2023.06.17
アステールプラザでの『広島ウィンドオーケストラ』の第59回定期演奏会を聴きに行ってきた。初めてである。今まで吹奏楽というのはあまり面白くないものと思い込んでいたのだが、随分印象が変わった。今回はNHK交響楽団の首席トランペット奏者 菊本和昭 氏を呼んで、アッペルモントに委嘱した新曲を披露するというのが眼目で、確かにトランペットは素晴らしかったのだが、それよりも、西村朗作曲の『秘儀』シリーズを 1番から4番まで揃えていて、そちらの方が圧倒的に印象に残った。(現在 8番まであるらしい。)

・・西村朗という名前は毎週日曜日の朝のNHKFM番組『現代の音楽』で知っていたが、あまり聴いていない。指揮者の下野竜也氏の解説に依れば、西洋楽器を使いながらも、東洋各地の民族音楽を表現の中に取り込んでいる、ということである。秘儀というのは、まあ宗教儀式であって、典型的には呪術師が叫んだり踊ったりして最後には陶酔して気絶する、というような現象なので、音楽もそれを想起させるように出来ている。下野氏が、ちょっと距離をおいて、聴き手の側から丁寧に解説してくれて、判りやすかったこともあるが、随分と惹きこまれた。良く整理されて論理的に構築された西洋(クラシック)音楽とは異なり、東洋音楽の特徴は音色に比重があり、情緒的で直接的である。また、旋律が多声部で(西洋風に見れば)脈絡無く重なりあう。これをヘテロフォニーというらしい(雅楽がその典型)。だから必ずしも楽器のチューニングが重要ではない。むしろわざと外した音を使う。ただ、日本人の音感覚からいうと、その方がグッと来るという処がある。今回そういうのが際立っていたように思われる。そういうものだから、余計に指揮者の音楽性と正確な音感覚と指揮技術次第ということになる。下野氏の評価が高い理由がやっと判った感じがした。

・・上記以外の曲目としては、最初の 正門研一『Toward the Blue』:青空のようなスカッとした吹奏楽曲、と、最後の P.ヒンデミット『交響曲 変ロ調』:大変演奏の難しい曲で、下野氏が就任した最初の年に演奏したので今回30周年ということで再演した。予めそれぞれの楽章のテーマを解説してくれたので聞きやすくなったのだが、作曲技術の手の内を見せられると何だか感動というものが消えてしまうのが残念である。
アンコールは アルフレッド・リードの『トランペットの為の頌歌』。これは美しかった。

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