またまたタイガース・ジョーク

 野村監督辞任。久万オーナーは後任監督になってくれるよう星野氏を説得するが、星野はなかなか承諾しない。
「だって、あの阪神でしょう……来るときは三顧の礼でも、そのうちボロクソに言われだして、最後は犯罪者呼ばわりされて追い出される。ちょっとねえ」
「馬鹿だな星野君。阪神だってそんなひどいことはないよ。そうだ、いいものを見せてやろう。阪神でも監督がうまくやっていけるという、生きた証拠を」
 久万は星野を阪神パークにつれだし、ある檻を見せた。檻の中では、虎と子羊が仲良く暮らしている。
「これは驚いた! こんなことができるんだったら、私も阪神でうまくやっていけるかもしれませんな。しかし、どうやって虎をおとなしくさせたんです?」
「なに簡単だよ。三日ごとに、新しい子羊を檻に入れてやればいいのさ」


 野村阪神監督が辞任。その翌日、野村監督の息子カツノリに、坪井は告白した。
「ぼくは打算なしにきみの親友だって、いま初めてわかったよ」


 野村前監督は阪神の永久欠番に選ばれた。
 あんなに悪いことをしたのに?
 だいぶライバルを潰していったからね。


 イエス・キリストの奇蹟。
 五千人の人々を四個のパンで食わせた。
 星野監督の奇蹟。
 ひとつの拳で七十人の選手にパンチを食わせた。


「監督、今年のスローガン、Never Never Never Surrenderって、どういう意味ですか?」
 と聞いてきた福原の顎に、星野監督はいきなりパンチ。
「これがネバーじゃ」
 のけぞる福原の腹に、こんどは強烈なキック。
「これが次のネバーじゃ」
 崩折れる福原に、さらにサッカーボールキック。
「これがみっつめのネバーじゃ。わかったか?」
 息絶え絶えになりながら、福原は答えた。
「わ、わかりました。とりあえず最後のサレンダーを言うまでには、敵はひとりも生き残っていないってことが」


 星野監督はバッティング練習を見てなげいた。
「どうして阪神のバッターには、速球に振り遅れるひょろひょろ野郎か、変化球についていけない振るだけの筋肉バカしかいないのだろう」
 田淵コーチは楽天的に答えた。
「なに、ものは使いようです。次は変化球を投げるなと思ったらひょろひょろ野郎を、速球だと思ったら筋肉バカを打席に送ればいいじゃないですか」
 あまりにも馬鹿げた構想に、星野監督はかっとなって怒鳴った。
「そんなことできるもんか! いったいどうして、次が変化球か速球かわかるんだ!」
「ダイエーじゃわかってましたけどね」
「じゃ、なんでダイエーでは勝てなかったんだ」
「どっちも打てる選手ばっかりだったんで、この作戦が使えなかったんです」


 星野監督はピッチング練習を見てなげいた。
「どうして阪神のピッチャーは、前途有望な若手と、ひょろひょろ球のベテランしかいないのだろう。育成が間違っているんじゃないか?」
 御子柴ピッチングコーチはむっとして言い返した。
「ちゃんと育ててますよ。若い選手にはこう言い聞かせて指導してるんです。みんな、頑張って練習して、オレのような投手になれ、って」


 キャンプになって、いきなりバッティングフォームを変えるなどということができるだろうか?
 できる。その場合、三つの状況が考えられる。
 第一に、フォームを変えるのが君でない場合。
 第二に、君が投手の場合。
 第三に、星野監督が命令する場合。


 田淵コーチが濱中選手に新しいバッティングフォームを教えている。
「いいか、ここで腰をぐっとねじって、インパクトの瞬間にその回転エネルギーが解放されるようにするんだ。理論的にもそのほうが飛距離が伸びる。ボクはこのフォームでホームラン王になったんだ」
「でも、田淵さんの時代にはラッキーゾーンがあったでしょ。狭い球場では通用しても、いまの広い甲子園では……」
「ばかやろう、ホームランは球場の広さや理論で打つもんじゃないんだ。根性だ、根性で打て!」


 田淵コーチは神童だった。なにしろ八歳のとき、すでに今と同じくらいの知性をそなえていたのである。


 阪神の若手選手が、広島の若手選手に話しかけた。
「ねえ君、なんだってそんなに狂ったように練習してるんだい?」
 広島の若手選手は練習の手も休めず、汗をかきながら答えた。
「早く一軍に上がりたいからね」
「一軍に上がると、なんかいいことがあるのかい?」
「給料が上がるじゃないか」
「給料が上がって、どうするんだい?」
「そしたら貯金をして、老後はのんびりと遊んで暮らせるじゃないか」
「ふふん、なら僕を見ろよ。もう遊んで暮らしているぜ」


 野村と東尾と仰木の前監督トリオが、久しぶりに野球見物に行くことになった。
 まず甲子園球場へ。野村前監督が舌打ちをする。
「今岡がホームラン打ちよったで。連中、ID野球を捨てたな」
 次ぎに西武ドームへ。東尾前監督がうめく。
「松井がバントしやがった。連中、管理野球を復活させたな」
 最後にグリーンスタジアム神戸へ。仰木前監督はべつに驚かない。
 ホームランを打った四番バッター高橋智を、満面の笑みを浮かべて上田臨時監督が出迎えていた。


 新生星野阪神誕生。しかし成績は相変わらずぱっとしない。怒ったファンは早くも星野おろしを始める。困った星野は、野村前監督の残していった第一の書簡を開く。そこにはこう書かれてあった。
「すべての責任を私に押しつけよ」
 その通りにしたところ、しばらくファンは沈静化した。しかし成績は相変わらずで、またもファンが騒ぎ出した。星野は野村の第二書簡を開く。
「私とまったく同じように行え」


戻る          次へ