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第5詩集 『疾駆する風たちに』
50代後半に書いた詩を中心にした詩集です。
今後、詩の追加や削除、内容の改定などの可能性もありますので、ご了承ください。
(2026年4月改訂)
求道者たちが舞う広大な平原で
太古の風たちがきらめくように駆け抜ける。
大地に刻印された始源的な霊感に
存在の根拠を失った者たちの無数のまなざしが注ぎ込まれ、
硬直した石たちの像は
無言のまま月明かりを浴びている。
ぼくが突き崩した土くれたちの声は
研ぎ澄まされた大気の中に拡散している。
冷たい張り詰めた気の中で
透徹した笑いを湛える石たちの列。
目覚めているのか、
求道者たちの奏でる韻律に頭を垂れている者たちよ、
耳を澄ましているのか、
天空の涯てでの神々の戦いを見上げている者たちよ。
きらめくような燐光を発し、
この宇宙に共鳴する無数の風たち。
その風の中を駆け抜ける
トキの断片を打ち砕くなにものでもない者たち。
ぼくは太古の石を奏で、
名もなき者たちのために碑文を刻み、
沈黙する遊星の荒々しい鼓動を
孤独な求道者の一人として
祭壇の上に鳴り響かせる。
漆黒の暗闇に放たれる一条の発光、
けれど、それは、ぼくたちを一瞬のうちに置き去りにして
未知なるものたちの中へと疾駆する。
砂塵を舞い上げて、
静寂を積み重ねる瞬間を飛び越えて。
(付記)
この詩の一部で、長屋和哉さんの CD『ILLUMINATIONS』に付いていたノートに載っている言葉や表現を流用させていただいています。
石たちの声が凍てつき、
埃っぽい砂の荒野が
空虚な時間の上に覆いかぶさっていた。
風たちが駆け抜け、
空の星たちはひゅうひゅうと流れていた。
あなたが打ち込んだ楔は
今なお存在そのものを大地にくぎ付けにし、
ぼくが打ち壊した夢たちは
破片となって散らばっていた。
ぼくに微笑みかける小さなつぶやきと、
広大な大気の中で光を発する
たったひとつの真音の響き。
その音を探し求める求道者たちの列が
この荒野に延々と続き、
何ものでもないものたちのつぶやきを拾い集めるぼくの仲間たちが、
黙々と、そして、うつむいて歩いている。
光は空からは降り注いでこない。
真理はこの地上のどこにもなく、
ただ空無の中に霧散している。
錯綜した線の領域に、
そして、
混沌とした色の領域に、
世界の深奥への道が、
けれど、
狂気への道が続いている。
だからぼくは、
音を求め、形を求め、
けれど、 空虚な存在の抜け殻となったこの大地の上で
ただ求道者たちとともに舞い踊る。
この地上には一切があり、
そして、何もない。
ただ、無へと通ずる微笑みが、
顔を歪めたぼくたちを通り越して
時間の断点を照らしているだけだ。
小さな石たちのつぶやきに耳を傾け、
形とならなかった幾多の夢をキャンバスに描いた。
そのたあいない、そして、途方もない試みが
幾重にも幾重にも折り重なり、
この大地の上に狂気の像を作り上げている。
荒れ騒ぐ風たちの下で天を仰ぎ
遠い星々を見つめ続ける小さな生き物たちと、
不思議な呪文を唱え
未知なるものへの祈りを捧げ続ける導師たち。
宇宙の涯てから響いてくる韻律に乗って神々が舞い踊り、
道の上では
求道者たちが世界を呪っている。
ぼくたちの夢はとうに潰え、
ただ膨大な追憶が大地にへばりついているだけ。
そして、遊星の斜面からは
記号となったものたちが転げ落ち、
宇宙的形象を祀る神々が
仮面をかぶって土を砕いている。
霧散してしまったおぞましい記憶が
喜びの失せた大地の上で砂と化し、
翼を失くした天使たちが
うつむいて世界を見下ろしている。
たった一つの時間、
けれど、涯てることのない茫漠たる時間が
ただ滴り落ちている。
雪の原野に、
そして、薄っぺらなぼくの心に、
かすかな青空がのぞいた。
カール・ストーンの音を聴きながら
雪を踏みしめるぼくの足元では、
昨日の夢が次々と砕け散った。
雪山で吹きすさぶ轟音が地上に舞い降り、
雪の灯篭がかすかな焔を揺らめかせている。
あなたの夢は雪の中にうずもれているだろう。
ぼくの夢は形となることはないだろう。
空の上の勤行の声だけが
時間の重みの上に降り注いでいる。
この広漠たる大地の上で、
ぼくはただ言葉を繋ぎ合わせ、ただ石を打ち鳴らしている。
神々の哄笑の響くこの小さな時の断崖で、
ぼくはただ沈黙し、ただ粘土を捏ねている。
この遊星の上で沸騰する饒舌から遠ざかり、
清澄の天使たちが踏みしだいた光の破片を
ぼくはただ拾い集め、ただ祭壇に捧げている。
遠い天空の彼方に潜む孤高の神よ、
この宇宙の中心に座る聖なる絶対者よ、
なぜあなたはこの混沌とした世界を
ただ存続せしめるのか?
なぜあなたは真理が具現すべくもないこの世界を
打ち壊さないのか?
求道者たちの祈りがあなたに届くことはないし、
石たちの声、風たちの声、
そして、何ものでもない存在者たちの声が
あなたの心を動かしたことも一度もない。
石たちはただうずくまり、
この遊星を覆う大気は張りつめたままだ。
曼陀羅の中に秘められた世界の秘密は
いったいいつ解き明かされるのか?
この宇宙の底に沈む大地の上には
いったいいつ真の音が鳴り響くのか?
でもぼくは明日も言葉を繋ぎ合わせ、
ただ、石たちを打ち鳴らすだろう。
孤独に、神々の声を聞くこともなく、
ただ、ひゅうひゅうというこの広漠たる荒野のただ中で
何ものでもないものたちの声を聞こうとするだけなのだ。
ぼくにできることは、
ただ石たちの声、風たちの声に耳を傾け、
砂の上に結晶化させることだけなのだ。
ゼロと一、
それから無限、
光のあやふやなこの世界の向こうで、
けれど、神もきっと
孤独に石を削っているにちがいない。
ひとつの石がぼくを叩いた。
ひとつの風がぼくを捉えた。
この宇宙の向こうには別の神がいる。
この大地でこの遊星の神々は死に絶えてしまったけれど。
天の窓からこぼれ落ちる夢の破片、
ぼくが見ることのない時間の外の世界。
涯しない忘却の向こうにあるかもしれない
新たに生まれ出ようとする者たちの声。
でも、ぼくはかたくなに耳を閉ざしている。
そして、密林の中の廃墟の神殿の上で、
賢者とともに単音の響きを空にただ解き放つ。
あるべきものはこの世界にはなく、
瓦礫に類する膨大なものどもが
大地の上に積み上がっているだけの世界。
天の窓からこぼれ落ちる夢の破片、
真理は光を失ったのかもしれなかった。
数限りない無数の石たちが砕ける荒野で、
ぼくは縹渺たる風たちとともに、
時間だけがただ流れ去るのを見つめた。
その荒野では、
絶望の淵に立って神に祈りを捧げる求道者たちが
かすかな燈明を求めて黙々と歩き、
けれど、空を見上げて呪いの言葉を発していた。
無垢の女神のまなざしは巨大な時空を駆け、
けれど、荒れ果てた寺院では、
今日も老いた導師が呪術的な言葉を唱えている。
虚無の中へと転化される真音への道、
そして、形となることのない真理への道。
空なる世界の上では、
宇宙の風がびゅうびゅうと吹きすさび、
顔を歪めた石たちの声がぼくたちを駆り立てている。
ぼくが刻んだ石、
そして、ぼくが描いた錯綜する線の領域。
けれど、天使たちは
もはやこの荒野に降り立ちはしないだろう。
神々はきっと、この沸騰する世界から離れ、
無垢なる夢の中に還っているのだ。
だからぼくは今日も石を砕いた。
そして、疾駆する風たちの中に、
石の破片をそっと投げ入れる。
新しい風を呼び起こすために。
小さな灯りを灯すために。
平和な時代の鐘が美しく鳴り響き、
平穏なさざめきの中で
ぼくたちは窓の外の牧歌的な光景を楽しんだ。
砲撃と爆撃で軋んだ世界の追憶は
忘れ去られ、風に吹き払われて、
時間の向こうへ行ってしまった。
ぼくたちは毎日、テレビの向こうの世界を楽しみ、
新しい紛争の話も
ぼくたちの生活からは遠く隔てられている。
そして、ぼくたちは
静かな美術館の中に結晶化している
幾多の芸術家たちの叫びを、
ただ楽しみ、そして眺めている。
いったい誰が、ヴォルスの絵の前で、
人生の悲嘆を味わいつくし、
絶望の淵で魂を締めつけられるというのか?
でも、仏典の中の賢者の言葉が
ほんとうに意味を失ったわけではない。
真音を求める音楽家たちの音は、
今も未知なるものに向けられた求道者たちの心を
照らし出している。
だからぼくは、
この大地に刻印されたあらゆる出来事を想起し、
新しい言葉を連ねて、祭壇の上に置いてゆく。
すべてが時間とともに流れ去るこの遊星の上で。
ぼくの試みに何の意味があるかは分からないけれど。
茫洋たる灼熱の道、
真理を砕き続けた荒々しい風と
沈黙するだけの頑固な岩たち。
その大地でぼくたちは音を探し求め、
空から落ちてくる光を探し求め、
ただ繰り返し石を打ち鳴らしている。
揺らぎ続ける陽炎のような気の向こうに
誰もが夢を失う未知なるものたちの領域がある。
錯綜する無数の図形たちが織りなす混沌とした世界、
そして、不吉な星たちが天を巡る不条理な世界。
その干乾びた大地の上で、
敬虔な言葉は風の中に吹き払われ、
みずみずしかった思想は
祭壇の上に置き去りにされている。
誰かが虚空に向かって叫んだ。
でも、虚無に向かい合うものたちは
誰も答えようとはしない。
石たちだけが風の中にうずくまっている荒野で
小さな月だけが
煌々と光を照り返している。
カシスで、石や魚たち、
小さな音たちの息づく空間で、
夢の破片が形づくるちっぽけな世界。
何ものかから自由になろうとする言葉たちの列。
その世界の底で石たちは、
光がただ流れ去る青い虚空を見つめている。
ゴーゴーと星々が渦巻く巨大な宇宙で
何ものかがこね回す透明な時間。
空からこぼれ落ちる砂粒たちの記憶が
ぼくのキャンバスの上で飛び跳ねている。
(ヴォルスに捧ぐ)
宇宙からの風を感じ、
ひとりの導師が古い経典の言葉を朗誦する。
打楽器の即興的な響きが交錯する空間で、
瞑想を続ける菩薩たちと踊り狂う鬼神たち。
色鮮やかなマンダラの上で、
交合を遂げる神々と
世界を破り開く声聞たちの列。
ぼくは世界の底で怯える石たちとともに
宇宙の風を肌で感じ、
大地に渦巻く求道者たちの声に
導師とともに灯りを灯す。
菩薩たちが舞い降りる祭壇の上で、
新しい音が打ち鳴らされている。
ぼくの空の上では今日も縹渺たる風が吹きすさび、
ぼくの胸にはぽっかりと穴が開いて、
切り刻まれた夢の破片の数々が
小さなきらめきを伴って降り積もり続けている。
世界は寂々として涯しなく、
ぼくの描いた音たちは道の上で砕けている。
だから、
さあ、舞い降りてくるがいい、
異界に輝きを放つ羅神たちよ。
さあ、大地を踏みしめてみるがいい、
この世界に異を唱える求道者たちよ。
けれど、静かになった地平の上では
石たちが押し黙ったままなのだ。
空の中に砕ける夢の破片、
ぼくの仲間たちが
その破片をキャンバスの上に埋め込んでいる。
ぼくたちの夢はどこで潰え、
今、どこに埋もれているのか?
ひとりぼっちのぼくがただ追い求めた何かは、
いったいどこで形となっているのか?
ぼくの心の大地は悲しみに燃え上がって慟哭し、
打ち壊された世界の幻影は
乾いた風の中に吹き払われている。
踏みしだかれた夢の数々をぼくは拾い、
ただとぼとぼと道を歩いているだけだ。
街にはしたり顔の人々の笑いと
よそよそしい敵意が溢れ、
荒野では風を悼む者たちの声だけが
ぼくの心に共鳴している。
神々の哄笑を聞き流し、土くれを蹴ったぼくの仲間たち。
けれどぼくは、石を打ち鳴らす世界に還るだろう。
丸い球形の星の上で、
時間にひびが入る日にはきっと。
茫洋たる道の途上で
軋んだ機械の音が轟音をとどろかせ、
大地からは人々の饒舌が溢れ出し、
都市では巨大な虚構が渦を巻いていた。
薄っぺらな喜びを飽くことなく追い求める試みが
映像となって電波に乗り、
人々の生活の上に覆い被さっていた。
そんな世界の中で
いにしえの時代に光を放った真理は
顧みられることもなく図書館の中に埋もれ、
真理を求める求道者たちは
世界の片隅に追いやられていた。
でも、彼らの響かせた音はこの世界のどこかで共鳴し、
道を求めることのなくなったこの世界の涯てで
けれど清新の滴をしたたらせている。
美しくかたどられた世界の裏では
存在の割れ目から峻烈な風が次々と吹き出しているし、
時間の断点には答えのない苦悩が凝集しているはずなのだ。
収容所で暮らした放浪の画家は
錯綜した線によって
酔いどれ船が運ぶ夢の軌跡を描き出したし、
偶然性に目を向けた即興音楽家は
瞑想的な音の曼陀羅の中に
真理を見出そうとしたものだった。
たとえ世界が欲望と欲望のぶつかり合う
羅刹たちの世界のようであったとしても
真の光を求める求道者たちが歩みを止めることは
決してないだろう。
そして、この大地に存在させられた小さな石たちは
きっと叫び続けるに違いない。
膨大な時間の瓦礫が織りなす
うっそうとしたこの世界の中で
何ものかが語り出そうとしているのだ。
でも、宇宙を形作った神は創造の神秘を秘したまま、
永劫の時間を偉大な微睡の中で過ごし続け、
破壊の神は喜悦に満ちた心で
いつか破壊の踊りを踊るだろう。
ぼくはひとりで荒野の中の廃墟の寺院を訪ね、
花が供えられることもなくなった仏頭に祈りを捧げた。
そして、不思議な音の鳴る石を打ち鳴らし、
星々の輝く空に向かって響かせ続けた。
きっと世界は明日も未来に向かって歩みを続けるだろう。
でもぼくの仲間たちもきっと
新しい音を響かせ続けるに違いない。
この荒野で、
夢の破片が語りかけるこの小さな時間の中で。
小さな風が巻き起こした雪煙が
ぼくの目の前で美しく舞っていた。
青い空から降り注ぐ透明な光が
雪と岩の上で結晶化していた。
でもそれは遊星の片隅でのできごと、
小さく切り刻まれたぼくたちの時間の
ほんの一断片なのだ。
この遊星の上では、
幾多の諍いや憎しみが交錯し、
さまざまな怒号と慟哭が
今日も飛び交い続けている。
そして、宇宙の膨大な時間と空間の広がりの中の
ほんの小さなこの領域の中で
さまざまな欲望と妬みとが
際限もなくせめぎあっている。
美しい一瞬はこの地上のどこかにしかない。
けれど、それはどこかにはある!
ぼくは美しい緑の田んぼの広がる田舎に帰り、
向こうの雪の山と青い空を見上げた。
その空の向こうでは世界を創造した神々がこの世界を見下ろし、
破壊の神は世界を打ち壊す時を待っているかもしれなかった。
小さな音を紡ぎ、
世界の内の微かな響きに思いを馳せるぼくの試み、
錯綜した線で
キャンバスの上に真音を響かせる求道者たちの試み。
神々が創造したこの世界の底で、
石を削る何ものでもないものたちの歩みが
かすかに光を放っている。
小さな光の粒がぼくたちの夢にぬくもりを与え、
澄んだ風がぼくたちの心を冷ましてくれる。
美しい一瞬はこの地上のどこかにしかない。
けれど、それはどこかにはある。
秋の日の美しい光の下で、
透明な風がぼくたちの上を吹き過ぎていた。
野に広がるススキの穂が
軽やかになびいていた。
夢の破片をリュックに放り込んで歩いてきたぼくたちは
誰もいない野の中で、
空から降り注ぐ小さな響きに
耳を傾けた。
この野の向こうには、
さまざまな情念の氾濫する世界、
清新の光を失った世界が広がっているかもしれなない。
でも、秋の光の下では、
コスモスの可憐さや虫たちの小さな吐息、
山々に広がる赤や黄色の色鮮やかな色彩が
ぼくたちの心を冷ましてくれた。
小さな池のほとりに腰を下ろし、
ふとリュックから夢の破片を取り出してみると
不思議な鼓動を耳にすることができた。
未知なるものへのまなざしが
真っ青な空に共鳴する秋の一日。
山から降りてくるひんやりとした風が、
ぼくたちの心の中で舞い踊っていた。
窓の外でたなびく
残光の中の雲の帯、
忌まわしい虚構と
捻じ曲がった奇怪なフォルム。
はるけさを呼び起こし、
漂う音に光を投げつけ、
でも、色のついた石を並べるだけの
錯乱と幻惑。
祈祷の言葉を失った赤ら顔の祭師と
不気味な記号を書き連ねるだけの占星術師。
潮騒のざわめきの向こうの無音の領域で、
けれど、ただ泥をこねるだけの青ざめた神。
石の上に響く雨の音、
仮借なく理不尽で
官能的なパラドックスと
少女たちの堅い蕾。
瓦礫を積んだ船が
時間の割れ目を渡っている。
無音の領域で。
小さな時間の上で泥と化した詩的な言葉、
恍惚の中から遊離する土くれたち、
挽歌を奏でるトランペットが止み、
虫たちの騒ぎが続く宇宙的な時間。
その中でぼくが傷つけた小さな石と
大地の上の透明な障壁、
誰かが夢見たかもしれない世界の向こう側、
そして、ただ土くれを蹴るだけの求道者たち。
宇宙を漂い、
自らの根拠を消し去ろうとする音の破片。
石を打ち続け、
もはや光となることのないぼくの仲間たちの声。
玉砂利の音と共鳴する空の青、
水の波紋に反響する光の渦、
不可解な敵意に満ちた銀河的な世界で、
ぼくの夢が紡いでいる小さな時間。
せせらぎの音が静かに響いていた。
その音に耳を傾けると
風が心地よく吹き渡ってゆくのが感じられた。
心を解きほぐし、心を鎮めて振り返ってみると、
炎を上げて燃え盛っていたものどもも、
轟音のような咆哮を生み出していたことどもも、
ただこの野に広がる枯葉のように
世界の静けさの中に瓦解しているだけなのが理解できた。
そうだ、
真理に至る光はいつも
平静な心で世界を見つめるところから発している。
そして、
どんな激情も、どんな高揚も
決して真なるものに行き着くことはない。
空を見上げると透けるような青さが心に響いた。
でも、そのはるけさの向こうに
まだ何かがある!
新しい音がぼくの中に
かすかに共鳴した一瞬。
夏の野を歩くと
黄色い花、ピンクの花が咲き乱れ、
空には白い雲が湧き立っていた。
チョウチョが何匹もひらひらと舞っていたし、
草を踏むとバッタたちがぴょんぴょんと飛び跳ねた。
さわやかな高原の風が木々を揺らし、
ときおり、ホトトギスの澄んだ声が
野の静けさに響き渡った。
その光景は世界の一部でしかなかったかもしれないが、
でも、そこからはみずみずしい音の源が流れ出ていた。
草の上に寝そべると
空の青さが目に沁みた。
ふと回りを見回すと、
ハチやアブがぶんぶんと飛び回り、
アリたちが忙しく地面を駆け回っていた。
草むらからは
虫たちの鳴き声が騒がしかった。
夏の野で
ほんの一瞬覗き込んだ
ぼくたちの世界とは違う虫たちの世界。
風がぼくたちの存在の重さを
忘れさせてくれた夏の一日。
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向殿 充浩 Mitsuhiro Koden (こうでんみつひろ) 連絡先:koden.pled@gmail.com
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