黄昏でない英連邦の絆


(前頁より)



読者諸氏には東京オリンピックの12年後、1976年(昭和51年)に行わ
れた、カナダのモントリオール五輪大会を、思い出していただきたい。
華やかな開会式で、流暢なフランス語と、文字どおりきれいなクイーンズ・
イングリッシュの二ヶ国語で挨拶されたのは、英国のエリザベス女王であ
った。



カナダはれっきとした大国であるから、カナダ首相が開会の挨拶をするも
のと思っていた憶良氏にとって、BBCテレビに映し出された女王の見事
なフランス語のスピーチには感服すると同時に、一瞬不思議に思った。
早速、子供のために日本から持参した「大日本百科事典」(小学館)を紐
解いて、カナダの歴史と政治の項を読み、納得した。
簡約すれば、次のようになろう。

『カナダは、英国が1628年にノバスコシア植民地を設立したことに始まり、
1763年にフランス領植民地であったケベック・モントリオールなどを併合
することにより、完全に英国領となった。
その後1926年、英国帝国議会はカナダの完全自治を認めた。
1931年(昭和6年)には、英連邦を構成する主権国家として法制化され、
1949年(昭和24年)カナダ憲法が制定され、1951年(昭和26年)国名
をカナダ自治領から「カナダ」に変更した。
カナダの独立とは連邦制にもとづく立憲君主国になったということである。
カナダの国家元首は英国の王位継承者であるエリザベス女王である』

カナダの首相がカナダの国家元首ではなかった。だから、モントリオール・
オリンピックの開会式では、カナダ首相ではなく、エリザベス女王自ら挨拶
されたのだ。
しかも、フランス語を話すケベック州などは独立の気運が強く、内政にいろ
いろな問題をかかえている。フランス語と英語の二ヶ国語で開会の挨拶を
されたのは、女王の気配りであったのだ。

カナダを旅してみると、ホテルのロビーやフェリーボートの広間、紙幣など
いたるところに、エリザベス女王の肖像を拝見し、いささかの疑問を持った
方もいようが、女王がカナダの元首だと知れば理解されよう。
このエリザベス女王の挨拶を、日本のジャーナリズムは英連邦の元首とし
ての挨拶だと、正しく解説し報道したであろうか。


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