'06年全日本吹奏楽コンクール課題曲III
「パルセイション」

 「パルセイション」に関するご質問が掲示板にたくさん寄せられましたので、ここにまとめて背景やら楽曲解説を掲載することにしました。文章で理解したからといって即演奏に反映できるとは限りませんが、一言のヒントで突然曲の本質が見えるようになることもありますので、作曲者の視点でなるべく丁寧に解説してみました。

4 楽曲解説その2(56〜91小節まで)

 本当は緊張感を張りつめたまま5分ずっと盛り上げようかとも思ったのですが、あまりに疲れる曲になりそうだったので中間部Bを設けることにしました。主要部Aとの対比を鮮やかに出すことが大切です。A部分の特徴をおさらいすると、前進するパルスとそれを押し上げるパルス、二方向のエネルギーによって緊張感を高めつつ、その上を旋律がハーモニーごと大きくうねって盛り上がっていく、という構造でしたが・・。

 中間部Bを細かく分けるとa(56〜71小節)-b(72〜77小節)-c(78〜91小節)となります。パルスは相変わらず発信し続けるし、メロディも延々続いていきますが、ひとつ大きな違いは、押し上げるパルスが存在しないことです。だんだん楽器は増えて、メロディも厚いハーモニーを伴うようになりますが、A部分と違ってテンションの張り具合が一定なので、音楽はあくまでやわらかく進行していきます。それゆえ中間部だけは演奏側も聴き手側も圧迫を解くことができ、再現部からクライマックスへのハードな盛り上がりに備えることができる・・、はずです。鳴らしやすいからといって、中間部でやたらとドラマチックに盛り上がってしまうと、再現部に戻った時の印象が薄れ、全体の構成を台無しにしてしまうので気をつけましょう。

 中間部(56小節から)のパルスは、A部分でのように気を押し出したり押し上げたりする必要はありません。一本の線の上を淡々と進んでいく感じで奏しましょう。ピッコロとグロッケンのパルスはなるべく音の移動に意識をおかず、同音をうち続けているような感じで少々無表情に演奏するくらいでいいでしょう。

 クラリネットの音型は冒頭のユーフォの音型のミニチュア版です。書き方が煩雑になるのでいちいちクレッシェンドを入れなかったのですが、二拍目のテヌートに向かってほんの少しクレッシェンドする感じです。二拍ごとに打ち直す意識を持ってください。ただし音量が大きくなりやすいので淡々と抑えめに。その中でフルートのメロディだけは柔らかくフレーズを歌って下さい。歌うことは大切ですが、粘ったりうねったりは必要ありません。あくまで優しく。A部分のメロディが海底を行くエイの泳ぎのような大きいうねりなのに対し、ここでは蝶が静かに舞っていく雰囲気をイメージしてみてください。

 中間部Bのはじまりが静かでメロディもきれいなのにどことなく奇妙な感じがするのは、ピッコロとグロッケンのパルスがイ長調主和音の分散和音なのに、同時に演奏しているフルートの旋律はハ長調、クラリネットの動きはヘ長調であるところでしょうか。こういう多調的な響きを作曲者はとても気に入っているんですが。

 63,64小節と70,71小節は突然A部分がフラッシュバックします。強弱はpですが、この2小節だけ突然緊張感を高め、パルスも息を前に押し出し、Timpのアクセントも音量は小さいがドスを利かせ、テナーサックスとユーフォの音型も短いけれど緊張感を持ってうねりましょう。そしてすぐに緊張を解除してシュールで柔らかい中間部に戻ります。ポジとネガが瞬間入れ替わるような鮮やかな対比がほしいです。

 72小節からパルスがファゴットとバリトンサックスに移ります。音色にやや重量感はでますが、ここでもパルスをPushしたり押し上げる必要はありません。音の移動に意識をおかないように、同音を打ち直すようなつもりで跳躍しましょう。淡々とした乾いたイメージです。その上をCl.とSaxのメロディがやはり柔らかく歌っていきます。

 78小節からはパルスがピッコロ、フルート、グロッケンになり、メロディはユーフォ中心、ハーモニーはホルンが担当し、クラリネットの合いの手も入ってきます。ここからのパルスは信号音のように無表情でかまいません。不必要に気持をこめるとうるさくなりますので、あくまで淡々と機械的に。グロッケンの一オクターブ跳躍も動きが立ちすぎないよう気をつけましょう。ここで難しいのはホルンの四声のハーモニーかもしれません。トップだけでなく四パート全部が同等に目立ちますので、ここの13小節間のホルンパートは均一の音量バランスとしっかりしたピッチでハーモニーを作れるよう、また息をそろえてフレーズを歌えるように何度も練習することをお勧めします。ユーフォのメロディ、ホルンのハーモニーとも、柔らかく美しく歌ってほしいですが、あまりドラマチックになりすぎないように。88〜91小節の四小節間で静かにdimし消えていきます。

1 はじめに
2 取り組み方
3 楽曲解説その1
5 楽曲解説その3