ロンドン憶良見聞録

われ日本のベケットたらん



憶良氏が、派遣行員の間で回し読みされている数日遅れの新聞を持ち
帰ると、美絵夫人や一郎君が、待ってましたとばかりにリビング・ルーム
で読み耽る。

「アラッ、石原慎太郎さんが環境庁長官になられたのね。『われ日本の
トーマス・ベケットたらん』と所感を表明されたとありますよ」
「ほう、さすがに石原さんは才子だなあ、上手い表現を使われたな。だ
けど、はたして何人の国民が真意を理解できたか、はなはだ疑問だな」

「あのー、私もトーマス・ベケットをよく知らないんですけど・・・」
と美絵夫人が首をすぼめて、か細い声を出した。
こうなると、歴史好きの憶良氏の出番である。

「トーマス・ベケットはね、1118年に、ロンドンの富裕な貿易商人兼港
湾長の子供としてシティで生まれたんだよ。場所はオフィスのすぐ近く
でね、『トーマス・ベケットここに生まれる』とプレートが貼られているよ」




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