大仏戦隊ゆう・もあV「第2話・浅草を救え!」

 きょうも早朝から観光バスが駅前に横付けにされ、老若男女、いや正確に言えば老男女がうじゃうじゃとたむろする浅草の街。そのなかでももっとも混雑するのが、雷門から浅草寺までの、いわゆる仲見世通りだ。炒り豆、人形焼き、揚げ饅頭はもちろん、新選組のハッピから「忍耐」と書いたTシャツから国辱もんのユカタからガンダムプラモからキティちゃん東京タワーハンドタオルまで、売っていないものはないというくらいの多彩な品揃えだ。さらにそれを買っていく奇特な客も絶えない。
「ぐごごごごごご」
 突然イヤな音とともに、雷門の巨大なチョウチン(松下幸之助寄贈)がぱっくりと割れる。
「ぶしゅしゅしゅしゅしゅしゅ」
 チョウチンの割れ目から、黒っぽい、いや真っ黒いといっても過言ではない液体がスコールのように群衆に降りそそぐ。
「ああっ、あれは何だ?!」
「世界ではじめての怪獣だそうだ」
「おまえは中岡俊哉か!」
「しょ、しょっぱい!」
「とても飲めないくらいしょっぱい!」
「こ、これは盛り蕎麦のツユだわ!」

「ふふふふふ、その通り。それこそ蕎麦通のあこがれ、並木藪蕎麦のツユであるぞ。ありがたく食らえ」
 浅草駅前の秘密基地で伝奇ブランを傾けながらスクリーンを眺める謎の男。そう、それこそ、茨城から世界制服を狙うシャトーカミヤ伯爵なのだ。一説によると公爵かもしれないが、それは些細な問題だからどうでもいい。
「ふふふふふ、まさか東京にわがシャトーカミヤの秘密基地があるとは、あのゆう・もあVも気づくまいて」

「ところが、気づいたんだっぺ」
 突然スクリーンに現れるゆう・もあレッド(通称レーガン)。
「つくばエクスプレスが混んでて、ちょっと遅れたのよ。ごめんだっぺ」
 隣にはゆう・もあピンク(通称夜這い)。
「嘘だぜ、ねえちゃんは秋葉原でメイドやいとのバイトしたから遅くなったんだっぺ」
 暴露するゆう・もあグリーン(通称鴨)。
「んもう、グリーンったらっ」
「いくぞ、蕎麦湯シャワーでごんす」
 背中のボンベから白濁した湯気の立つ液体を噴射するゆう・もあイエロー(通称ヘルペス)。たちまちのうちに蕎麦ツユは薄められ、飲みやすいものになっていく。
「ああ、おいしいわ!」
「ダシの味がしっかりしている!」
「さすが藪の味だぜ!」
「もうちょっと盛りの量が多けりゃ、言うことないのにな」
「ざるの向きが逆だったらなあ」

「おおおおのれ、ゆう・もあVめ。よおし、ゆけ巨大天丼ロボ!」
「えびびーん、えびびーん」
 通常サイズでさえ完食できるかどうかわからない、蓋が閉まらないほど巨大な「まさる」の天丼。しかも天然物ぷりぷりの車海老はゴマ油で黒っぽく揚げられ、さらに甘じょっぱい濃厚なタレで真っ黒に染められている。それがさらに「大黒屋」の天丼と細胞融合し、おまけに巨大化したのだから、その恐ろしさはいかばかりなものか。
「いやん、あたしダイエット中だっぺ」
「ピンク、逃げるなっぺ」
「すまん、俺はちょっと痛風の気があってエビは駄目だっぺ」
「ブルー(通称天狗)、お前まで」
「おいどんならこんな天丼、ひとくちでぺろりでごんす」
「おお、頼もしいぞイエロー」

「馬鹿め、まさるの天丼の恐ろしさを知らぬとは。……おい、ちょっと遊んでやれ」
 シャトーカミヤ男爵の命令で、天丼ロボはかじりついたゆう・もあイエローを乗せたまま、ゆっくりと動きはじめる。
「ひいいいい、こ、怖いでごんす」
「いかん、イエローは高所恐怖症気味なんだっぺ」
「ふははははは。それこそ、今流行の高速最先端マシンとはひと味違う、高空をゆっくり、民家とすれすれに走ることにより、じわじわと恐怖を植えつけてゆく、花やしきスカイハイ攻撃だ!」
「ああ、イエローが危ない! 発進!大仏ロボ!」
「がごごごごごご……」
 茨城方面から轟音とともにやってきた巨大大仏ロボ。天丼ロボに殴りかかるが、油でつるつるすべって当たらない。逆に天丼ロボの吹き出す「やげん堀」の七味唐辛子を目に浴び、のたうちまわる。大仏ロボ、ぴーんち!

「兄ちゃん、こうなったら浅草寺の力に頼るしかないっぺ」
「そうかグリーン、よし、香炉の煙をあびせるんだ!」
 浅草寺の巨大香炉の煙を浴びてたちまち頭がよくなった大仏ロボ。天丼ロボの弱点を解析し、反撃する。
「染太郎お好み焼き返し!」
「えびゃびゃーっ!」
 ひっくり返されて丼がじゃまになり、じたばたするだけの天丼ロボ。
「桐生堂組紐ウィップ!!」
「えびょびょびょびょびょ」
 絢爛にして堅牢な組紐でしばきたおされ、ふにゃふにゃになったコロモがぼろぼろに剥がされ、すっかり弱点を露呈してしまった天丼ロボ。今だ、必殺技!
「浅草土産といえばこれで決まり、常盤堂雷落とし!!」
「えびびびゅびゅびゅびゅびゅびゅ!」

 こうして浅草の平和は守られた。しかし、シャトーカミヤ子爵の野望が潰えたわけではない。現にシャトーカミヤの浅草秘密基地はきょうも繁盛してるぞ。ビールをチェイサーに伝奇ブランを呑むのが通だ。煮込みもうまいぞ。ジャーマンポテトは下町の味だ。戦え、ゆう・もあV。負けるな、ゆう・もあV。頑張れ、ゆう・もあV。

「うふふ、あたしとレッドのこれからを、浅草寺で占うの。ああいつふたりは結ばれるんだっぺ」
 戦いすんで、私服のピンクは浅草寺にお参りし、賽銭を投じてからおもむろにおみくじを引く。84番。
「凶。待ち人来たらず。縁談まとまらず。よろずにわろし」
「…………」


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