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第6詩集 『石に刻まれた小さな夢』

60代になって書いた詩を中心にした詩集です。

今後、詩の追加や削除、内容の改定などの可能性もありますので、ご了承ください。

20264月改訂)

 

目次

石に刻まれた小さな夢

夢のかけらを

秋の朝

鬼神たちの共演

茫洋たる道の途上で・U

無題(ぼくが描き出したいと思うもの)

空の破片がこの地に降り・U

孤高の楽師たちに

無題(ぼくの小さな夢が)

未知なるものへの祈り

風雪の止んだ朝

荒れ野で石たちの沈黙するところ

たったひとつの反抗

悲しみに捧げる

丘の上で

無題(ぼくのちっぽけな夢が)

雪の川原で

ぼくは宇宙の底で・V

 


 

石に刻まれた小さな夢

 

石に刻まれた小さな夢。

あやふやなものへのまなざしと

錆びついて軋む鉄の板。

窓から見える異質の時間と

一瞬だけ透明になった存在の核心への道。

 

決して真実に突き当たらない沈黙の夜と

閉じ込められていた声が漏れてくる小さな空。

何ものも生み出すことのない流浪者たちの

かき乱された大気の底での徒労に等しい試み。

 

でも空の上では、

奇怪な神々の祝宴で、

創造と混沌が胎動している。

玉砂利を踏む菩薩たちと

夢を食い荒らす小さな生き物たち。

豊饒の吉兆が氾濫する

泥に埋もれた大地は

けれど、恍惚とした狂気に満ちている。

 

蜃気楼の中の描かれなかった一枚のタブロー。

小さな夢が砕けるだけのこの大地に

ぼくが刻印する言葉にならない石たちの声。

 

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夢のかけらを

 

夢のかけらを心に響かせながら、

ただ、黙々と道を歩いた。

そっけなく駆け抜けてゆく風の音、

月明かりの下で沈黙を守る黒い岩、

そして、もはや地上に降り立とうとしない天使たち。

 

そんな荒野で、けれどぼくは

星々から降ってくる真音の滴を受け止め、

この世界が存在するわけを問いかけた。

 

すると、不思議な韻律の勤行の声が

菩薩たちから発せられ、

世界を創造した神々の意思が、

この大地の上に照らし出されたように思えた。

 

でも、夢のかけらはぼくの心の中で

小さく響いているに過ぎない。

その響きはきっと宇宙の轟音の前に掻き消され、

そしてぼくは、

この世界の中での消え入らんばかりの小さな声を

ただ石たちに向かって発するだけなのだ。

 

存在にひびの入った世界の上で、

神々だけが静かな哄笑とともに

この世界を醒めた目で見つめている。

そして、世界の内から世界の外を見つめる求道者たちが

ただ、その真理を見抜いている。

 

夢のかけらはただの瓦礫に過ぎない。

 

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秋の朝

 

遠い山がうっすらと雪をかぶり、

澄んだ明るい光が

紅葉した木々に

きらきらと輝いていた。

 

朝の空気を思い切り吸い込むと

ひんやりとした風の冷たさが心に沁み透り、

見上げると

真っ青な空が広がっていた。

 

美しい光が舞い降りる秋の一日、

ぼくは心を微かに微笑ませて、

枯葉の上を歩いた。

 

昨日の熱した夢はどこかに瓦解し、

ぼくたちの世界をどよめかす喧噪も

どこかに霧散していた。

 

心の中に潜む無垢の夢が

ゆっくりと跳ね広がり、

その夢の上を清新の響きが

せせらぎの音のように流れ続けた。

 

明日はどんな日になるのだろう。

木々の紅葉した葉っぱたちが風に揺られ、

光の中で輝き続ける秋の一日。

 

でも、心の中にそっと滴り落ちた清音は

軋んだトキの中に掻き消え、

顔を歪めた石たちの上に

ただ、光だけが降り注いでいる。

透明な、けれど、冷たい光が。

 

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鬼神たちの共演

 

金属的な音の列が

トキを打ち震えさせる鬼神たちの共演。

宇宙に漂う音の破片を拾い上げ、

大地にうごめく音たちと捏ね回し、

どこにもなかった音を紡ぎだす

楽師たちの共演。

その音たちの底に潜むのは

未知なるものへの憧憬と

何ものかを突破しようともがく

鬼神たちの情念。

 

世界は彼らの音から遠く離れ、

錯綜した饒舌の中に爛熟しているけれど、

一瞬のひらめきから生み出される彼らの音は

この世界の向こうにある、この時間の向こうにある

涯てしないものを反照している。

だから、ぼくの仲間たちはその音に耳を傾け、

まっさらなキャンバスに新しい形を描き込み、

荒野の丸い月に祈りを捧げる。

 

石たちはきっと目覚めているはずだ。

そして、石たちに刻み込まれた小さな夢たちは

宇宙の外で荒れ騒いでいる風たちと共振し、

この大地から歩み出ようとするにちがいない。

未知なるものに向かって破り開かれた空間で、

鬼神たちの音が鳴り響き続けているのだ。

 

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茫洋たる道の途上で・U

 

茫洋たる道の途上でぼくは聞いた。

この大地を吹き過ぎる風の轟音の中で

顔を歪める者たちの声をぼくは聞いた。

峻烈な光の放たれるこの荒野の上で

押し黙ったままの石たちの声をぼくは聞いた。

 

その荒野では、

寺院の導師たちが砂曼陀羅の中に、

さまざまな欲望の氾濫する鬼神たちの世界を描き込み、

ごうごうと風の吹き抜ける荒ぶれる遊星の上の

羅刹たちの叫びを結晶化させている。

 

不可解な敵意に満ちた世界の底で、

魔界との境界に立って、

狂気とも陶酔ともつかない高ぶった心で

ただ言葉を唱え続ける求道者たち。

そして、荒野で黙想する賢者は

ただひとり石を打ち鳴らしている。

 

けれど、

何ものが世界の壁を突破しうるのか?

いったい、いかなる光が

閉じ込められた世界に縛り付けられた

このぼくたちつぶやきを解き放ちうるのか?

声なき石たちのうめきに満ちたこの道の先に、

けれどいったいどんな朗らかさがあるというのか!

 

だからぼくは、

混沌とした色彩を地面の上に撒き散らし、

創造の起源に思いを馳せ、

この宇宙に向かって

異端者たちの音を響かせずにはいられない。

 

さあ、世界を造った者たちよ。

天の底でうごめくものたちの声に耳を傾けてもなお、

おまえたちは、喜悦に満ちた心で、

哄笑とともにこの混濁とした世界を見つめ続けるというのか?

 

でも、ぼくは、

小さな石たちの声を拾い上げ、

大地に堆積した無数の文字たちを

掘り起こそうとしているにすぎない。

 

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無題

 

ぼくが描き出したいと思うもの、

それは別の世界の朗らかさ、

時間と存在の断点、

瞑想と仏頭の静けさ、

ゴーゴーという時間の流れ、

荒野での渺茫たる風、

世界の混沌とぼくの混乱、

遊星の上での様々な生起の多彩さとたあいなさ。

激しさを捨て、荒々しさから離れ、

心の底に沈み込む重い石のようなもの。

とても描けはしないけれど。

 

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空の破片がこの地に降り・U

 

空の破片がこの地に降り、

音を合わせることを忘れたものたちの声、

祈りを失ったものたちの声、

そして、形にならない疼いているものたちの声が

降り積もった。

 

美しい時の微笑は消え去り、

古代からの音たちの列が

色褪せた黄ばんだ紙の上に散らばっている。

 

光を放つ石と古い追憶、

茫洋とした日々をやり過ごして、

そのものたちの声をぼくは聞き続けた。

 

張りつめた気の中では

冷たい雨が降り続いている。

 

ぼくは石を磨くことを忘れてしまった。

石を打ち鳴らすことも忘れてしまった。

 

つぶらなまなざしを持った

小さな石たちがぼくを見つめているだけだ。

おびえて、

けれど、はるけさの中の光を求めて。

 

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孤高の楽師たちに

 

宇宙の中に漂う音を釣り上げ、

孤独な行者のように

ただひたすらに音を重ねてゆく

七人の楽師たち。

孤高の賢者のように

弦を打ち鳴らし、

石を打ち鳴らす楽師たち。

 

その音は、

欲望が渦巻くこの遊星のざわめきなど意にも介さず、

ただ奔放に鳴り響き続ける。

 

その音たちに共鳴するのは、

荒野で打ち捨てられた石たちの

押し黙ったままのまなざし、

ぼくたちの中で荒れ騒いでいる

この世界を突破しようとする

途方もない試み。

 

その音が止むことは決してない。

みずみずしさを失ったこの遊星の上で、

けれど、その音は

途方もなく無となりうる領域に向かって

きっと響き続けるに違いない。

 

閉じ込められたこの世界の中で

大地から解き放たれたその音たちが、

石に刻まれた小さな夢たちを

荒野に解き放っている。

 

(タージマハル旅行団に捧ぐ。)

 

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無題

 

ぼくの小さな夢が

石に刻まれた小さな夢が

夜の星座の中で回転する。

たった一つの音とともに。

 

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未知なるものへの祈り

 

勤行の声が空を覆う荒野で

ぼくたちは石を積み重ねて天に祈った。

殺伐とした乾いた風が流れ過ぎ、

絶壁の黒い山が迫っていた。

真っ赤な月はぽっかりと浮かび、

無数の星たちは巨大な沈黙を守っていた。

 

その荒野で、

ひとりの老いた導師が立ち上がり、

世界を呪う呪術的な言葉と

神に異を唱える詩句を朗誦する。

天を打ち砕こうとする求道者たちの怒りが

大地の慟哭と共鳴し、

顔をこわばらせた石たちは黙って空を見上げている。

大気に怒りが満ちていた。

 

だから、ぼくたちは祭壇の前に進み出て誓いを立てた。

真音の失われたこの荒野で、

一切が噛みこまれる時間の渦の淵に立って、

ぼくたちはこの閉じ込められた世界の幻影を打ち壊し、

未知なるものへの道を探り当てようとするだろう。

そして、今日唱えた未知なるものへの祈りは

決してぼくたちの心から消し去られることはないだろう。

 

石たちに刻まれた小さな夢が

異界に向かって微かに光を放っているのだ。

 

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風雪の止んだ朝

 

真っ白な雪たちのなめらかな稜線が

昨日までの吹雪を忘れさせてくれた。

雪たちの上で跳ね踊る光たちの眩しさが

ぼくの心に微笑みを取り戻させてくれた。

沈黙して立ち続ける枯れ木たちと

その上の抜けるような青い空。

 

鳥の声ひとつなく

静寂だけが支配するその空間で、

でも、光の粒たちが

心に生き生きとした夢を運んできてくれた。

誰にも言えなかったぼくのつぶやきが

雪の原野の上で

小さく弾けているように思えた。

 

足元の雪をそっとすくいあげると、

さらさらとした雪の粒が

指の隙間からこぼれ落ちた。

 

光はけっして輝き続けはしない。

でも、雪たちの白さがほんの一瞬

ぼくの心に呼び起こしてくれたものは

きっとどこかに結晶化するに違いない。

舞い降りてくる透明な光たちの笑いは

きっと清新の響きをもう一度

この世界に呼び起こしてくれるに違いない。

 

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荒れ野で石たちの沈黙するところ

 

金色の鳥が真っ黒な空を舞う荒れ野、

天に届かない高望の祈りと

地に砕けている蒼穹の声、

金色の鳥の美しい軌跡は

世界の掟を突き破ろうとするけれど、

小さな生き物たちは怯えて

ただ、天を見上げているだけだ。

 

顔をこわばらせた石たちは

今日の夢、そして明日の夢を封印し、

縹渺たる風たちは

嘲りを含んだまなざしで吹き過ぎている。

 

荒れ野で石たちの沈黙するところ、

金色の鳥だけが孤高の空を舞っている。

瓦礫の積みあがったこの大地の上で、

砂を噛むような茫漠たる時間の上で、

神々の立ち去ったこの荒れ野の上で、

そして、夢が夢を食い荒らす世界の底で、

でも、ぼくは石たちの声を拾い集め、

未知なるものたちの領域へ送り返そうとしている。

軋んでいるこの蒼茫の道の上で、

ただ黙々と、時間の轟音の中に掻き消された音たちを

もう一度打ち鳴らそうとしている。

 

金色の鳥の軌跡が、

ただ、キャンバスに焼き付いている。

 

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たったひとつの反抗

 

蒼茫の道をぼくは歩いた。

ただ黙々とその道を歩いた。

灰色の空には凶兆を告げる鳥が舞い、

軋んだ音を奏で続けるものたちの

亡者のようなまなざしの下をぼくは歩いた。

 

るつぼの中から紡ぎだされた妖艶なるものは

道の上で美しく弾けては泥と化し、

そのたびにぼくは道端に

石を積み上げ続けた。

 

混濁した世界からのこだまのような声が

この大地の上に降り注ぎ、

踏みしだかれたぼくたちの夢は、

ひっそりと置き去りにされていた。

 

でも、天を打ち砕こうとする鬼神たちの咆哮は

今なお響き続けているし、

涯てることなく押し寄せる挽歌の嵐は

ぼくの心を泡立たせ続けている。

 

この世界を見下ろしているものたちよ、

一切が噛みこまれる時間の渦の淵に立って

時間が作り出すこの世界という幻影を打ち壊してみるがいい。

風が舞う空の下で

ぼくたちの喜びは燃え尽きているかもしれないが、

この遊星の上にうずくまっている石たちの声は、

今なお、荒れ騒いでいるのだ。

 

ぼくは道端の色褪せた祠に

石をまた一つ積み重ねた。

それがぼくのたったひとつの試み、

ぼくのたったひとつの反抗なのだ。

この世界を創ったものに対する

ぼくの唯一の叫びなのだ。

 

その声はどこにも届かないだろうが、

でもぼくは明日も石を積み重ね続けるだろう。

未知なるものがこの世界の根底にある限りは。

 

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悲しみに捧げる

 

暮れなずむ真っ赤な夕焼け空に

ぼくは祈った。

幻想の中のメリーゴーランドは

止まることなく回り続け、

木馬に乗る少女は

飽くことなくいつまでも回り続けた。

 

でもぼくは、

何ものかが失われた悲しみをこらえ、

この大地に軋む

追悼の響きに心を共鳴させている。

無情の時間を刻み続ける宇宙の中の

ほんの一瞬の、けれど、

ぼくたちにとってはかけがえのない時間が

閉じてしまった。

 

だから、ぼくは

この大地の向こうに連なる青い山並みに

ただ頭を垂れた。

石を打ち鳴らすものたちの声、

この大地にうずくまる声なきものたちの声が

ぼくの心を揺さぶり続けた。

 

祈り、

ただ、祈りだけが

ぼくの心に響く。

誰のためにか、

何のためにか分からない祈りが

ぼくの心に沈澱し続けた。

 

夢と無限、

ぼくが打ち壊そうとしかかった幻影が

でも、時間を超越した何ものかの手のひらの上で

かすかに震えている。

 

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丘の上で

 

さざ波のようにざわめく

街の喧騒をやり過ごし、

小さな丘の上にやってくる。

 

風に揺れる秋の木の葉と

かすかに揺らめくふもとの池。

そして、天から舞い降りるのは

目には見えない天使たちと

風のつぶやき、

夢を噛み込んできた異界の音たち。

 

でも、幾重にも幾重にも降り積もった

トキの断片は化石と化するほかないし、

このひびの入った世界では

どんな石たちも顔をこわばらせるしかない。

 

だから、空の青い光を大地に滴らせる

何ものでもないものたちよ、

今日のこのこわばった時間を

神々の蒼穹のトキの中に注ぎ入れ、

踏みしだかれた声の破片を

この遊星の上に荒々しく撒き散らすがいい。

 

小さな石たちのつぶやきが

どこにも寄る辺のなかった

ぼくの仲間たちの心を

はてることもなく泡立たせている。

 

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無題

 

ぼくのちっぽけな夢が

ぼくの心の中で震えている。

冷たい風の吹く街の真ん中で

ぼくはぽっかりと浮かぶ月を眺め、

誰とも目を合せず

うつむいて歩き過ぎる。

 

きっと何かが壊れているのだ。

きっと時はもう去ってしまったのだ。

この大地には飽くことなき欲望を生み出す

瓦礫の山が積み上がっているし、

混乱の中、混沌の中で、

人間たちのたあいない、そして、途方もない試みが

渦を巻き、ぶつかり合い、

すさまじい轟音を立てて

大地の上で炸裂してきたのだ。

静謐の音は遊星の片隅に追いやられ、

清新の響きは大砲と爆撃によって

掻き消されてきたのだ。

 

その世界の底で這いつくばっている者たちは

ただ、空を見上げ、悲しみに沈み込んでいる。

何ものかが生み出されるわけではない。

真の光がこの大地を照らし出すのでもない。

ただ、瓦礫と化する試みが

降り積もり続けているだけなのだ。

 

世界に閉じ込められているぼくたちは

ただキャンバスに錯綜した線を埋め尽くすことで

ぼくたちの反抗を描くしかない。

たあいない試みだけど。

 

時間だけが、ゆっくりと、けれど、

確実に通り過ぎていっている。

それをやり過ごしているブッダのまなざしだけが

真理なのだろう。

反抗の音を打ち砕き、

キャンバスに色彩を投げつけるのを止め、

ただ、静かに広大な宇宙に浮かぶ

ちっぽけな地球を眺めるべきなのかもしれない。

 

賢者の笑いだけがぼくの心にかなっている。

でも、大地は静まり返ってはいない。

 

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黒い夜空がぼくの心に覆いかぶさり、

ろうそくの炎がゆらゆらと揺れていた。

キャンバスに焼き付いた赤い線、青い線は

存在の裂け目から噴出するかのように絵の具をほとばしらせ、

でも、室内には無音の領域が広がっていた。

 

ぼくが描き出したかった世界の真の姿は

けれど意識の闇に覆われており、

ぼくの喜びとなるものは

ろうそくの炎のように頼りなかった。

 

世界は壊れてしまうがいい!

そう叫んだ賢者の言葉は

空証文のように紙の上に刻印されているだけ。

そして巷では

世界の内に存在するものどもを称える声が

絶えることもなく氾濫し続けている。

 

外に出ると雪がちらついていた。

冷たい大気が張りつめ、

この世界に置き去りにされたものたちの怒りが

空の底に沈殿している。

魑魅魍魎たちが砂を食む大地の上で、

時が軋み続けているのだ。

 

カオスの中から浮かび上がってくる真理の断片。

そのかけらだけが

夢の醒めた

今日というトキの上に降り積もっている。

 

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雪の川原で

 

雪がちらつく川沿いの道を

黙々と歩いた。

褐色の枯野の中の小道を

ひとりで歩いた。

 

空には重い灰色の雲、

風がひゅうひゅうと鳴り、

寂々とした大気が広がっていた。

雪はいつかぼたん雪に変わり、

川の音だけが響き続けた。

 

真理の光なんてどこにもあるわけがない。

世界に閉じ込められたぼくたちは

この大地から空を見上げているだけ。

そんな世界で軋んでいる音が

ぼくの耳に響き、引きつったぼくの心に反響した。

 

世界はゲームと人生に酔った者たちの興奮で沸き返っているけれど、

顔をこわばらせた石たちはこの野から黙って空を見上げ、

踏みしだかれたぼくの夢はひっそりと置き去りにされている。

 

静けさの中に雪がしんしんと降り積もった。

灰色の世界に風が飲み込まれるだけの枯野。

 

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ぼくは宇宙の底で・V

 

天使たちが舞い降りる荒涼たる荒れ野で、

真っ赤な月を仰ぎ見る古えからのぼくの仲間たち。

月明かりの描く幻影が反照する絶壁の山のふもとで、

縹渺たる風が吹きすさぶ巨大な空の下で、

無言の石たちと向かい合うこの世界の創造者たち。

 

陶酔して打ち鳴らされる銅鐸の音は

けれど次々に存在の断点に沁み込み続け、

大地に刻印された不可思議な文様は

神と対峙する求道者たちの心を泡立たせている。

 

だからぼくたちは未知なる大地に上に

もう一度石のかけらを積み重ね、

この宇宙の底で喪の領域からの風を浴び続ける。

そして、創造されたものたちに向かって

もう一度言葉を重ね合せ、

幻影の上にもう一度夢を描こうとするのだ。

 

でも風化した時間はさらさらと風の中に吹き払われ、

ひび割れてしまった世界の幻影が月に向かって荒れ騒ぎ、

未知なるものたちは宇宙の底にうずくまっている。

時間が軋みながら回る巨大な銀河の渦の中で。

 

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向殿 充浩  Mitsuhiro Koden (こうでんみつひろ)  連絡先:koden.pled@gmail.com

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