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砂漠の街で

 

誰もぼくのことを知らない街、

ぼくのことなど誰も気に留めもしない街、

日のさんさんと降り注ぐ砂っぽい街。

その街をぼくはひとりで歩く。

ぼくが知ってる者なんて誰もいない。

 

黒い猫が道を横切りつつ、

ぼくをじっと見つめる。

けれど、やつは、そのまま足早に走り去った。

向こうから艶やかなベールを被った女たちが歩いてくる。

笑いながら。

若いきれいな女も交じっている。

ぼくにちらりと投げる冷たい視線。

微笑みもせず、すぐに目をそらして歩きすぎた。

 

居酒屋があったので、入ってみる。

こぎたない店だ。

暇そうなすれた女が出てきたので、酒を頼む。

つっけんどんな女は無視して黙って酒を飲む。

酒は心を癒やす。

心を癒やすのはいつも孤独と酒。

それだけだ。

腹が減ったので、料理も頼む。

うまくはない。

萎びた野菜はくたくただし、

肉は硬くて臭みもある。

それに、この香辛料の使い方ときたら。

まあいい、

心を癒やすのは孤独と酒だけなんだ。

 

金を払って店を出た。

日差しがきつい。

通り過ぎる男たちの不機嫌そうな目。

侮蔑を含んだ目でぼくを見るやつもいる。

広場へ行ってもいいが、今日はやめておこう。

大道芸や物売りで騒がしいだけだ。

汗をぬぐう。

楽しいものなんて何もない。

でも、孤独が心を癒やしてくれる。

それがぼくの生き方。

これまでもそうだったし、

これからもまたずっとそうだ。

 

ぼくははしくれの存在。

世に訴えるものもなければ、

世界から認められたいものも何もない。

ただの名もなき詩人。

いや、ほんとうは詩人なんかじゃない。

ただの流浪者、ただのどうでもいい者だ。

でも、だから、誰もぼくのことを知らない街は心安らぐ。

 

燕がぼくの前をかすめて飛び過ぎた。

明日は、海の近くの街にでも行くとしよう。

だが、その前に今夜は場末の劇場で、

女たちの踊りでも見てゆくか。

たいしたべっぴんはいないだろうが、

女たちがあそこを曝け出すのを見るのも悪くない。

気が向けば、その後、女を抱けばいい。

 

どのみち、明日になれば、この街ともおさらばだ。

永遠に。

 

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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第7詩集『架空世界の底で』