披露宴は淑やかに
先日、友人が結婚した。
披露宴に招かれていたので、略礼服に白ネクタイ、どこから見ても結婚式の格好で出かけた。
これが苦しい。10年前の若き日に作った礼服だからな。全身を締め付ける。拘束衣のようだ。
遅刻しそうになったのであわててタクシーに乗るが、素直に電車で行くのと結局同じ時間になってしまった。
とうとう遅れてしまった。新郎新婦の入場より遅れて入っていったので、どんな重要人物の入場かと満場の来賓が注目してしまい、恥ずかしい思いをした。
遅刻の原因は寝坊ではなく、インターネットの乗換案内で日比谷への経路を確認していたら、ついつい別なページに見入ってしまったのだ、と弁明したら笑われた。
私の遅刻のことはどうでもよい。どうせ結婚式遅刻3回目だし。
今回の友人の披露宴はとてもシンプルであった。
ふつう新郎新婦、仲人、両親は会場の最も奥まったところに一段高くテーブルが据えられ、そこに並んで座るのだが、今回は会場中央に普通の丸テーブルを置き、そこで一般客と同じように座っていた。
お色直しは1回だけ。
キャンドルサービスはなし。そのかわり新郎が各テーブルに酒をついで回る。
ゴンドラもなし。スピーチも説教臭いものや長ったらしいものはなく、笑いを取っていた。カラオケも詩吟もなし。
こういうシンプルな挙式が好評なのであろう。
私も好感が持てた。
しかし、それとは逆に、ド派手な挙式への憧れも、私の中にはある。
玉姫殿とか紅葉閣とかでやっているといわれている、俗悪なまでのイベントの数々。
まずは、プロレスラーの入場にも似た、おどろおどろしい入場シーンである。
ゴンドラに乗って入場したい。
いやいや、ヘリコプターで宙吊りになって入場するのはどうだ。
スモークを無茶苦茶にたいて、それに包まれて入場したい。
やはり入場テーマは、アイ・オブ・ザ・タイガーであろうか。
キャンドルサービスは勿論である。
できれば蝋燭でなく、シュウシュウと火花を吹く松明を持って回りたい。
ポリネシアダンスを踊りながら放火して廻るのだ。
当然、友人は蝋燭の中に爆竹を仕込む悪戯をするのだ。
主賓席にはもちろん、直径2mの大ハートキャンドルがあるのだ。
それに点火した途端、賛美歌が響き、無数のシャボン玉が虹色に染まって宙を踊る。
ケーキカットも当然である。
ケーキは十段重ねの、全長二m。中は張りぼてである。
頂上には無数のローソクに取り囲まれ、まるで囚人のような新郎新婦の人形。
これをサーベル、いや手刀、違ったナイフで両断するのだ。
「お二人の初めての共同作業でございます」という司会の紋切調も欲しい。
お色直しも3回はしたい。
そのうち1回は、演歌歌手もびっくりの、きらきらラメ入りスーツ。
新婦のドレスは、裾を3mは引きずる超ロングで、少年少女が3人がかりで支えているのだ。
最後はやはり、新郎はピンクのスーツ、新婦は紫のカクテルドレスだ。
新婦は宝塚のフィナーレのように、羽根を背負って登場するのだ。
スピーチも古式ゆかしく執り行いたい。
仲人は、新郎の紹介では、必ず、「優秀な成績で」卒業したと言うのだ。言うのだぞ。
もちろん新婦は、「才色兼備の才媛」なのだ。いいな。
新郎叔父は、必ず三つの袋の人生訓を持ち出すのだ。三つの袋とは…ええと、堪忍袋と、知恵袋と…金袋だったっけ?違うか、玉袋?まさか。沼袋でもない、池袋でもない…風袋は風神だし、頭陀袋は一休さんだし。
新婦友人は、絶対、「てんとう虫のサンバ」を四人で歌うのだ。命令だぞ。
新郎友人は、必ず、新郎が酒で失敗した話を持ち出すのだ。ただし、酔って友人宅に泊まり込んだなどのたわいない、微笑ましい話に限る。いくら真実だからといっても、アルコール依存症で手が震えるとか、俯いて「小さな虫がうようようよ…」と呟いていたとか、笑えない話は駄目だ。
そして花束贈呈。
もちろん、まず五歳くらいの少年少女が新郎新婦に花束を渡すのだ。
そのとき、新婦が少女を抱き上げてキスするのも可。
ただし、新郎が少女にするのは不可。怪しすぎる。
花束はとにかく派手で、少年少女より巨大なことが望ましい。
それを新郎新婦は、年老いた両親に渡すのだ。さあ泣け、やれ泣け、泣かんと許さんぞ。
そして最後、新郎新婦は見送られて新婚旅行に出発する。
後ろに十数個のカンカラを結びつけたリムジンで、出発するのだ。
そういえばあれ、最近、見かけませんな。
道路交通法違反?
まあ、こういった、キッチュな挙式にも、憧れているのだ。
名古屋風結婚式とでもいうか。
でも、名古屋の人、ホントにこんなことしているのだろうか。
しねえよ。