奇跡の雑文書き

「こんばんはNHKスペシャルの時間です。今日は感動のトゥルーストーリィ、涙のノンフィクション、衝撃のドキュメンタリィ、なんと脳性マヒに冒されながらも、お母さんの手助けでネットに雑文を二百以上も書いているという、はるよし君の登場です」
「ではどうぞ! あ、お嬢ちゃん、おいくつかなー?」
「あたしは障碍者じゃありませんったら」
「あ、失礼しました。つい見かけで判断してしまって。お母さんですね?」
「お母さんが抱いているこの不細工な人形みたいなのが、はるよし君ですね。で、雑文はどう書くのでしょうか」
「不細工だけ余計ざます。はるよしの目の動きに従って、あたしがこの文字盤キーボードを動かすのです。ほら、こんな具合に」
「おおっ、凄い早さだ。普通の人でもこんな早く入力はできませんよ」
「ときどきチャットもしていますから」
「まさに奇跡の雑文書きですね!」
「すいません、いまはるよし君、目を閉じていたように見えましたが……」
「それでも母親のあたしにはわかるんです! きぃぃぃぃっ!」
「し、失礼しました。では、はるよし君の書いた雑文を紹介していきましょう。『大海原に漕ぎ出す小舟のように、私の心は揺れ動き……』すいません、はるよし君は脳性マヒでずっと家か病院にいたわけですよね。それで大海原などという比喩を使うというのは……?」
「うるさいわね、きぃぃぃぃぃっ! はるよしは三千冊以上の本を読破したんざます! その比喩も本から取ってきたんざます!」
「本から受け売りの比喩って、それって、少なくとも文学としての価値は皆無だと思いますが……こほん、続けます。『大阪オフの間じゅう、私は比較級作戦を発動した……』すいません、はるよし君はオフ会になんか参加できるのでしょうか?」
「まだ疑ってるのね! めそめそめそ。いいわみんなで障碍者の家庭を笑いものにするのねめそめそめそ。ほら、はるよしも悲しんでるめそめそめそ」
「いえ、そういうわけでは……ちょ、ちょっと、はるよし君の背中に、穴が開いてますけど」
「しかもお母さん、そこから右腕をつっこんではるよし君の頭を動かしてましたけど」
「こんな信じてない人ばかりでは、はるよしも動揺して本来の能力を発揮できないと思ったから、こういう措置を取ったんざますめそめそめそ」
「つーか、そんな胴体に大穴あけられて、はるよし君とっくに死んでるんですけど」
「死んでるのは脳神経だけざます!」
「いや、冷たいし、内蔵抜かれてるし」
「でも生きてるんざます。定説ざます」
「とりあえず、われわれスタッフは確認しました……」


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