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花粉の舞う空の下で

 

チベットの呪術的な韻律に乗って

求道者たちが曼陀羅の上で踊り狂う世界。

その世界の底で、

ぼくはふと耳を澄まし、

時間の流れの中で一瞬凝固した

このひとときを見つめた。

 

秋の日の澄んだ光が

野や川に青く溢れ、

愛と憎悪に満ちた世界から隔離された

穏やかな領域がそこにあった。

欲望にさいなまれ、

熱に浮かされた虫たちの喧騒で息苦しい世界から離れ、

ようやくぼくはここへ戻ってきた。

 

花粉の舞う空の下で、ぼくは大きく息をする。

けれどもう一度よく見ると、

花粉がただ降り積もり、世界は味気なかった。

空の上ではまだ何かが響いていた。

 

ぼくは今なお満たされていない!

真理は輝かず、行句は完結していない。

再び弔鐘を打ち鳴らす者たちの声が響き、

再び世界を切り裂く鳥たちの叫びが聞こえるだろう。

 

花粉の舞う空の下で、ぼくはもう一度石を刻んだ。

するとひんやりした風がそっと行き過ぎ、

世界が微かに微笑んで見えた。

その風を心に噛み込み、

チベットの野に燓祭の煙を上げた秋の一日。

 

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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第7詩集『架空世界の底で』