黄昏でない英連邦の絆


(前頁より)



日本人に馴染みにくい英連邦のココロの結び付きの例をもう一つあげよう。
1977年(昭和52年)、英国はエリザベス女王戴冠25周年を迎えていた。
ロンドンには大英帝国から独立した旧植民地の国々、すなわち、カナダ、
オーストラリア、ニュージランド、インド、シンガポール、キプロス、などいわ
ゆる英連邦を形成する国々から首長たちがやって来た。

日本人的感覚あるいはマルクス経済学者の説明からすれば、植民地は支
配と被支配、搾取と被搾取の関係であるから、独立国家を形成した後は、
関係は薄いのではないかと思うかもしれない。

ところがどっこい、独立後も、かっての母国とは親密である。
女王の戴冠を祝福するためこれらの国々が参集したのである。
ではいったい、現在の英連邦(The Commonwealth)にどのような国が、何
ヶ国加盟しているのであろうか。

カナダ、オーストラリア、ニュージランド、インド、パキスタン、シンガポール、
ガーナ、ナイジェリア、キプロス、ケニア等、驚くなかれ1966年(昭和41
年)末時点で26ヶ国7億3千万人であったのが、1988年(昭和63年)時
点ではなんと49ヶ国、約12億人、世界の人口の4分の1を占めるという。

これらの国は英国から独立して、今は支配被支配の関係はないが、連邦
共通の象徴として英国の国王つまりエリザベス女王を戴いている。
英語を公用語とするこれらの国々は二年に一度集まり友好を深め、さまざ
まな時事問題を討議する英連邦会議を開催している。
共通の(Common)富(Wealth)という名の下に、コミュニィケーションを続け
ているこの現実を、見落としてはいけない。
女王戴冠25周年式典に集まった英連邦35ヶ国首脳を前に、チャールズ
皇太子がぶった大演説に、憶良氏は感心し、英語圏の懐の深さに恐怖
すら覚えた。



まだ独身の二十九歳そこそこの皇太子であるが、将来連邦の盟主になる
立場にある。(その後不倫で不評であり、国王になれるかどうかは疑問と
なったが、当時は颯爽としていた・・・)

「イングリッシュ・スピーキング・ネイションズ(英語を話す国々の国民諸君
よ)、世界が混迷の今こそ、団結しよう!英語によって意志疎通ができる
我々がイニィシャティブを取って、国際社会の問題解決を進めて行こうで
はないか!」

と、世界の人口の4分の1の人々に呼びかけたのである。
タイムズ紙に掲載された演説の全文を読むと、英国王室が確固たる信念
を持って、英連邦諸国の首長たちに所信を堂々と披瀝していることがよく
分かる。
「黄昏のロンドン」どころか、英連邦はカナダ、オーストラリア、ニュージラ
ンドなどの資源豊かな国やシンガポールなどの活力ある国を抱え、ます
ます絆を強くしようとしている。

国連での友好投票だって楽に稼げるではないか。「イギリスの底力」をま
ざまざと感じるのは憶良氏のみではあるまい。とてもとても「黄昏」どころ
ではない。



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