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アラビアへの船出

 

ぼくは船に乗る。

どこにも寄る辺のないぼくは船に乗る。

家も学校もぼくの居場所じゃなかった。

伝統なるものに塗り固められたあの街も

厳粛な儀式を重んずるあの宗教も

ぼくは嫌いだ。

平凡なものに塗り固められた日々の生活を

ただ黙々と生きているだけの大人たち。

そこにはどんな輝きも燦めきも感じられないし、

その笑顔は美しくない。

だからぼくはどこでも孤独で、

分かり合える友なんていない。

だからもう故郷になんて、何の未練も何の心残りもない。

だから、ぼくは船に乗る。

つまらない女たちとも別れ、

かしこまった大人たちからも逃れるのだ。

 

向かう先はアラビア。

そう、アラビアだ。

未知の世界はぼくの心に夢を掻き立てる。

香料や宝石の取り引きは儲かるらしいし、

商人たちとのつきあいもおもしろそうだ。

ぼくはアラビアの服をまとい、サンダルを履き、

短剣を差して街を歩く。

アラビアの強い酒も飲みたいし、

エキゾチックな踊りも眺めてみたい。

金を稼いで、アラビアの女たちを抱いてみるのもいい。

今のぼくの心には羽が生えている。

どんなものだっておもしろいはずだ。

 

ただ、聖職者の輩と官吏だけは

御免蒙りたいものだ。

ぼくはそんな輩が大嫌いだ。

ぼくは流れ者、どこにも寄る辺となるところを持たぬ者、

誰でもない者だからだ。

その地がぼくの心を満たすかどうかは分からない。

いや、きっと満たさないだろう。

別の醜い世界に足を踏み入れるだけかもしれない。

でも、ぼくは船に乗る。

ぼくはその世界を生きてみたいだけ。

その思いがぼくの心を突き動かすのだ。

ぼくをあざ笑う奴は山ほどいるだろう。

でも、それでいい。

ぼくは船出する。

ぼくはアラビアに逃げ出すのだ。

ただ、それだけ。

それしか今のぼくには道がない。

 

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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第7詩集『架空世界の底で』