安楽死探偵

kasumiだらだら日和 2010-02-15
日本初のトリックを考える
◇少し前から夫の人が、完全犯罪に見えるトリックを考えていたのだけれど、先日思いついたとかで暇なときにそのトリックの事を考えると良いと言われた。

◇ 当初から話を聞いたり、今まで読んだ作品のトリックの話をしたりしていたのだが、謎の笑顔を浮かべつつ『本の最初で落ちがわかったりするんでしょ?(マガーの4人の女という作品・被害者をあてる・こういうパターンだとこの人としただけで動機は終わりの方まで思いつかなかった)色々読んでいるんでしょ?ヒントは提示したからわかるよ』的な事をおっしゃりやがっております。

◇正直、活字中毒なので文章になって状況を思い浮かべないと面白くないと答えると『じゃあ無し。考えなくて良いよ。忘れて』などとおっしゃりやがります。気持ち悪いです、宙に浮いたわからない答えを抱えたまま、執念深い性格をしているせいで、やたらとその事を考えては良くわからない答えにイライラするという状況。とはいえ、忘れてと言われた事をしつこく聞くのも気持ちの良い事ではありませんし、夫の人の性格からすれば『無し』と言った事は無しで終了なので、これはもう自分なりの答えが出るまで、延々思い出す生活が続く事になるのです。うみゅう。

◇そんなこんなで忘れないようにめもめも(夫の人もこのブログを見るので整理も兼ねて)

『どうやって犯行が行われたか』

・舞台:海辺の老人ホーム『シーサイドクラウド』

・現場:被害者トメの部屋

・犯人:被害者のいとこ:次郎

・動機:トメは次郎に遺言で遺産を残しているが、駆け落ちした娘の子供(孫)が見つかり、孫に遺産を残そうと考えを変えようとしていた。次郎に財産は無く、現在のホームの料金もトメが出している。遺言書を書き換える前にトメを殺害した

<状況>

・トメは室内で至近距離から殺されている(撲殺or刺殺)

・部屋は施錠されている

・鍵はリモコンキーで死亡時にはトメが持っている

・トメは14階の部屋に住んでおり、窓の外から侵入・脱出は不可能

・トメは体が不自由で車椅子で移動する。自力で動かす事は可能

・トメの部屋は二部屋の続き部屋で寝室とリビング

・次郎も14階の部屋に住んでおり、トメの部屋に繋がるドア、ベランダなどは無い

・14階にはトメと次郎の部屋しかない

・トメと次郎の部屋の作りは同じ

・次郎は体が不自由で車椅子で移動する。自力で動かす事は可能(トメと次郎は同じ健康状態と考えてよい)

・時限装置は使っていない(ハンマーが落ちるなどの方法は使用していない)

・次郎が直接殺害している

・共犯者はいない

◇夫の人曰く、安楽死探偵(安楽椅子探偵の事を言っているらしい。死んでいたらだめだと思う)ものだそうで、小説になった時は、同じ老人ホームの、やはり車椅子に座ってしか移動出来ない探偵であるマリコが自室でトリックをあばくらしい。

「いやあ、久しぶりですなあ」
 鈍那警部は一礼した。
「久しぶりすぎますよ。あれから、ぼくと可須美は結婚しちゃうし」
「そういえば、お子さんも二人できたとか」
「家中しっちゃかめっちゃかで、うかつにアニメのポスターも広げられやしない」
 ぼくはぼやいた。
「そんなことより」と可須美は制した。「どのようなご用なのですか」
 鈍那警部はようやく脱帽した。禿頭に数筋の髪の毛が、未練たらしくへばりついている。
「……というわけで、事情を知っているらしいマリコさんを、安楽死から黄泉返らせてほしいのです」
「なるほど」

 やがて呪文のリズムは早くなり、それが頂点に達するころ、死せる探偵が神降りる。
「私はマリコ……私を呼ぶのはだれ……」
「私です。警視庁の鈍那警部です。実はどうしてもお尋ねしたいことがありまして」
「……ううっ、苦しい……」
「霊界で苦しんでおられるのですか」
「いや、痰がからんで息ができない。吸引しておくれ……」
「でも、それって医療行為だから、医師か看護師でないと……」
「うう……死ぬ……」
「わかりました。私がやりますってば」

「はあ……。はあ……」
「落ち着きましたか」
「うう、ちと便意が……」
「わかりました。私が介助します」
 ぼくは感心して鈍那警部を見つめた。
「手慣れてますね」
「おふくろが認知症で、ヘルパー講座にも通ったこの技でさぁ」
 可須美の、いやあくまでマリコの布オムツを慣れた手さばきで交換した警部は、ようやくマリコに向き合った。
「トメさんを殺した犯人、マリコさんにはわかりますか」
「わかっていました。甥の次郎です」
「しかし、次郎はトメの部屋に入ることはできない……」
「殺されたトメさんの部屋はどんな状態でしたか」
「外から入ることのできない密室状態で、トメさんがひとり、車椅子に座ったまま死んでいた。部屋には他にだれもいない……」
「ところが、いたのです」
「な、なんですと!」
「トメさんも次郎も、そして私も車椅子で入居している老人ホームといえば、介護付き老人ホームに決まっています。つまりホームの住民には、看護師と介護士がケアを常時行っている。ここまで言えば、もうわかるでしょう」
「ま、まさか次郎が、”見えない犯人”として……」
「そう、介護付き老人ホームなら部屋にいて当たり前の、そして誰も気にしない、ヘルパーに化けていたのです。ヘルパーなら老人の死に付き添ってもなんの不思議もない。密室にいた人間としてカウントされていない」
「しかし、次郎も車椅子……」
「次郎は仮病ですよ。歩けないことにして介護認定調査員を騙し、介護認定3を詐取したのです。私は彼が歩いているところを見ました。だから投薬され、殺された……」
 薄れゆくマリコの姿を必死に追い、鈍那警部は最後の質問を放った。
「し、しかし、”見えない犯人”は、すでにチェスタトンが……」
 かすれゆく声で、マリコは最期の言葉を発した。
「それはイギリス……日本初とはいっても、世界初とは言ってない……」
「そ、それはずるい! アンフェアだ!」
「……イタコだけに……言ったことに……責任……持てな……」


安楽死探偵(半茶)の尻馬に乗りました。


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