Summer of 85
フランソワ・オゾン監督/2021年作品
フランソワ・オゾン監督「Summer of 85」を観た。胸を搔きむしられるような"純"初恋物語。

1985年夏のフランス、文章を書く才能に恵まれながらも労働者階級の家庭故に親には就労を望まれる16歳の少年アレックスは、ヨットの事故をきっかけに、18歳のダヴィドに出会う。なんのてらいもなく自然体で飄々としたハンサムなダヴィッドと親しくするうちに、アレックスは徐々に彼に惹かれていく。アレックスにとって、これが初恋だった。

監督自身もインタビューで語っていたが、この映画は"同性愛"が主題ではない。たまたま出会って強く惹かれた相手に恋い焦がれ、想いが成就したものの、やがてはバランスが崩れて別れの足音が聴こえてきたときに起きるすれ違いと焦燥感が描かれる。これって、男女間の初恋でもよくある普遍的な話だ。

1985年という時代、夏のフランス、海沿いの街、初恋。そんな、あらゆる意味で眩いばかりのシチュエーションを見事に美しい色調の映像に落とし込むフランソワ・オゾン。映画の前半は、そんなクラクラするような素敵な場面であふれているが、やがてそこに影が差す。(実際は映画冒頭から陰に覆われているではあるが…)

ダヴィドの心変わりから、思いがけない別れ。悲しみと絶望と罪悪感からのアレックスの"現実への生還"までを描き切って新しい希望を残しつつ物語は終わる。

音楽とヘッドフォンの使い方も洒落てる。この映画で初めて使われた演出ではないけど、洒落てる。
僕のお気に入り度
初恋の眩しさ。場面によっては何度も見返したいが、全編繰り返して見るには重いかな。



(C) Tadashi_Takezaki 2021