薄井ゆうじの森
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『台風娘』 戻る

あとがき

信じられないかもしれないけれど、これは実話である。僕自身に起きたことではなく、友人の五十嵐くんから聞いた話だ。彼はその夏、こともあろうに台風と恋に落ちてしまった。


 そのときに起きた事実を彼はそのまま僕に話してくれた。僕はその驚愕すべき出来事のすべてを克明に聞き出して、ありのままに、できるだけ忠実にここに書き記した。だから、この物語のなかで「シンジラレナ〜イ!」という部分がもしあったとすれば、それは僕の責任ではなく、ひとえに五十嵐くんの細部の記憶違いによるところなのである。


 細部はともかく、大筋においてこれは事実である。僕の友人の五十嵐くんは市の水泳大会で四位に入ったこともある人物だし、そんな彼が嘘をつくはずはない。僕だってブラスバンド部で六年間もフルートを吹いていた人間だ、わざわざありもしない話を友人の名を借りて捏造するはずがないのである。


 台風と恋に落ちる――。何度も言うけれど、これは実際に起きた出来事である。僕が嘘をつくような目をしているだろうか。嘘だと思うなら、いますぐ見に来てもらってもいい。僕は白目がちの、濁った純真無垢な目をしているはずだ。それにしてもまったくもって世の中というものは、想像を絶することが次々に起きるものだ。目が離せない。ことにこれは台風に関する物語だから、いっそう目が離せない。


 この物語は『イン☆ポケット』誌に一年間にわたってリアルタイムに連載された。つまり、五十嵐くんの恋の進行と同時に、僕は彼から聞いた話を、聞いたその時点の事実だけを脚色せずにそのまま書いた。事実以外のことがあるとすれば、友人の五十嵐くんの名前はともかく、台風のプライバシーを守るために、登場する台風の名前だけは仮名とした。彼女にも都合というものがあるはずだし、社会的に守られるべきプライバシーもあるのだから。


 話は違うけれど、最近、僕はよく夢を見る。夢のなかで僕はものすごく嘘つきになって、無茶苦茶なことばかり言いつづけているのだけれど、夢から覚めてもその状態がつづいているような気がしてならない。単なる気のせいだろうか。気のせいばかりとは言えないような気がしないでもないこともないこともない。

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一九九五年十二月 夢のなかで   薄井ゆうじ

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