裏話5−記憶喪失

シンは記憶喪失になったことがある。
記憶喪失と言っても酒に酔って意識が無くなったわけではない。
これは、経験したくても経験できることではないので
大して面白くないが、ネタとして書いてみよう。

※長くなってしまいましたが許してくださいm(_ _)m


シンは中学・高校とバスケ部に所属していた。
特に中学時代のバスケ部は公立だったけど強くて
過去には全国大会(野球で言えば甲子園)に出場した事もある、由緒ある部活だった。
って、部活が強かった事は一切関係ないんだけど(^^;

シンが高校1年の時、中学時代のバスケ部の友人達4・5人で
「中学の後輩達の練習をのぞきに行こう」ということになった。
そこで、あんな事件に巻き込まれることになるともしらず・・・

シンは朝からいつも通り高校に行って授業を受けた。
今日は中学校に行って、後輩達の練習を見に行く日だ。
高校の授業が一通り終わり、シンは急いで中学校に向かった。

午後3時半頃、中学校に到着すると、すでに友人達は中学校の体育館に着いていた。
友人達は全員、高校がバラバラで、みんなで顔を合わせるのは久しぶりだったので
後輩達の練習そっちのけで、雑談に花を咲かせていた。

そのうち、友人の2人が言い合いのケンカを始めてしまった。
1人はバスケ部の元キャプテン、身長163cm程度の小柄で、性格は今一な人 → 高井。
もう一人はバスケ部のセンター、身長190cm程もあり、片手で人間を持ち上げる怪力男 → 小澤。
この2人、現役時代からあまり仲は良くなかったが
まさか久しぶりに会ったこんな時にまでケンカをするとは・・・

そのまま、周りのみんなは『いつものことだ』と思って黙ってみていたら
2人のテンションはどんどん上がっていき、今にも殴り合いを始めそうな雰囲気。
お互いの胸ぐらを掴みながら、2人は体育館の扉を開けて外へ出ていってしまった。
さすがにみんなで心配になり、2人の後を追いかけて外へ出ていった。

せっかく久しぶりに会ったし、しかも後輩達は練習の真っ最中。
裏話4でも書いてあるとおりケンカが嫌いなシンは(笑)
「なにもこんな時に、ケンカなんかしなくてもいいだろぉ?」と2人のケンカを止めに入った。
2人に「うるせぇ!! おめぇは関係ねぇだろぉ!」と罵られながらも
2人に割って入ったその時だった。

シンは2人に勢いよく突き飛ばされてしまったのだ。
しかも、ケンカをしていた場所は、体育館から校庭に行くための7・8段ある石段の上。
シンは石段を、映画「転校生」のごとく(だれも知らないか(^^;)
見事に転げ落ちてしまった。

シンは階段の下に寝転がり動かなかった。ピクリともしなかった。
それを見ていたみんなは一瞬ビックリしたらしいが
『死んだフリしてるだけだろう』と思い黙って見ていた・・・が
どうも様子がおかしいので、階段の下まで降りてきた。

シンの意識がない・・・。
ケンカをしていた2人も、あっという間にテンションは下がり
ケンカどころではなくなってしまった。
これで一応、シンの思惑通りケンカを止めることは出来たわけだ。
が、この結末はいただけません(笑)。

みんなで、シンに声をかけた。体を起こしてゆさぶったりした。ひっぱたいたりもした。
この行為、今から考えるとメチャクチャ。もし、脳内出血とかしてたら最悪だ(^^;。
本当は「体を動かさないで保健室の先生を呼びに行く」ってのが正解だと思うのだが・・・
それはさておき、1分ほど続けていたら、意識が戻った。

友人:「シン、大丈夫か?」
シン:「え? 俺どうなったんだっけ?」
友人:「階段から落っこちたんだよ」
シン:「あぁ、ちょっと頭ぶつけただけだよ。大丈夫だよ。もうケンカすんなよな」
シンはすくっと立ち上がり、何事もなかったようにスタスタ歩いた。
みんなもとりあえず安心して、体育館に戻っていった。
その後、後輩相手に試合形式で練習の相手をしたりして汗を流した。

練習を終えた後、久しぶりに会ったということでみんなで喫茶店に行くことにした。
喫茶店で、みんなと雑談していたのだが、どうもシンの様子がおかしい・・・。
何度も同じ話をしている。痴呆老人の如く、話が山手線になって堂々巡りしている。
みんなは、シンの様子がおかしいことに何となく気付いたが
顔色もいいし、元気にしゃべっている。
みんなは「まぁ、大丈夫だろう」とたいして気にもとめなかった。

さらにその後、喫茶店の目の前にあるゲームセンターに行った。
このゲームセンターは、中学時代部活が終わった後、みんなでよく遊びに来たところだ。
当時よくやっていたゲーム機がまだ残っている。
このゲームが大好きで大得意だったのは中学時代の友人達も知っている。
懐かしいので、中学時代によく一緒にこのゲームをした友人と
2人プレイで、このゲームをやることにした。

ゲームを始めると、何かがおかしい・・・。
シンはいくらやっても1面すらクリアできない。
操作もままならない。まるでゲームの目的すら忘れてしまったような感じだ。
一緒にプレイしていた友人が心配そうにシンに言った。
友人:「シン、大丈夫か?」
シン:「え? 何が?」
友人:「いやぁ、ゲームが上手くできないみたいだから・・・」
シン:「そうだよねぇ、このゲーム久しぶりだから難しいなぁ」
友人:「いや、そういうことではなくて・・・」
シン:「難しいからもうやめて、そろそろ帰ろうか」
友人:「・・・・・」

みんな帰り支度をして外に出た。
一緒にゲームをやっていた友人は、シンに聞こえないように
シンと帰る方向が一緒の元キャプテン高井にこう言った。
友人:「シン、なんかおかしいよなぁ」
高井:「うん、喫茶店の時からなんかおかしいとは思ってたんだけど・・・」
友人:「心配だから、高井が一緒に帰ってやってくれよ」
高井:「まぁ、どうせ通り道だから一緒に帰るよ」
そう言うと、シンと高井は一緒に帰っていった。

シンは自宅に帰ると、食事の準備をしていた母親に素っ頓狂な質問をした。

シン:「ねぇ、俺って今日何処に行ってきたんだっけ?」
母親:「何言ってるの、バスケの練習に行ってきたんでしょ」
シン:「そうか、そうだったよねぇ・・・」

5分後

シン:「ねぇ、俺って今日何処に行ってきたんだっけ?」
母親:「何言ってるの、さっきも聞いたじゃない、バスケの練習に行ってきたんでしょ」
シン:「そうか、そうだったよねぇ・・・」

5分後

シン:「ねぇ、俺って今日何処に行ってきたんだっけ?」
母親:「何度も同じ事聞いてしつこいわねぇ、一緒に帰ってきた高井君に電話して聞いてみればいいでしょ」
シン:「そうか、そうだよねぇ・・・」

シンは、高井の家に電話をした。

シン:「ねぇ、俺って今日どうしてた?」
高井:「みんなで中学のバスケの練習に行ってたんだよ」
シン:「それから?」
高井:「喫茶店に行って、ゲームセンターで遊んで帰ってきたんだよ」
シン:「そうか、そうだよねぇ・・・、わかったよ、じゃあね」

5分後

シン:「ねぇ、俺って今日何処に行ってきたんだっけ?」
母親:「ちょっとどうしたの? 高井君に電話してちゃんと聞いてみなさい」
シン:「そうか、そうだよねぇ・・・」

シンは、高井の家に電話をした。

シン:「ねぇ、俺って今日どうしてた?」
高井:「みんなで中学のバスケの練習に行ってたんだよ」
シン:「それから?」
高井:「喫茶店に行って、ゲームセンターで遊んで帰ってきたんだよ」
シン:「そうか、そうだよねぇ・・・、わかったよ、じゃあね」

5分後

シン:「ねぇ、俺って今日何処に行ってきたんだっけ?」
母親:「高井君に電話してちゃんと聞いてみなさい」
シン:「そうか、そうだよねぇ・・・」

シンは、高井の家に電話をした。

シン:「ねぇ、俺って今日どうしてた?」

高井は自分が突き飛ばしたので、今まで俺の質問に黙って答えていたが
3回も同じ事を繰り返す電話をもらったので、さすがにまずいと思ったらしい。
高井:「ちょっとさ、お母さんに替わってくれる?」
シン:「え? どうして?」
高井:「いいから、お母さんに替わって」
シン:「分かったよ・・・お〜い、お袋、高井が電話替わって欲しいって」

母親:「もしもし?」
高井:「あっ、高井です、こんばんわ」
母親:「なんか、何度も電話しちゃってゴメンナサイね。
でも帰ってきてから、なんか様子が変なのよ」
高井:「実は・・・今日バスケの練習しているときに、ケンカの仲裁に入って
階段の上から落っこちちゃったんです。
1分ぐらい意識がなかったんですけど、元気そうだったんで大丈夫だと思って・・・」
母親:「え!? そうなの?」
高井:「みんなで喫茶店に行ったときも、ゲームセンターに行ったときも
少し様子がおかしかったんで、病院に行った方がいいかも・・・」
母親:「解りました。ありがとうね」

母親は、父親が帰ってくるのを待って、車で自宅近くの救急病院に行った。
この救急病院は、祖母も父も姉も入院したことがあるので良く知っている。
救急病院に到着し、母親が医者に事情を説明すると
すぐに頭のレントゲンを撮ることになった。
レントゲンの準備が出来るまで、両親は手続きに行ってしまい
シンは待合室で1人、黙って座っていた・・・。



と、シンは急に我に返った。
そこは、見慣れた病院の風景だった。
『あれ? 俺って何でこんな所にいるんだろう?
だれか入院してたっけ? でもこんな夜遅くになんでここに来たんだろう?
ってそもそも、ここにはどうやって来たんだっけ? 誰と来たんだっけ?』
と、全くわけがわからなくて、頭が混乱してくる。
腕時計の時刻を見ると午後9時をまわっていた。
日付を見て、昨日の事を思い浮かべると、昨日の夜寝るまでの記憶はある。
しかし今日1日、何をやっていたか思い出そうとしても、全く思い出せない。
どうやっても、今日の朝起きたときからの記憶が無いのだ。
朝起きて必ず見るニュース番組、高校まで自転車で行ったこと、
受けたはずの高校の授業、高校から自転車で帰ってきたこと、
今日は中学校のバスケの練習に行くはずだったが、行ったのかどうか、
どれ一つとして、全く思い出せない。

ふと、後頭部が少し痛い。
触ってみると、小さいたんこぶができている。
触った手を見てみると、乾いた血のようなカスが付いている。
『???』

すると、両親が近づいてきた。
母親:「さぁ、レントゲンの準備が出来たから行くわよ」
シン:「え? なんで俺はこの病院にいるの? なんでレントゲンなんか撮るの?」
母親:「もう質問は聞き飽きたから、早く行くわよ」
シン:「いや、質問を聞き飽きたって、今初めて質問してるんですけど・・・」
と、シンの答えるのを無視して、レントゲン室に連れて行かれた。

わけが分からないまま、レントゲン室で頭のレントゲンを何枚も撮られた。
レントゲンを取り終えて、しばらく待った後、診察室に連れて行かれた。
先生がレントゲンの写真を見ながら、説明を始めた。
先生:「レントゲンの結果、頭蓋骨には、骨折やヒビのあとはみられません。
また、脳にもとりあえず問題はなさそうです。
現在の状態を見る限り、外傷による一時的な記憶障害だと思われます。」
母親:「で、治るんでしょうか?」
先生:「多分、一時的な問題で、1〜2日で治ると思います。
今日は様子を見て、明日も様子がおかしいようであれば、昼間に連れて来て下さい。
ただ、頭痛や吐き気を訴えるようであれば、すぐにでも連れてきて構いませんので」
母親:「解りました、ありがとうございます」

結局そのまま自宅に帰って、母親から事情を聞いた。
高井にも電話して、病院に行って来たことを話し
「もう、大丈夫だから」と言って、もう一度、詳細な話を聞いた。

と言うことで、その日1日の病院で我に返る瞬間までの記憶はまったく無くなってしまった。
なので、上記に書いた話は全て、母親と高井と高校の友人に聞いて
それらの話を総合した話である。
記憶が無いのに、書けるわけが無いからね(^^;。

ちなみに、この事故があった1年後、何気なくボーっとしてたら1つの記憶が戻ってきた。
そう、ゲームセンターでやっていたゲームを思い出しました。
ゲームは「リブル・ラブル」というゲームでした。
さらに1年後、またボーっとしていたら、ケンカの仲裁に入った瞬間の記憶が戻ってきた。
それ以外の記憶は、今でも戻りません(^^;。


その後


結局、記憶を無くした次の日は、高校を休んだ。
その次の日は高校に行ったが、休んだ理由を生徒手帳に書いて、担任に提出しなければならない。
なので、届け出の欄に「記憶喪失の為、休ませていただきました」と書いたら
担任に「サボるんだったら、もっとましな嘘をつけないの!?」と怒られた。(T-T)


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