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青ざめた鳥たち
傷ついた天使たちは巨大な翼の下で羽を休め、
人々と神々が闊歩する茫漠たる大地を見下ろしていた。
機械の音と調和する足取りを麻薬のように求める虚ろな存在者たちが、
冥府に吹く風を浴びる哀れな生き物たちが、
一切の栄光を焼き尽くす荒野で
屈辱への道を歩いていた。
夜の街灯の下では
震える息を弾ませながら半裸の少女が踊り狂い、
奇怪な絵が描かれた分厚い壁の前では、
男たちが酒びんを振り回して天を呪っていた。
地下鉄ではすさんだ空気が
地上を目差して膨れ上がり、
図書館ではいにしえの時代への押え切れない郷愁が
巨大な醜悪さをさらけ出していた。
爆撃された都市よ、
その残骸の下に埋め尽くされた
無数の呻きを形にしてみるがいい。
衣服をはぎ取られて殺された少女たちの悲鳴を
神への呪いの中に練り込んでみるがいい。
そうだ、
滅びた文明は今はただ粘土板の中に
その不思議な魔力を眠らせているだけなのだ。
イシュタル門を誇った栄光のバビロンよ、
マルドゥクの威容を誇ったエサギラ神殿よ、
そして、王の中の王、
ナボポラッサルよ!
けれど、アダルの月に捧げられた
燔祭の煙はどの虚空に飛散してしまったのか。
コンピュータの、電子回路の、
神経質な時間パルスの下で、
邪悪な者たちの声は、
今なお巨大文明のすみからすみまで響き渡っている。
きらびやかな文明の至るところにある断点に、
かつての邪悪な者たちが今なお巣くっている。
そして神は人々を裸にして
死神エレシュギガルの前に引き出すし、
一夜にして世界を粘土に変える洪水は
やむことなく繰り返される。
けれど、アララトは次々に用意されずにはいない。
青ざめた鳥たちよ、
虐げられたこの石たちを
ぼくはいったいどの土地に置いたら良いのか。
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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第7詩集『架空世界の底で』