2015.08.29

何がきっかけだったか忘れたが、平野秀樹「日本、買います−消えていく日本の国土」(2012年;新潮社)を図書館で借りてざっと読んだ。小松左京のSFに「日本売ります」というのがあって、どこかの星の宇宙人が日本の土地を合法的に買い占めてしまう、という筋らしい。それに因んだ題名である。

・・・日本では、土地所有の登記は法律で義務付けられてはいないらしい。揉め事になったときに所有権を主張するための絶対的な根拠になるから登記するのが普通だが、その心配がなければしなくてもよい。相続時に登記しない割合は1−2割あるらしい。勿論住所変更も必要ない。特に、登記簿は公開されているから財産を秘匿したいときには登記しないようである。契約書があれば所有権を主張できるからである。登記の内容、つまり正確な場所と地積(面積)も売り手と買い手が共同で印鑑を押せば、法務局は調べない。地積は税対策で小さめになっている。土地の売買や争いは基本的に民事であって、政府は干渉しない。だから、登記簿通りに地図を埋めると整合しない。地積調査されているのは例えば東京では30%位である。こんなに「自由化」されているのは日本だけである。

・・・固定資産税の徴収に困ると思うが、実際そうであって、土地の所有者を探し当てられないケースが多い。その場合は、その土地は永久に徴収されない状態になってしまう。海外居住者の所有となってしまうと、どうしようもなくなることが多い。特に水源となる山地とか、国境近辺の離島とか、自衛隊=米軍基地の極近傍とか、が実際に問題となっているらしい。北海道の山林と沖縄が最近特に目立つようである。タックスヘイブンに本社を置く国際企業や、最近特に中国国籍の企業や資産家が日本の土地を買っているらしい。国家が買えばそこはその国の治外法権となる。ただ、登記が義務付けられていないからこういう実態の全貌が誰にも判らないのである。人口が減少し、離島や山間部での土地はどんどん売られているが、その買い手が誰なのか判らないままになりつつある。おそらくは日本の国土(日本人が利用可能な土地という意味)が失われつつある。

・・・優秀な日本の官僚がなぜこの状況を放置して、「国土防衛」に取り組もうとしないのか?という疑問だけが残った。なお、著者は「東京財団」というシンクタンクに所属している。
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