「せんせ残念やったねぇー」
「どしたのトウジ」
「惣流からチョコ貰い損ねそこねたな、っていいたいのさ。トウジは」
「そうそう。今は遥か遠くのドイツの下。いまごろは別の人に贈ってるかもよぉ」
「へんなこと言うなよ。アスカが日本に居たって、そんなのくれる訳ないじゃないか」
少し赤くなりながらシンジは抗議した。
ピポッ
「あ、メールが来た。誰からだろ」
二人のからかいから逃れる天の助け。
シンジは自分の席に戻ってメールを開けたところで
‥‥ 手が止まる。
「‥‥」
シンジが硬直したのをいぶかんだ二人も横からシンジの端末を覗いて固まった。
トウジとケンスケは顔を見合わせて、
From: asuka@de.nerv.un To: shinji@tokyo3-jh.ac.jp あんたんとこにひとつ送ったからね! あんたもこっちの習慣に合わせてなんかよこしなさいよ!
「で、あとは待つだけ。ところで綾波は誰に贈るの‥‥ って訊いちゃいけない、ね」
「それは明日のお楽しみ」
「へ?」
レイを送った帰り道。シンジは自分も作っていた理由を思いだして、青くなった。
まずい。
「そうだ、アスカにも送っとかなきゃ。今から送って ‥‥」
届く迄にかかる時間を勘定する。
一度も使ったことのないネルフ専用の特急便を使うとして。
「時差があるから間に合うか。よかった ‥‥」
間に合わなかった時のことは考えたくもないシンジ、
初めてネルフに居てよかった、と思う瞬間だった。
翌日、2016 年 2 月 14 日。
レイは 2 時間目から登校してきた。
「綾波、どしたの?」
「ん、本部にね、ちょっと」
「あ、やっぱり」
シンジ、トウジ、ケンスケの三人は、
昨日の自分達の予想が当たったことに満足して顔を見合わせた、その傍ら。
レイは鞄を開けてきれいにラッピングされた小箱を取り出した。
「はい。碇君」
「!」
「せんせ!」
「なんだやっぱりシンジなんじゃないか‥‥」
驚くトウジと肩を落すケンスケ。シンジはその小箱を見つめてつぶやく。
「違う‥‥」
「違うって何が?」
それには答えず、シンジはレイを見上げて問いかけた。
「これ、家で作ってたのと違う‥‥ よね? こういう大きさじゃなかった」
「うん。家に戻ってからもう一度作ったの。
レシピ全部まるごと覚えておくの大変だったんだからね」
「じゃ、家で作ったのは‥‥」
「それは碇君と私からって、碇司令と副司令に渡したの」
「‥‥」
「そんな不思議そうな顔しないの。
ユイさんからの分も私が持って行ったんだし、けっこ好きなんじゃない?」
「父さんがチョコ‥‥ 父さんがチョコ‥‥ 父さんがチョコ‥‥ 父さんがチョコ‥‥」
「あれ?」
想像するだけと違い、事実と分かるとそれは重かった。
その重みにシンジは潰されてしまっていた。
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作者コメント。 Evangelion Genesis y:x 16 話の頃の アスカがドイツに居る時の話。 y:16 は、まだ出来てないけど....