星野王国の崩壊

「いやー、びっくりしましたねー星野監督の解任」
「解任じゃねーよ! 病気だから、自分から辞めるって申し出たんだ」
「たしか原監督もそんなこと言ってましたけど」
「こんどは本当の話なんだよっ!」
「でも驚きました」
「優勝監督だし、日本シリーズの前日だもんな」
「セリーグって、成績がいいと監督やめなきゃならないんですね」
「そっちの驚きかよ! まあ、たしかにAクラスの阪神、中日、巨人の監督が辞め、Bクラスのヤクルト、広島、横浜の監督がなぜか残ったけどな」
「ヤクルトの若松監督なんか危なかったんですよー。あとひとつ勝っていたら、原監督じゃなくて自分がクビだったんですから」
「そういう決まりは別にないよっ!」
「古田がすごく悔しがってましたよ。もうちょっとでオレだったのに、って」
「古田はほっといても来年監督だろっ!」
「星野監督、たしかジェネラルマネージャーへ人事異動でしたっけ?」
「普通に監督退任、GMに就任でいいんだよ! 人事異動って言葉、よその球団が使ってどえらくヒンシュクを買ったんだから!」
「で、後任がオカマ監督」
「岡田だよ! 十何年も前に女と間違えてオカマと寝たなんてこと、いちいち思い出してやるなよ!」

「それにしても、星野監督の辞任で、日本シリーズは盛り上がるでしょうね」
「まあな、星野監督が日本一になる、最初で最後のチャンスだからな」
「阪神の選手が星野監督の遺影を抱いて入場」
「まだ死んでないよ! 優勝のとき抱いていたのは、星野監督の奥さんの遺影だ!」
「ダイエーはこれに対抗するため、藤井選手の遺影を持ち出す」
「対抗しているわけじゃない!」
「星野監督夫人か、藤井選手か、さあどっちの守護霊が強くて、自軍を勝たせられるでしょうか。どっちの霊力ショー!」
「そんな勝負してねぇ!」
「『王監督、ちょっと劣勢です。このままでは負けてしまいます!』『よし、非常手段だ。うちの奥さんの遺骨を出せ!』」
「そんなもん、持ち出すなよ! 盗まれただろが!」
「『星野監督、逆転されました!』『よおし、こうなったら道頓堀であと四、五人殺してこい!』」
「そんなこと言うわけねえだろ! 星野監督、道頓堀で飛び込むような奴は阪神ファンじゃねえ、って怒ってたくらいなんだから」
「でも阪神が前に優勝したのも、球団社長が死んだからでしょ?」
「それが原因なわけじゃない! まあ、死んだ人のために、残された者ががんばろう! って団結して発憤する効果はあるだろうけどな」
「その点おまえは駄目だな。親しい人が死んだからっていつまでも落ち込んでグズグズ言ってる、女々しいタイプだからな」
「オレのことはどうでもいいよ!」
「まあ、道頓堀で死んだファンの分は、かに道楽のもがれた目玉の呪いで、チャラらしいけどな」
「そんなわけねえだろ!」


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