2021.07.09
毎日のように大雨による「避難指示」が出る中で、『考えるナメクジ』松尾亮太(さくら舎)を読んだ。以下メモである。

・・・神経は、感覚ニューロン、運動ニューロン、とそれらを繋ぐインターニューロンに類別され、インターニューロンの集合体が脳である。動物の中で、脳を持たない(インターニューロンが集合していない)のは海綿動物やサンゴなどの刺胞動物だけである。インターニューロンは外界からの一次情報を整理統合して自らの行動を決定する、という機能を果たしており、動物においては、その刺激ー応答、つまり「情報」の生成、に要求される「即応できる複雑さ」が神経回路網を発達させる要因であった。学習とそれによって形成されるプログラムがその要求に応える。だから、記憶とプログラムはほぼ同義語である。操作される対象(データ)と操作する主体(プログラム)という区別は人為的な解釈(言語体系)の中にしかないのである。

第3章:ナメクジは賢い

・・・ナメクジの触角には、嗅覚、触覚、視覚の機能があり、嗅覚が最も重要で、触角内部に神経核があって、ある程度情報処理がされている。脳細胞の半分以上(前脳葉、神経数10万個位)が嗅覚に関わる。嗅覚の記憶と想起には脳だけでなく触角も必要である。連合学習(条件付け)、連想(二次条件付け)、ブロッキング(一度連合が出来ると同じ反応への他の連合が阻害される)ができる。連合学習には文脈依存性も知られている。例えば、ざらざらした表面での学習は滑らかな表面では実行されない。

第4章:人間をはるかにしのぐナメクジの「脳力」

・・・ナメクジの前脳葉は表面に神経細胞が並んでいて内側に神経突起を伸ばしていて、人間の大脳と同じような構造を持つが、破壊されても再生する。前脳葉の先端部に幹細胞があって、絶えず神経細胞を生成している。触角も再生できる。しかし、記憶は前脳葉と触覚の両方にまたがって保存されているので、いずれか片方だけを破壊すると失われる。また触角と前脳葉だけを取り出して生きたまま保存することが可能であり、その対に学習させることが出来る。

・・・ナメクジの運動ニューロンは DNA を増幅しても細胞分裂をしなくて、どんどん大きくなる。1万倍体を超えるものもある。成長に必要なたんぱく質を多く合成するためである。ナメクジは基本的に栄養に困らないので、やっていけているものと思われる。自分の体が成長していることは自らの運動指令の結果を受け取ることで検知しているものと思われる。

・・・ナメクジの神経伝達物質について。脊椎動物のノルアドレナリンは節足動物では水酸基を一つ取り除いたオクトパミンが担う。しかし、ナメクジではその両方が使われていて、しかも拮抗作用をしている。神経伝達物質の作り方も軟体動物には特徴がある。一つの遺伝子から長い前駆体たんぱく質が作られて、あとで切断されて、多数のよく似た構造の神経伝達物質になる。

・・・視覚については、明るい処から逃げるために光量感度を高くしているが、解像度は殆ど無い。スペクトルとしてはヒトよりは短波長寄りである。2つの大触角での光量を比較して暗い方に移動する。だから片方の大触角を切断すると、ぐるぐる回るようになる。ただ数回回ると適応して真っ直ぐ移動するようになる。視野内での光量差も利用していると思われる。大触角が無くても脳の神経にもオプシンがあるために透過光を感じていて、動き回りながらもやはり暗い処に移動する。

第5章:ナメクジの生き方

・・・ナメクジは雌雄同体で、他個体と交換した精子を体内に保存しておき、必要な時に授精させて産卵する。産卵場所は勿論乾燥しない場所である。身に危険が迫ると産卵する傾向がある。

・・・餌があれば際限無く食べて成長し、運動神経中のDNAの数を増やし、産卵量も増やす。痩せることはない。餌が無くても湿気さえあれば何ヵ月も生き延びる。

・・・カタツムリが乾燥対策として殻を保持し、その維持の為に多量のカルシューム摂取を必要とするのに対して、ナメクジは乾燥を避けて移動する能力によって生存する道を選択した。移動速度は極めて遅いが、その代わりに嗅覚を研ぎ澄ませて情報を収集、整理して、確実に移動する。

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