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第3詩集 『求道者たちの祭儀』

30代〜40代に書いた詩を中心にした詩集です。

今後、詩の追加や削除、内容の改定などの可能性もありますので、ご了承ください。

20264月改訂)

 

目次

ぼくは宇宙の底で・T

求道者たちの荒野で

ぼくの名前の上に

危機に瀕して

天使がぼくの扉を

求道者たちの祭儀

ぼくは再び荒野で

夢を見た

死と再生の円環のはざまで

祈り

君がひとりぼっちなのか

無題(透明なけれど冷たい女神のまなざしが)

今日の夢

無題(けれど、風が砂ぼこりを舞いあげ)

夢を見る

宇宙的な日に

天の窓

ぼくは風を飲み込んだ

存在の中の振り子

神話の世界へ

悪魔祓いのために

万霊節

神と向かい合って

ペルシャの呪術師たちに

神界へ踏み込み

今日の夢を今日のために紡ぎ

 


 

ぼくは宇宙の底で・T

 

ヴォルフガング・シュルツェの夢に、

偉大な賢者の夢に、

そして名もない求道者たちの夢に

灯明を灯し、祈りを捧げよう。

 

ぼくのちっぽけな夢、

あなたの無限な夢、

そして時空を渡る菩薩たちの夢を

砂曼陀羅の中に描き込もう。

 

宇宙では創造の意味を求めて神々が戦っている。

遊星の上では多様性を求めて真理が分裂を繰り返している。

そして荒野では今日も新しい仏頭が刻まれている。

ぼくは小さな時間の断片をキャンバスの上に刻み込む。

 

けれど沸騰する音たちの響きはいったい誰が紡ぐのか!

求道者たちの言葉はいったいどこに刻み込まれるのか!

あなたが今日も新しい道を歩み、

神々が創造の炎を再び宇宙の中心に灯したとしても、

一つのるつぼでぐつぐつと煮られた無数の音たちの夢は

いったいどこに結晶するのか!

 

ぼくはぼくのちっぽけな夢を紡いでいる。

はるか上空では菩薩たちが通り過ぎている。

そしてはるか遠い宇宙では神々の戦いが続いている。

曼陀羅の中心であなたが永遠の踊りをやめる日にも。

 

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求道者たちの荒野で

 

神が祈りを捧げ、

あなたが地上に曼陀羅を描き、

それからぼくはその上を裸足で歩いた。

 

厚い灰色の空に

目をかっと開いた憤怒神の咆哮が響き渡り、

縹渺たる風の荒野に

求道者たちの朗誦が響いた。

 

あなたは聖なる台座の上で踊り続ける。

ぼくは布切れの上に曼陀羅を描き続ける。

鳥が不吉に舞い、

ジャッカルの遠吠えが聞こえ、

地の底から

顔を歪めた存在者たちの声が押し寄せる。

 

だから、さあ神よ、新しい戦いを始めよう。

時間を切り取り、

砂を集め、

無限の空虚をるつぼで煮込んで、

新しい祭壇に振りかけよう。

 

あなたは黙って神を見つめ、

世界を打ち壊す時を待っている。

求道者たちは我を忘れて

音楽に没頭しきっている。

 

夢が夢を食い荒らす世界、

一なるものへの

あやふやなまなざしが

奇妙な形をした光に導かれて、

無表情なあなたに突き当たろうとしている。

 

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ぼくの名前の上に

 

ぼくの名前の上に

もう一つ別の名前が書かれる。

 

その者の意志によって

ぼくは翻弄される。

 

存在の薄っぺらな表面。

 

ぼくはただの粘土板、

ぼくはただのうごめく石にすぎない。

 

名前を書く者たちが群がる世界、

存在は魑魅魍魎たちの記号にすぎない。

 

ぼくが、ゆっくりと、

溶け出している。

 

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危機に瀕して

 

世界の深淵に錨を降ろした妙なる精霊の声は

忌まわしい日常性の中に瓦解した。

ぼくを導きつづけた荘厳な光は

喪の領域へと後退していった。

血塗られた荒野も

氾濫する川も

ぼくの視界から消え、

豊饒の実りが祭壇の前に並べられ、

赤ら顔の祭師が

得意げに祈祷をあげている。

ぼくは危機に瀕しているのだ。

 

ぼくには永遠の宇宙を流れる真音の響きが必要だった。

ブッダの声が、

荒野の中の沈黙の仏頭が必要だった。

麦の野をなぎ倒して

一瞬の閃光の上を進む異界の者たちのように、

一切を顧みず、途方もなく無に近づく瞬間を

狂気と錯乱の中で体験することが必要だった。

 

けれど、星からの使者はうつむいたまま何も言わず、

かつてぼくの回りに飛来して来た天使たちは、

今は遥か遠い虚空の中に去っている。

我と一者との不思議な脈絡を捉えた音楽は

その響きを無機物の中に閉じこめられている。

 

空気がうっとうしい。

世界に向かって吠えた詩人は

いったいどこをうろついているのか!

陶酔した色の領域に呪術的な絵画を描いた画家は

今はどの時空の中に去ってしまったのか!

けれどぼくは、

ぼくの立っているこの地平に刻み込まれた裂け目から

目をそらすことができない。

 

錯綜した線の領域に、

狼の吠る川のほとりに、

ぼくの領土がある。

ぼくは獣の骨を削り、豹の油を塗り、

遠い未来の洪水を占い、

魔界の魑魅魍魎たちと

赤茶けた大地の上で踊り狂わずにはいられないのだ。

 

ぼくは叫び出さずにはいられない。

ぼくはぼくの剣で空をずたずたに切り裂かずにはいられない。

かつて精霊が支配した

多層次元の世界を闊歩すること、

遊星の上にはいつくばらされた

意味不明の象形文字を集めること、

それがぼくの喜びだ。

けれど意識によって縛り付けられた世界からは

離脱しなければならなかった。

ぼくの祭壇に捧げられた生贄の数ははかり知れない。

 

ぼくは瞑想と真摯な観想によって

世界を突破することを試みた。

けれど、ぼくは危機に瀕している。

絶対者の意志が瓦解し始めている。

 

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天使がぼくの扉を

 

天使がぼくの扉を叩いている。

誰かがぼくの名前を呼んでいる。

 

窓の外で、

凍りついた時間の外で、

忌まわしい虚構の風の向こうで、

トルソのうつむいた眼差しが

ぼくを見つめている、

ぼくに訴えている、

でも何も言おうとしない。

 

歩き過ぎて行った小さなブッダ、

沈黙しきった石たち、

道の上で砕けたままの

夢の軌跡。

 

そうだ、

この荒れ果てた広大な大地の上で

求道者たちの祭儀の輪が

ぼくの名前に呪いをかけているのだ。

時間の中に打ち込まれた楔が

ぼくの心臓に

突き刺さろうとしているのだ。

 

でも空の上には途方もない青の広がり、

空虚の中に霧散していった石たちの音楽、

誰かが小さくつぶやくぼくの名前。

 

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求道者たちの祭儀

 

この広大な大地の上で、

けれどいったいぼくは何をしているのだろう?

そして風はいったい

どこに向かって吹きすさんでいるのだろう?

 

遊星の上では

本来的なものへ突き当たることを拒絶された者たちが

形の向こうへ、道の向こうへと

砕け続けている。

 

世界の絶壁のふもとでは無数のトルソが

存在者たちのあえぎの中に沈黙して立ち並んでいる。

どこにもない賢者の光輪の中で

なにものでもない者たちの踊りが

陶酔しきって踊り続けられている。

 

その生起をけれどいったい

誰が回転させているのか?

空を駆ける巨大な鳥は

けれどいったいどこをめざして飛んでいるのか?

 

無駄なものの中へ拡散させられた、

幾多の時間を砕くための賢者の思索は

たとえ結実したとて一片の象形文字と化するだけなのだ。

とうの昔に鳴り止んでしまった絶対者の咆哮は

世界でないものの内で反響しているだけなのだ。

 

虚無の断崖では

未知なる形への儀式を執り行うひとりの祭司が

縹渺たる風の中に宇宙的形象を祭っている。

世界の浜辺では清澄の人の足跡を

天使たちがひっきりなしに踏みしだいている。

 

どこにもなにもありはしない!

そして本当になにもわかりはしないのだ!

世界の裏側の斜面で

石たちの声が転げ落ちているだけなのだ。

 

求道者のいなくなったちっぽけな遊星の表面で

存在でも非存在でもない時間の濁流が

ゴーゴーと音を立てている。

 

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ぼくは再び荒野で

 

ぼくは祈る。

遊星の表面が

荒々しい閃光の襲撃に晒される日、

宇宙の希薄な空間に向かって

しもべたちの哄笑が響く日、

その絶対の日に、

ぼくは白い衣に着替え、

無人の野の祭壇に香を炊いて、

誰でもない神に向かって祈りを捧げる。

 

けれどそれはぼくだけではない。

現実をあてどなく繰り返すにすぎない世界で、

不可解な敵意に満ちた世界で、

求道者たちは今日も呪術的な言葉を並べ、

常軌を逸する危険を冒して、

地平線の砕破を試みている。

 

この遊星の上には

曖昧なものへの偏愛と

目に見えないものへのかたくなな拒絶とが

素焼き煉瓦のようにはてもなく積み上げられている。

狂気の画家は錯綜した線で空間を埋め尽くしたし、

口ごもった詩人は悪魔払いの儀式を行った。

 

けれど、ぼくたちの反抗は

ついえ去ってはいない。

青ざめた戦時下でも

幻想に包まれた繁栄の時代でも

途方もない裂け目を凝視するまなざしは

いつも灰色のトルソを

孤独な鳥を

清々たる星座の動きを

見つめ続けている。

忌まわしきはただ、

この遊星の上にへばりついているものだけなのだ。

 

ぼくは再び荒野に戻ってきた。

そして白い衣に着替え、

無人の野の祭壇に香を炊いて

祈りを捧げる。

何ものでもないものたちに、

還元された夢の形に、

創造と混沌の道に、

そして、根拠のない様々な紋様の向こうにある

ちっぽけなひとつの石に。

 

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夢を見た

 

遊星の上の絶壁のほとりで

ぼくは再び神と対決した。

光の粒が蒸気に照り映える朝、

雲が渦巻く淵の上に

ぼくらは浮かんで対決した。

 

かつては神の勝ちだった。

長い対峙の末にぼくは急速に年老い、

気力が萎えて、眠り、沈み込んでいった。

その後の恐るべき沈黙の時間.....

 

けれどあれから数千年が過ぎ、

遊星の上では新たな変化が生じていた。

幾多の戦いが繰り返され、

意味を失った瓦礫が川を埋め、

被造物はしだいに色あせ、

音の波は高遠な思惟を失っていた。

光は明るかったが、

振動は弱まりつつあった。

 

一方ぼくは目覚め、

活力に溢れ、

新しい文字を創造し、

未知の領土を切り開くことができた。

絶壁の上に色彩の車輪を回転させ、

虚空を青く染める術を身につけていた。

意志をトキの中に溶かし込み、

異次元の発光を結びつけることができた。

長い沈黙にもぼくの心は萎まなかった。

.....

.......

.............

 

今度はぼくの勝ちだ!

神がゆっくり頷き、

眠りもよいかもしれぬとつぶやいた。

そして目を閉じ、

ゆっくり雲の下へ沈んでいった。

朗々と水の音が世界に響く光の朝、

ぼくはひとりで音の上に浮かび続けた。

.....

...

..

 

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死と再生の円環のはざまで

 

死と再生の円環のはざまで、

ぼくはひとつの脅威にさらされていた。

巨大なパラドックスが夢をなくした者たちの上を闊歩し、

活性化された狂気が純白のキャンバスを汚していた。

 

だから、娘たちよ、

預言者は偽神によって預言を行い、

汝らは欲情に駆られて裸足になるだろう。

罪なき者たちの血が恥辱の中に伏し、

青白い顔をした神々が死の王座に座るだろう。

創造と混沌の胎動が

世界の周期的な帰滅と再建をグワッシュの上に描き出し、

閉ざされた神話が

未分化のエネルギーを解体するだろう。

 

貫通者の娘よ、

頭に灰を撒き、

湖のほとりで死の天使の羽ばたきを聞くがいい。

暗黒の地に住むラクシャーサは

人間の肉を食っているし、

アプラサもヤクシャも死を肩にぶら下げている。

 

けれど、受戒者に授けられる創造力は

狂気の原野に奔放な光を放っている。

ある者たちは

狂気ほど崇高なものはないと言うだろう。

またある者たちは

近親相姦のベッドの上に真理があると言うだろう。

神は我々を破滅に導きさえするし、

暴力的な色彩空間を演出しもするだろう。

自己の内部にある形姿に真理を求めるパラノイアよ、

現実の内臓を白日の下にさらすがいい。

魂の中に棲息する「魔」は

倒錯的なナルシシズムの中に溶解している。

白檀の香りを処女の陰毛の上にふりかけ、

自分がなくなってしまうような静けさの中で、

銅鐸を鳴らし、

石をたたくのだ。

反復不能なフォルムを境界の見えない宇宙に刻み込み、

ハイエナの吠る荒野で、

ひとり燔祭を執り行うのだ。

 

偉大なるパラドックスよ。

女より生まれ出た者よ。

膣の温もりを荒野の祭壇に捧げ、

輪廻によって引き裂かれた日常性の皮膜を

始源的なレヴェルへと還元するがいい。

笛の音が近づいた。

ぼくは死と再生の円環のはざまに座っている。

 

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祈り

 

舞い降りてくる風をぼくは捉えた。

数限りない夢の粒が

夜の空の無数の星たちの中に砕けるのを

ぼくはボサツたちとともに見送った。

 

地上の黄ばんだ紙の上では

無数の美しい演戯記号が色褪せ、

壁画の上には今日を刻印する文字の列が

涯てしなく続いている。

 

そして、巷では、

神をなきものにする途方もない企てが凱歌を上げ、

昔ながらの男たちや女たちの喧噪が

路地のいたるところで沸き返っている。

 

けれど、月明かりの下で、

かつて一人のピエロが

悲しげな声で向かい合った月明かりの下で、

世界は微かに震えているのだ。

形なき者たちの慟哭が

夜空に向かってあてどもなく散逸しているのだ。

 

だから、ぼくはもう一度、

記号たちを拾い集める。

もう一度、世界を形作るための儀式を執り行い、

石たちの声を

この巨大な虚無に向かって響かせてみるのだ。

 

核と為替レートと支持率が支配する世界、

憎しみと妬みと欲望の交錯する世界。

ぼくはゆっくりと星々の輝く空を見上げた。

途方もなく広がる満天の空を見上げた。

神々の哄笑がこだまし、

一なるものへのはるけさが心の原点に突き当たる瞬間を

そっと心に中にすくい上げた。

 

ぼくにできることは、

もう一度、小さな祈りをつぶやくことだけ。

でも、求道者たちの祭儀の声が、

何ものでもないものたちの中に響くかもしれないのだ。

 

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ぼくが塗り込めたキャンバスの上に

柔らかい追憶の雨が降り注ぐ。

岸のほとりの干からびた夢が

生ぬるい風に触発されて膨れ上がり、

静寂の池のほとりでは

とんぼたちが交尾を繰り返している。

 

きのうのぼくは切り裂かれた世界を

もう一度つなぎ合わせてみたかった。

だからぼくは土を掘り、

捜し当てた夢の破片を

キャンバスの上に貼り付けた。

たった一人のあてどもない祭儀の煙を

荒野のただ中に立ち昇らせた。

 

宇宙の中心に横たわるアナンタの上の

一瞬のまどろみ、

数十億光年を瞬きによって突破する

神々の試み、

美しいものと醜いものの区別のない世界で

歪められた形象に向かい合い

緩やかに下り坂となる時間の断点を

必死に突破しようともがく無数の虫たちのざわめき。

 

雨、雨、雨、

無数の夢を飲み込む

冷たいこの静謐がいい。

菩薩たちは今日もまた

空虚の中を歩き過ぎている。

 

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君がひとりぼっちなのか

 

君がひとりぼっちなのか、

それともぼくがひとりぼっちなのか、

瓦礫に埋もれた土器の破片たちは

何一つ答えてはくれない。

それでも荒れ果てた廃墟の寺院では

久遠の微笑が時間の壁面に張り付いている。

 

一瞬のきらめきが生んだ賢者たちの叡智を

君はもう一度、

時間の中に引き戻すだろう。

ぼくはもう一度、

荒野のただ中で

燔祭の煙をあげるだろう。

 

ぼくは土を掘り返す。

そして遠い昔に消えた音たちを

もう一度掘り起こす。

ぼくはひとりぼっち、

でも、音たちはみずみずしさを

失ってはいないのだ。

 

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無題

 

透明なけれど冷たい女神のまなざしが

音もなく軌跡を描いて

宇宙の涯ての小さな池に沈み込んだ。

 

その池のほとりの

時間が踏みしだかれた石畳の上で

屈曲する光たちが列をなした。

 

荒れはてた墳墓の上では

音を失った銅鐸が呻く。

雪に覆われた湖の上では

月明かりに向かって雪煙が舞う。

 

一と無限。

その向こう側の茫漠たる空虚。

断崖の上で巨大な夜が

ぼくの名前を削っている。

 

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今日の夢

 

熱病のような情念となまめかしい官能が

止むことなく遊星の上で荒れ狂う世界。

その世界で

一つの時間が神の杖に突き当たって、

野には巨大な神殿とレリーフが残った。

 

ぼくが欲したものは夢のような絵画と

手折ることもできない微妙な感情。

死者に手向ける勤行の声に合わせて

足元の小さな石を蹴り、

白い壁面に向かって

ありったけの絵の具を投げ付ける。

 

川を下れば

年老いた船頭の陽気な笑顔に突き当たり、

その向こうには沈黙した山が

雪を抱いて残光に輝いている。

 

真実と事実。

空虚の中心で形になろうとする

未知なる者たちの声を、

いくたびもいくたびも

練り合わせ、釜度で焼いてきた

無数の手。

 

宇宙の中心にまどろむ神が

蓮華の花環の中で新しい夢を見、

空へと通じる一切の道が

巨大な時間の中に溶け去ってゆく日、

花粉の舞う宇宙の窓辺で

星たちの巡る軌跡の上の

金属的な音たちの列に

そっと耳を傾ける。

 

ぼくと青ざめた神は

今日の夢を新しいキャンバスに描き付ける試みを

いくどともなく繰り返す。

一瞬から永遠への転化を

ここから彼岸への踏破を

光の中に噛み込もうと試みる

何ものでもないものたちのざわめきを聞きながら。

 

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無題

 

けれど、風が砂ぼこりを舞いあげ、

月が悪意を含んで煌々と輝いていた。

夜の雲の下で沈黙を守っている

太古の昔から聳える黒い山、

そのふもとで鍵盤に向かい、

求道者たちの祭儀の歌を歌い続けるひとりの賢者。

 

でも、ぼくは問い続け、

形のないものへ

形をなそうとしないものへ

祈りを捧げる。

 

青ざめた神は、

宇宙の涯てから地球を眺め、

ぼくは未知なるものへの夢を

ただひたすらにタブローに焼き付ける。

虚空の中のただの一点に流れ込む

無音の領域を捜し求めて。

 

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夢を見る

 

試験管の並んだ実験室、

冷たいきらめきを放つガラス器具、

がやがやと声のする打ち合わせ室、

分厚い本の並んだ陰気な図書室、

そのはるか頭上で

勤行の声が流れて行った。

 

そしてぼくは夢を見、

広大なすすき野に立って、

重い雲が低く垂れ込め、

風が唸り、巨大な空気の波が押し寄せ、

存在する者たちがみな体を震わせるのを見つめた。

世界のいたるところで、

小さな路地で、

巨大なビルディングの中で、

球技場で、劇場で、

雪煙の舞う雪山で、

今日も人間たちの小さな跳躍が見えた。

喜びの笑いと金切り声が交錯し、

無思慮な放縦と涙に濡れた悲嘆が

大地を燎原の火のごとく駆けて行った。

そのはるか頭上で

勤行の声が流れて行った。

 

そして神は夢を見、

無限を凝集した乳海に身を浮かべ、

人間の一生が瞬きひとつであるような時間の中に

己のまどろみを溶かし込んでいった。

ちっぽけな石たちの

宇宙という小さなフラスコの中での

永遠の旅。

 

けれど、ぼくは神と向かい合い、

時間を刻みこむ戯れに対する

無言の哄笑に耳を傾け、

永遠に止むことのない一なる者からの波動を

八六億四千万年ごとの巨大な回帰に中に感じとる。

 

一なるもの、

虚無、

.....

そして無限、

時間の中に立ち現れるブッダを

神が透徹した微笑で見つめている。

 

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宇宙的な日に

 

恐ろしいまでに銀河的な世界、

蜃気楼の中で描かれた一枚のタブロー、

その常軌を逸した超世界で

預言者たちが繰り返し弔鐘を打ち鳴らしている。

 

狂気であり、崇高である

無意識が光であるような世界、

その世界の深淵に錨を降ろし

他界のかなたへと自己を溶解する

唯一者であり、破壊者であるひとりの神。

 

その神から溶け出てくる音の波紋を

あなたは孤独な行者のようにすりつぶす。

有限地平からの踏破を夢み、

宇宙の帰滅に参加した

時の征服者たるカーリーよ、

静止した瞬間を積み重ねた音楽を

葬送の原野で刈り取る

翼を失った霊鳥たちよ、

夢が食い荒らされるこの宇宙的な日に、

無量の光明を停止させる魔法陣を

嘲笑の渦巻くこの領土の上に、

赤い血とともに焼き付けるがいい。

 

閉ざされていた神話が天界から降り注ぐ日、

あなたは石によって預言し、

ぼくは銅鐸を打ち鳴らして鬼神たちと踊るだろう。

第三の目をもった神が欲望を解き放ち、

すべてが大地を駆け巡るカルキの足元に融没する

この宇宙的な日に。

 

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天の窓

 

瞑想の限りない空の底に並んでいる

ぼくの彩られた石たち。

言葉の絶えた鉄条網の向こうで草たちを靡かせている

あなたの軽やかな風。

 

夢の中の鳥たちは

世捨て人の庵の上にたたずみ、

月や星は

記号のようにゆっくりと天を巡っている。

 

ぼくは毎日シュメールの占星術を学ぶ。

新聞には新しい戦争の話が載っている。

廃墟の街で見かけた

無垢の笑いの結晶化した一枚の壁画。

さんさんと輝く日の光の下で、

幾重にも積み重なった石たちの声、声、声。

 

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ぼくは風を飲み込んだ

 

ぼくは風を飲み込んだ。

ぼくは声を飲み込んだ。

ぼくは途方もなく砕破を繰り返す

小さな虫たちの時間を飲み込んだ。

 

それから世界の壁をぼくは見た。

白い壁に描かれた文字をぼくは読んだ。

神々の死に絶えた時代の

光り輝く文字だけが朗らかだった。

 

たとえカシスの夢が朽ち果てても

大理石でできた透明な魚は

絶望の淵で燐光を放つだろう。

天使たちに忘れ去られた鳥は

無限円の空間で踊り続けるだろう。

 

でもまだ言い知れぬ何かが

無気味に横たわっている。

存在の根源にまつわる謎が

べったりとぼくの心にへばり付いているのだ。

 

だから、ぼくは石を打ち鳴らし、

風を飲み込み続けるだろう。

だから、ぼくはぼくの夢をすりつぶし、

道の上で虫たちとともに空を仰ぎ続けるだろう。

 

世界の謎が解き明かされる日が来ないとしても。

 

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存在の中の振り子

 

存在の中の振り子、

あなたのまなざしの下の石の破片。

 

夜と昼とを分かたない

光の点在する宇宙で、

ぼくの錆びついた意志が

小さく痙攣している。

 

けれど、新鮮に、

生まれ出たばかりの稚魚のように新鮮に。

 

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神話の世界へ

 

天空から降り注ぐ星の一粒一粒を

ぼくは拾い集めた。

遠い宇宙からのたった一人の使者が

ぼくの前に降り立った。

 

けれど、荒涼たる遊星の上には

狼たちの道が続いているだけ、

漠々と広がる丸い大地の上には

一本のバオバブの木が立っているだけ、

そして夕暮れの残光に

乾いた土が真っ赤に燃えているだけだ。

 

石を削り、土を捏ねたぼくの仲間たち、

夢の曼陀羅の中に、封印の文字を描いた道士たち、

静謐の音を響かせて、玉砂利を踏みしだいた菩薩たち、

そして、海鳴りの向こうで

世界の終わりを踊った魑魅魍魎たち。

 

焼けただれた砲身に接吻し、

女たちが恍惚の中に衣服を脱いだ時代があった。

神は夢を見ている。

けれど、ぼくも夢を見ている。

 

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悪魔祓いのために

 

存在の表面の

きれいに結晶化した小さな時間を

天使たちがゆっくりと踏みしだいている。

 

青い晴れた空の下の

走りゆく車と爽やかな街路樹、

恋人たちのほほ笑みと心地よい街のざわめき。

その街角の小さな喫茶店で

ぼくは孤独な行者のように

狂気によって破壊された世界の破片を組み合わせ、

黄ばんだ古い紙に描かれた

戦慄を伴った賢者たちの言葉を

拾い集める。

 

けれど水晶のように冷たい時間の上では

インドラの矢が重々しい雲の中に霧散し、

大地の上では処女の陰毛への欲情が

衝動的な痙攣を続けている。

そうだ、

虚構の額縁にはめこまれた倒錯的なナルシシズムが

色彩の氾濫する山の宮殿で吠え、

ツァラトゥストラの咆哮が

形作られた存在の優美さを次々に打ち砕き、

カディッシュの忌まわしい祈りが

青ざめたカリグラフィーの奥底に潜む剥き出しのザインを

近親相姦のベッドの上に

暴き出しているのだ。

 

そして、土くれに等しい者たちの

止むことのない呪いの声が

遊星の上に撒き散らされ、

奇怪な顔をして踊り狂う預言者たちが

死骸を焼いた灰を

体に塗りたくっているのだ。

悪魔祓いの儀式によって剥き出しにされた傷口からは

狂った表情の亡者たちの笑いが

朦朧と立ちのぼっている。

 

そうだ!

神とはいったい誰であったか?

かつてモーセをして荒野に民を導き出させた神は

なんと多くの人々の上に

怒りの灰を振り撒いたことだろう。

神々を支配した青ざめたアヌは

なんと多くの地を

邪悪な酒で満たしたことだろう。

脅えきった生き物たちの呻きは

花の捧げられたリンガの回りに結晶し、

存在の表面に固化された者たちが

迷路の中をぐるぐるとあてもなくさまよっている。

 

ぼくは石たちを一つまた一つと掘り起した。

すると、無気味な哄笑が

原初の音の記憶の中から立ちのぼった。

ぼくはそれを少女の堅い蕾を求める

残虐な世界の維持者たる者の祭壇に投げつけ、

なにものでもない者たちに向かって

形にならない祈りを捧げる。

シッダルタよ!

新しい超韻律への試みは

世界の薄っぺらな表面を突き抜けずにはいないだろう。

そして舞い戻って来た

巨大な忌まわしい神々との対決が

再び混沌の現象世界の内で繰り広げられずにはいないだろう。

 

ぼくはちっぽけなぼくの図形を

大地の上に投げ捨てた。

ぼくは傷ついたぼくのつぶやきを

電磁波の荒れた波動の中に投げ入れた。

するとそれらはまたたくまに風の中に飲み込まれた。

これまで無であった世界の音たちが

錯綜した夢をなめ回している。

 

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万霊節

 

形となることのなかった無数の試み、

消えゆく旋律の上を駆けるぼくの想念、

孤独者の魂が焼けつく荒野で、

繰り返し、繰り返し、沸き上がってくる

無数の韻律。

 

その荒野で、誰もいない荒野で

満天の星を見上げるなにものでもない者たち、

この巨大な宇宙の底でうごめく

唯一者から切り離された者たち、

もはやどこにも己を投げかけることのできない者たち。

 

だからぼくは破れた衣服を引きずり、

孤独な行者のように、

ひからびた祭壇で祈りを捧げる。

心の中に吹く空虚な風を押し殺して、

荒野に舞う金色の鳥を捜し求めて。

 

あざ笑っている無気味な深淵を前にして

ひとりぼっちで対座する神にぼくは語りかける。

するとこれまで無であった世界がかすかに震え、

マンダラの上を鬼神たちが闊歩し、

はるか上方では聖なる神が破壊の踊りを踊り始める。

風がひゅうひゅうと吹き抜け、

数十億光年の宇宙が覆いかぶさり、

山も石も沈黙を強いられる。

 

ぼくの中で光る太古の時間、

混沌とした宇宙の中で形とならないものたちが光り、

宇宙の風がぼくの荒れ騒ぐ相念の割れ目から

即興となって噴き出してくるのだ。

預言者の声の渦巻く荒野に新しい風が起こり、

虫たちがうごめく世界の上で

時間との巨大な戦いが繰り広げられているのだ。

 

けれど遊星から転がり落ちる無数の石たちは

年老いた神の手の中に砕け落ちる。

夢が食い荒らされる世界、

風の音が濁流に飲み込まれる世界、

ぼくの中で砕けるこれまで無であった世界。

 

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神と向かい合って

 

時間の裂け目に振り下ろされた神の一撃が

ぼくをおののかせた。

永遠を貫視する神のまなざしが

ぼくをいらだたせた。

 

けれど、神の領域に踏み込むのに、

どんなためらいが必要というのか。

形なきものへと還元され続ける宇宙の底の存在者たちにとって

護らねばならない何があるというのか。

 

神の領域への扉を押し開くと、

そこでは燃え立つような色彩に囲まれて、

神々が踊り狂っていた。

音たちが氾濫し、形象が舞い、

無数の菩薩たちの思索の渦が全存在者を包み込み、

宇宙の中心では神が偉大な交合を遂げていた。

 

沸騰する思念をもっと沸き立たせるがいい。

ぼくを捉えている時間を極限まで煮込むがいい。

真理はどこにもない。

巨大な空無の中を闊歩する神々と

踊り狂うひとりぼっちのぼく。

 

そのとき老いさらばえたひとりの老人が

ぼくの肩をたたいた。

そして首を振り、遠くを指さした。

小さな記号がひっそりと

墓標の上に置き去りにされていた。

 

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ペルシャの呪術師たちに

 

呪術的な音階に乗り

仮面を被って夜の舞台で踊る

なにものでもない者たち。

求道者たちの曖昧な祭儀の声をぬって、

未知なるものへと突き進む

ぼくのではない一つの夢。

神の領域がぽっかりと口を開け、

幻影からの踏破を目指して

賢者たちが孤高の乱舞を繰り返している。

 

通過の原理、

永遠がせりあがってくる無音の領域、

新たな錯乱と閉ざされた幻惑。

孤独な行者のように、

亡霊を追い求める亡者のように、

しわがれた声で永遠から剥ぎ取った音を

朗唱するぼくではないぼく。

凶兆を顔に塗りたくり、

異質な光明に包まれた宇宙的形象に

泥水をふりかける誰でもない者たち。

 

頭に灰を撒き、

夢を食い散らす虫たちを

神とともに曼陀羅の中に書き加えよう。

ペルシャのオルガンが鳴っている。

時間を沸騰させる宇宙の背後で、

独りぼっちの呪術師が

ぼくと向かい合っている。

 

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神界へ踏み込み

 

神界へ踏み込み、

聖仙リシたちの声に包まれて、

存在の深奥に潜む

真理の断崖へと歩み寄った。

 

その道の途上で、

涯しないもの

途方もないものに向かって胸を開く

誰でもない者たち。

 

乳海では、無数の想念が

独特の韻律で泡立ち、

天界では、アプサラスたちが

時空を切り裂いて飛来している。

大地では、埃っぽい風に交じって

無気味な燔祭の煙が立ち昇り、

戦士たちの鋭い眼差しが

虚空を過ぎる鳥たちの群れに

引き付けられている。

 

そして、ぼくは

誰か名も知らぬ者たちが砕いた道を

再び歩く。

天空を彩る星々の響きにも似て、

けれど、四三億二千万年のかなたから

けれど、無限をざわめく宇宙の涯てから

呼び掛けてくる者たちの声に

ぼくは耳を傾ける。

朗誦する賢者たちの声に包まれて、

敬虔で奢ることのない

導師たちの音楽に導かれて、

舞い降りてくる何者か。

曼陀羅の世界に降り立ち、

恐ろしい形相の奮怒神や

超越者の闊歩する宇宙で

交合を遂げる神々の間をすり抜ける

ぼくではないぼく。

 

誰も知らない道が

どこかへ涯てしなく続き、

未知なるものが

途方もない時間の発散に向かって

吹き荒れている世界。

そしてその天の底で、

調和と砕破と

空無へのとどまることのないゴーゴーという

存在の濁流が渦を巻いている世界。

 

決して永遠なるものに

結び付けられているわけではない。

そこへ至る道が

必ず存在するというわけでもない。

ブッダの教説ですら

世界を完全に突破しきったわけではない。

漠々たる時間と空間が

ただある!

あるいはない!

ジャッカルの無気味な遠吠えが聞こえ、

超人間的な領域への様々な風が

音もなく吹きすさんでいる。

 

静謐の音を響かせて

玉砂利を踏む菩薩たちの列。

広大な大地を覆い尽くすかすかな残光。

そして夜の大気を貫く

不思議に張りつめた一条の気。

あたかもユガの終わりを暗示するかのような

生ぬるい風が沸き起こり、

けれど僧たちはヴェーダを誦し、

燔祭の煙をただ上げ続ける。

 

ゼロと一、それから無限。

今日を噛み込む神の手が

いつか永遠を刻む韻律へと変わる日、

一切の喜悦を超越した神々が

生成と破壊の交錯するはざまで

永劫の虚無を踊り巡る日、

その喜悦に満ちた踊りに流れ込む

打ち壊された瓦礫の数々。

 

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今日の夢を今日のために紡ぎ

 

かつてぼくは夢を刈り取る原野で

激しい閃光にさらされながら

どこにもいない神に祈りを捧げた。

求道者たちの残した祭壇の前で

夜空に舞う金色の鳥たちの飛翔を

マーダナの高貴な光とともに見つめた。

 

けれど夢を紡ぐ音たちの列は

今なお無明の大海の中をさまよい続けている。

求道者たちの声はか細くなり、

敬虔な勤行の響きは不毛の大地の上で干からびている。

 

今日の夢を今日のために紡ぎ、

明日の夢を明日のために紡ぐ。

あてどもない夢が砂の上に砕け続ける時間、

それがあなたの荒野であった。

 

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向殿 充浩  Mitsuhiro Koden (こうでんみつひろ)  連絡先:koden.pled@gmail.com

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