'06年全日本吹奏楽コンクール課題曲III
「パルセイション」

 「パルセイション」に関するご質問が掲示板にたくさん寄せられましたので、ここにまとめて背景やら楽曲解説を掲載することにしました。文章で理解したからといって即演奏に反映できるとは限りませんが、一言のヒントで突然曲の本質が見えるようになることもありますので、作曲者の視点でなるべく丁寧に解説してみました。なお指揮法については一切触れていません。

2 取り組み方

 まずタイトルですが、曲が出来上がったあとでその雰囲気を出せる言葉を探しました。"Pulsation"の意味は、「脈拍」「拍動」「鼓動」「動悸」「波動」「(音の)振動」「(電流の)脈動」などなど。とにかく5分間パルスを発信し続けて、じわじわ緊張感を押し上げていく曲です。コンクールに多い発散開放感動型吹奏楽曲とは対極の、ものすごく疲れる(体力的にも精神的にも)曲かもしれません。

 きれいなメロディを気持ちよく吹くのは自由曲や定期演奏会でやっていただくことにして、この課題曲では「パルスを延々発信し続ける」「苦しい息継ぎをやりくりする」「厚い音響のなかで音量バランスを調整する」「長いフレーズの緊張をキープしつつ更に盛り上げ続ける」「メロディだけ目立たせるのでなく、いつも中・低音の響きを充実させる」「複雑なハーモニーのピッチを安定させる」といった吹奏楽歴2〜3年の人には気が重いであろう数々の試練に立ち向かっていただくことになります。ただしこれらは根気はいりますが、しっかりした克服意識を持って練習に取り組めば2〜3ヶ月でかなり上達でき、この後クラシック作品を演奏するときにもかなり役立つはずです。しかも、いくら練習しても指が回らないとか変拍子に乗れない、といった技術的リスクはかなり低めですし、音が厚く複雑なのでピッチの微妙なズレもそれほど気にせず響きの厚みを作れます。練習量、取り組む姿勢や情熱が確実に演奏に反映されますから、技術レベルの如何にかかわらず、努力した分だけ報われる曲といえるでしょう。

 生徒さんたちの可能性を引き出すためには、とりわけ指揮者のスタンスが大切です。指揮者が「わけわかんない」とか「無調は嫌いだ」とかいった恐怖感を持つと、もうそれだけで生徒全員が暗示にかかって実力が発揮できなくなります。反対に「これ面白い」とか「やってみたい」と思って工夫しつつ音楽と向かい合う先生の元では、生徒さんは必ずいい演奏ができるはずです。

 まず指揮者の皆さん、「参考CDを丸暗記、指揮はピアノのコンデンス・スコアだけ見て振る」というのは絶対にやめましょう。そういうアバウトな姿勢で魅力を引き出せる曲ではありません。必ずフル・スコアを見てください。移調楽器が多いので面倒でしょうが、模様を眺めるだけでもいいからフル・スコアをじっくり見てください。全体の縦のバランスと横の構成を理解することで、この曲の面白さが自然と見えてくるはずです。

1 はじめに
3 楽曲解説その1
4 楽曲解説その2
5 楽曲解説その3