック教徒と英国国教会のプロテスタントが、軍事力や暴力
  での争いを止め、双方が武装を解除すること。つまり、20世紀
  の宗教戦争を止め、平和を求めたこと。

(2)英本国政府が、北アイルランドにもスコットランドやウェールズ
  と同様に、住民投票により地方自治・地方分権を認め、北アイ
  ルランド人に責任を持たせ、懸案であった内政紛争に終止符
  を打ったこと。

(3)数百年の歴史的敵対関係にあったアイルランドとUKが、北ア
  イルランド問題和平締結を機に、アイルランド島とブリテン島とい
  う意識で、21世紀に向けて一挙に提携し、友好関係を樹立した
  こと。



そこで、BBC NEWSにより、12月17日(金曜日)ウェストミンスター
で開催されたの第一回ブリティッシュ・アイリッシュ協議会(The inaugural
Meeting of British-Irish Council)に焦点を当ててみよう。

UKおよびアイルランド首脳の発言の格調と内容の具体性には注目
を要する。

まず会談に先立つ12月16日、アイルランド共和国の女性大統領
Mrs.McAleaseは、北アイルランド和平問題に携わったアイルランド
および北アイルランドの全関係者を前に、
「平和のためのリスクを取ったからこそその報償がもたらされた」
"Taking risks for peace has brought its own reward"と感謝の賛辞を
贈った。

北アイルランド出身で2年前大統領に選任された彼女には、感慨深
いものがあるようだ。彼女の「hurt」と「heart」の韻を踏んだ格調高い
スピーチを聞こう。

「私たちは非常に多くのことが原因になっている傷み(hurt)、決して
癒されることのない傷みの数々(hurts)を忘れてはなりません。
しかしながら、私たちは、平和への過程(Peace Process)と名づ
けているこの事態について、非常に多くのごくありふれた普通の人
達が持ち合わせている寛恕とか雅量とか愛や憐憫とか、さらには
信頼がなくてもリスクをとる意思といったものから勇気を得ています
(take heart)。

"We are mindful of the hurt caused to so many, hurts which many
never heal"
"But we take heart from the forgiveness, the generosity, the love
and compassion, the willingness to take risks,even in the absence
of trust, of so many ordinary every day people who are the very
heart and soul of this phenomenon we call the peace process."

12月17日の会談は終始友好的に、かつ実質的なものであった。
ブレア首相は「協調の新しい時代」(New era of co-operation)、
と認識し、「永続する平和を構築する」(Building a lasting peace)
と謳った。

「このGood Friday Agreementはブリテンおよびアイルランド
両島にまたがる全く新しい制度的なリンクの建築を創り出すもので
ある。それは、我々が共同作業によればより多くのことが達成でき
るであろうと思われる分野で、具体的な協調を行う枠組みを与えて
くれる。」
「新世紀に向かって、新しい友好関係を構築する」と述べた。

"The Areement creats a whole new architecture of institutional
links throughout these islands. It gives us a framework for
practical co-operation in areas where we can achieve more by
working together."
"built a new partnership for the new century"

トリンブル主席相もまた「相互の利害を越えて、"Time to work together"
と述べている。

アハーン首相もまた実際的な共同作業の意義を述べている。
「このブリティッシュ・アイリッシュ協議会は、両国の市民生活を改善
するような現実的な課題を、共同作業を進め成功させることによって、
長期的な観点から評価されるであろう。」

”The British-Irish Council will be judged in the long run by it's
success in bringing forward practical ideas for co-operation which
will improve the lives of our citizens"

ある要人は「冷戦の終わり」(End of Cold War)であり、「相互の国民
にとってエキサイティングでかつチャレンジしたくなるような進展だ」
と述べている。
その発言を裏付けるように、会議では今後の相互の共同作業の具
体的項目を決め、次回は6月にアイルランドの首都ダブリンで会議
を持つことになった。

具体的には次の5項目に焦点を当て、次回サミットの議題としている。

(1)Drug related problem
   (麻薬問題)(担当アイルランド)
(2)Social Exclusion
   (社会的な排他行為・差別など)(担当スコットランド/ウェールズ)
(3)Transport
   (運輸)(担当北アイルランド)
(4)Environment
   (環境問題)(担当UK)
(5)E-Commerce and Knowredge based economy
   (電子商取引と知的問題にかかわる経済)(担当チャネル・アイ
   ランド)

こうした会議の進行について、北アイルランドのマロン副首相は面白
い表現をしている。

「過去五千年の間に、ケルト人、ローマ人、アングロサクソン人、ヴァ
イキング、ノルマン人たちが我々の島に上陸してきた。全ての民族が
それぞれの遺産を残してくれた。
我々もまた後世に遺産を残すであろう。それは今まで以上により深い、
より真摯な平和という民衆の遺産であろうと私は確信している。」

「1998年のAgreement締結からの二年間の歩みは遅々たるもので
あったが、この二週間の動きは、疑いもなく我々の能力が加速した事
を如実に示している」と自讃している。

ブリティッシュ・アイリッシュ協議会が単に友好的なだけでなく、麻薬と
か差別とか、電子商取引など具体的な今日的問題を優先的に議題と
しているところが興味ある。



歴史的にみれば、アイルランドは1172年ヘンリー二世にダブリンを占
領された。その後主権を回復したものの、1534年ヘンリー八世により
イングランドの植民地となった。
(プロテスタントとカトリックの対立はこの時からである)
以来アイルランド人はイングランドからの独立を念願し、アイルランド
共和国として真に独立したのは1949年(昭和24年)である。
アイルランドは英連邦には加盟していない。しかしブリティッシュ・ア
イリッシュ協議会の成果次第で、将来加盟もありえよう。

これまで北アイルランド問題をかなりの時間をかけて紹介した。
それは日本人にやや意識の乏しい宗教・民族・政治・経済・国家の
対立という複雑な要素が歴史的にからんでいることを理解してもらい
たいからである。

ブレア首相の深い思慮、迅速かつ具体的な行動にはリーダーのあり
方を学ぶ事が多い。

それにしても日本の政治は後向きの処理が多いようで、はたして子孫
にどのような遺産を残せるのだろうか。赤字財政?不良債権?
皆さんは北アイルランドの和平とブリティッシュ・アイリッシュ協議会の
成立と具体的共同作業の着手に何をどう感じましたか。



チャネル・アイランドについては、ロンドン憶良見聞録女王の島

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