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神々の大地に

 

この茫洋たる神々の大地に、

赤い月がぽっかりと浮かび、

沈黙の時がぼくの上を無造作に通り過ぎた。

岩に刻み込まれた時の半鐘が

遊星の上の誰でもない者たちの上に鳴り響き、

孤独な石たちのつぶやきが

風の鳴りやんだ冷たい大気の中に反響した。

 

その大地で、

神々は神器をかざして戦いの踊りを踊り、

荒れ騒ぐ虫たちのざわめきをよそに、

時間の断面を次々と切り裂いている。

創造の中に真理を見出そうとする神は

この時間の中の錯乱をきっと嘉するに違いない。

そして、宇宙の淵から復活した破壊の神は

己の踊りを喜悦に満ちて踊るだろう。

 

けれど、原野では、

叫び出さずにはいられない孤高者たちの声が

今なお石たちの上を疾駆している。

そして、

時間の中に囚われた求道者たちは、

神によって描かれた創造を拒絶し、

積み上げられた祭壇を打ち壊し、

大地の上に石たちのつぶやきを刻印するだろう。

 

そうだ、この大地では、

未知なるものを求める声が途絶えたことはついぞなく、

だからぼくは風の鳴り止まない茫洋たる大地の上で

求道者たちとともに問いかける。

そして、不思議な声に呼び起こされた者たち、

未知なるものに向かって投げ出された者たち、

時間の破片を拾い集め、

存在することを嫌悪する何ものでもない者たちが、

奇怪な図形によって世界に反旗を翻し、

音の破片によって世界を切り裂こうとするだろう。

 

この巨大な宇宙がたった一つの真音に震撼し、

閉じ込められていた闇の声が解き放たれる日がきっと来る。

その日、存在の価値を問う荒々しい彷徨が

宇宙の涯てから響き渡り、

地球を巡る空間のはざまで、

創造の是非を賭けた新たな戦いが沸き起こるだろう。

風を切って野を駆ける孤独な者たちが

絶壁の上に浮かぶ三日月に真摯な祈りを捧げ、

冷酷な神のつぶやきが刻印された大地の上で、

ぼくたちは新たな祭儀を執り行うだろう。

 

この大地にむせび泣く巨大な情念が、

遊星の上でただ生起しただけというおびただしい者たちの

幾重にも折り重なった時間のひとつひとつから滲み出す情念が

ぼくたちの上にただただ重々しくのしかかっているのだ。

 

広大な夜空からこの荒野に星々が降り注ぐ日、

張りつめた大気を切り裂く神々の叫びを聞き、

何ものでもない者たちとともにぼくは大地で踊り狂い、

吹き抜ける風を浴び続けた。

巨大な狂気が今なお覆いかぶさっているこの遊星の上で、

けれど、

荒れ騒ぐ大地の上に放置されている小さな石たちのつぶやきを

ぼくは導師たちとともにただ拾い集める。

むき出しの魂が漂泊するこの荒野に、

真音が滴り落ちていた。

 

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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第7詩集『架空世界の底で』