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曼陀羅の世界へ

 

茫漠たる無人の野に香を炊き、

光に包まれた神聖な岩に向かって祈りを捧げ、

それからぼくは

唯一者のいなくなった寺院の扉をたたいた。

 

朽ち果てた祈りが時間の上に、

そして砂の上に散逸し、

青ざめた神が

土くれだった祭壇の上で干からびていた。

 

その夜ぼくは広野のただ中で

ひゅうひゅうという風を浴び、

満天の星空の底に広がる喪の領域に導かれて、

ひとり曼陀羅の世界に降り立った。

 

突然、猛々しい神々の世界からの風が吹き込み、

結晶化していない宇宙の鼓動が

錯綜した光とともに天界から降り注いだ。

陶酔した鬼神たちの踊りが

荒々しくぼくの夢を踏みしだき、

菩薩たちの勤行の列が無表情に通り過ぎた。

 

傷つけられた無垢なるものたちに思いを馳せ、

息絶えた夢の数々を曼陀羅の中に描き込むぼくの試み。

神と羅刹たちが踊り狂う宇宙の中心で

永劫の業火を喜悦に満ちた心で眺めるあなたの試み。

そして決して描かれることのなかった者たちに呼びかける

何ものでもないものたちの無数の試み。

神の領域を越えて、

オームの声のこだまする殺伐とした広野の祭壇を越えて、

ぼくの上に刻み込まれるひとつの言葉。

 

縹渺たる丘の上では風が吹きすさんでいる。

夜空の上ではかすかな光が宇宙の輪環を貫いている。

曼陀羅の世界の底で、

切り刻まれた今日という時間の上で。

 

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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第7詩集『架空世界の底で』