2018.10.02
HBGホールに「淑明カヤグム演奏団」の演奏会を聴きに行った。駐広島大韓民国総領事館の主催「Korean Week」の行事で、招待券に応募しておいたのである。カヤグムというのは日本の琴とほぼ同じ構造であるが、専用の爪を使わず直接弾くから、琴のような優雅な高音は響かなくて、その替りに低音と掠れ音が相俟った独特の表現力がある。普通は1人で弾くものらしい。昔、韓国に出張したときに聴いた印象では、女が声を枯らして叫んでいるような迫力があった。今回のは6名の合奏である。最初に弾き方を6種類紹介して、「現代風」というのが、意外にも日本の琴で使われているトレモロだったのに驚いた。確かに手の爪では難しいのかもしれない。合奏としてポピュラーな曲を採りあげるというのも、日本の琴で既に良くやられていることである。僕としては、むしろ日本の琴とは別の方向に進化して欲しいと思った。6人だけでの演奏(但し打楽器が後ろに控えて韓国風の強いリズムを刻む)の中では、やはり伝統曲がもっとも迫力があったと思う。

・・・次に、二胡と同じような構造の楽器(ヘグム)奏者が前に出てきて、合奏となった。二本の弦を同時に馬の尻尾で作った弓で弾く。共鳴箱は小さな太鼓である。指使いもあるのだが、それよりも弦を大きく抑え込んで張力をかけて連続的に音程を変える奏法が独特である。牛や猫や鶏の鳴き声をやってくれた。西洋楽器で似た音というと、オンドマルトノやテルミンや鋸楽器の感じであるが、もっと迫力がある。これでタンゴを演奏したのは最適という感じ。最後には後で出てくる筈のブレイクダンサーが出てきて、びっくりした。

・・・次はパンソリである。パンソリというと恨み辛みを訴える音楽かと思っていたが、もっと広い範囲の物語音楽ということである。いわば一人でやるオペラ。日本で言うと講談とか落語に近いが、もっとハチャメチャでエンターテインメント性がある。聴衆の合いの手や掛け声と一緒になって、即興的に楽しむものという感じ。韓国語なので、聴衆の一部にしか意味が判らないのだが、前以って筋を解説してくれたので、大げさな表現と時々挟む英語や日本語の効果もあって、楽しめた。

・・・後半は「Last for One」というブレイクダンサーの踊りであった。生で見るのは初めてだったので、びっくりした。体操と曲芸をダンスに仕立て上げた感じで、独特のリズム。間で1人出てきてマイクを近づけて口の中の音を打楽器音としてポリリズムを演奏して、これもまたびっくりした。ブレイクダンスにもカヤグムが一緒になるのだが、あまり必然性が無いなあ、と思った。何だか、主役のカヤグムの印象が何処かに飛んで行ってしまった感じだが、実に楽しい時間を過ごして、皆満足して帰ったようである。
 
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