11月21日(金):
      夜、「千と千尋の神隠し」を見た。劇場公開で昔観たのだが、細かいところでいろいろな発見があった。この作品は語りつくせないくらい寓意に満ちていながらも、これだけ面白くて人を惹きつける。宮崎駿の最高傑作だろう。ところで、高倉健が10日に亡くなっていたということで、テレビでは追悼番組があちこちで始まっている。僕は「幸せの黄色いハンカチ」を観ただけである。それで十分かなあ、と思う。衆議院が突然の解散となって、年末は選挙である。GDPが2四半期連続で下がり、来年の消費税UPは延期となった。このタイミングで選挙というのは自民党には不利なはずだが、今であればまだ不人気はそれほどでもなく、野党が分裂したままだから、過半数は確保できる、という読みである。つまり、「今のうち選挙」。

11月28日(金):
      この間テレビで観た「千と千尋の神隠し」の謎解きのために、昔読んだ青井汎の「宮崎アニメの暗号」(新潮新書)をパラパラと眺めている内に読んでしまった。何と内容の記憶が全く無かった。もっとも相当多岐に亘って細かいのでメモを取る気にもならないからだろう。

      青井氏によると、宮崎アニメの頂点は「もののけ姫」にあるのだそうである。古くは旧石器時代の洞窟壁画(トロワ・フレールの魔術師と呼ばれる鹿の絵には惹かれる)やメソポタミアで見つかった人類最古の神話「ギルガメッシュ叙事詩」、中国の陰陽五行説やら、宮沢賢治やら現代の映画や小説などを持ち出して来て、物語の類似性を追及していく。ヨーロッパにおいては、ケルトがラテンとゲルマンに追い落とされ、そのゲルマンがキリスト教で文明化され、仕上げとして近代科学が跋扈する。宮崎アニメの主題はつまり文明以前における自然の一部としての人間のあり方への憧れであり、文明を発達させることで自然と敵対し破壊してきたことへの反省である、ということになる。その辺は確かに誰もがそう感じるだろうが、それを細かい筋書きや人物設定から解きほぐして行き、宮崎氏がおそらく下敷きに用いたであろう世界中の神話伝説を指摘している。大変面白くてそれぞれ原典に当ってみたくなったし、アニメを再度観てみたくなった。これをご本人が読んだらどう思うであろうか?ともあれ、その思想展開としてのアニメの頂点が「もののけ姫」であって、森の神は最後に製鉄と鉄器の開発者によって殺される。つまり、現実世界をアニメ化しつつもその中に神話に即した思想を描いている。

      その後のアニメである「千と千尋の神隠し」では、もはや現実世界から超越してしまって、自由に幻想世界で遊びながらそこから現代を照射する、という立場になってしまった。そこで語られるのはまだしも可能性のある少女が文明世界ではなく幻想世界で成長していく姿であり、宮崎はこれを自らの思想を子供に教育する為の映画として作っている、という事である。

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