2015.08.06

夕方、廿日市「さくらぴあ」にトリオ・ウシェルスの演奏会を聴きに行ってきた。フルートオーケストラでお世話になっている熊谷美保さんのフルートを聞いてみようと思ったからである。家内も一緒に行って、まずはすぐ隣に最近出来たばかりの西日本最大という「ゆめタウン広島廿日市」を見学した。巨大な軍艦みたいである。中は広くてスペースが充分とってあって走り回れそうである。3階までがお店で4,5階が駐車場。ゆめタウンというのは広島のイズミグループのショッピングタウンである。全国グループのイオンとは広島では双璧を成して対抗している。開店して間もないということもあるが、沢山の家族連れで賑わっていた。一階のレストラン街で定食みたいなものを食べた。外に出ると直ぐに河口があって風が吹いていて涼しかったので、そのまま巨大な建物の周囲を歩いて「さくらぴあ」まで戻った。

・・・熊谷さんはピアノの福島弘子さんとはエリザベト音大の同級生だそうで、卒業後、福島さんはベルギーに、熊谷さんはドイツに留学し、そのドイツでチェロの西村志保さんと出会って、その志保さんがベルギーに移動した結果、3人でトリオを結成することになったということである。ベルギーは古楽のメッカである。2人はそこで古楽器も演奏している。熊谷さんはエリザベト音大に職を得て指導している。その教え子なのだろう、これもフルートオーケストラでお世話になった根石照久さんが今日は舞台準備で忙しく立ち働いていた。

・・・曲目は近現代の曲ばかりである。トリオで、まずゴーベールの「3つの水彩画」。「ある晴れた朝に」、「秋の夜」、「セレナーデ」、という題名に沿った感じの、何というか絵筆でサラッと仕上げた水彩画のような印象の曲である。合奏としての質は高い。楽器音が一体化している感じである。

・・・次はチェロとピアノでカザルスの「鳥の歌」。今日が8月6日という事で弾くことになったと言う。繊細なダイナミックスで丁寧に表現していた。大きな眼鏡をかけて大柄の西村さんはとても大らかな感じがする。

・・・次はピアノソロでヤナーチェクのピアノソナタ「1905年10月1日の街角で」。これは日本では殆ど演奏されない名曲ということである。当時チェコは占領下にあって自国語が禁止されていた。チェコ語の学科を作るという学生デモが弾圧されてヤナーチェクの友人が殺された。その悲しみと怒りの表現。第1楽章「予感」では速くて短い下降音型が、まるで機関銃のように組み合わされて切迫感がある。ショパンの激情溢れる曲のような印象もあるが、調性的な統一感のあまり無いところが違う。第2楽章の「死」は第1楽章で繰り返された下降音型がゆっくりと繰り返されて死という事実が少しづつ定着していく感じ。福島さんは小柄であるが、やはり眼鏡が目立つ真面目な学生さんという感じの人である。これらの選曲を見ても、2人ともヨーロッパの文化に溶け込みながらよく勉強していることが判る。ヨーロッパの意識はまだ世界大戦の余波の中にあるということ。

・・・後半はフルートのソロでシュトックハウゼンの「友情を込めて」。これはまあとても難しい曲であった。フルートの低音部、中音部、高音部のそれぞれで旋律を奏でるが、それらが時間的に別けて並べられている。ポリフォニーというのはこういうのが同時平行で奏でられるのであるが、フルートは基本的に単音楽器だから、こういうことになる。もっとも、旋律というほどの長いものではなくて、数音の推移とかトリル音である。旋律はそれぞれに作曲者による「振り付け」が指示してあって、上を向いたり横を向いたり首を廻してみたりするから、動く事で音の表情が変わる。全体的にはそれぞれの声部がバラバラな状態から少しづつ関係性が出てきて、最後は融合したようになって終わる。つまり「全く知らない他人同士が出会って固い友情で結ばれる」という筋立てになっている。最後まで見飽きなかった。それにしても彼女の目から上はよく動く。音程の制御だろか、音色の制御だろうか、そういった意識の動きが表情に現れてしまう。他方で楽器は全く動かない。安定した指使い。横から見ると唇は相当動いているが、それでも息の向きはしっかりと歌口のエッジを捉えている。高音の安定性が素晴らしい。低音の迫力もある。なかなかの技術。

・・・次はチェロとピアノでフォーレの「エレジー」。これは良く知られた死者を悼む曲。とても感情的に掘りの深い演奏だったと思う。これも8月6日の演奏という事を意識して選曲したとの事である。

・・・最後はトリオでマルティヌーの「三重奏曲」。ナチスを逃れてアメリカに亡命した人で、ジャズ的な要素とチェコの民謡風な音の動きが見られる。なかなか面白い曲であった。それにしても3人の息がよく合っていて感心した。

・・・アンコールにオッフェンバック作曲「ホフマンの舟歌」を演奏した。最初の方はフルートがピアノと一体化してリズムを刻む、その音が何ともいえないスタッカートで美しかった。

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