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カイラーサの宮殿にシヴァを訪ねる
ぼくの心の中で世界が色褪せてしまった日、
ぼくはひとりでカイラーサの頂きに登った。
シヴァの宮殿を訪ねると、
だだっ広い広間でシヴァがひとりで踊っていた。
世界の破壊の踊りだった。
踊りが終わるとぼくはシヴァを拝した。
シヴァは鋭い眼光でぼくを見下ろし、
「ここはおまえの来るところではない。」
と言った。
ぼくの心は恐ろしいまでに震えた。
勇気を振り絞って
「世界は色褪せてしまいました。」
と言うと、
シヴァは大きな声を出して笑った。
「愚かな。世界など最初から色褪せている。
真の輝き、真の意味などあるわけもない。
だから、私は世界の破壊を踊るのだ。」
ぼくは返す言葉もなかった。
シヴァは黙って私を見下ろしていたが、
やがて一本の笛を取り出して言った。
「これはタンカーラという笛だ。
これを吹けば心に清新の光が差し込むだろう。
だが、それは幻影に過ぎないことを忘れるな。
世界は色褪せたままだからだ。」
そう言うと、シヴァはタンカーラを残して立ち去った。
ぼくは笛を手にしてそれを吹いた。
心に清新の音が響いた。
だが、それは幻影なのだ。
ぼくは笛を持って宮殿を後にした。
それ以外に道はなかった。
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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第7詩集『架空世界の底で』