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反抗

 

とめどもない神との戦い。

人間をとらえ、

大地に繋ぎ止めておこうとする神との戦い。

ぼくは絶壁のふもとで、

電子の高周波のうねりの中で、

光の干渉しあう空間の泡立ちの中で、

神と戦う。

 

けれど、ぼくは声を聞く。

声を聞くのだ。

鈍い光を帯びた無気味な無意識の奥底にうずくまっている

殺伐とした冥土の原野を吹く風のような、

茫洋たる年月の上の調和のない波のうねりのような、

激しい、荒々しい、

いつ果てるともない声を

ぼくは聞くのだ。

 

たくさんの砕けた石があった。

惨たらしい戦争と

無数の殺戮と略奪があった。

悲鳴と喘ぎ声と呪いの歌が

遊星の上に渦を巻いていた。

どんな時間の破片にも

血の臭いがしみついている。

 

むせかえるような歴史の豊饒さよ、

限りない喪の領域よ、

物質の中から膨れあがってくるおぞましい恐怖よ、

無垢の笑いの根絶やしにされたはげ山の刑場よ、

これがあなたの望みだったのか!

これがあなたの創造した世界の結果だったのか!

 

でもきっとあなたは満足だろう。

あなたは孤独な行者のような心で

時代を達観した賢者のようなほほ笑みで

このフラスコの中の世界を

天使たちが嘆く声、石たちが喘ぐ声を

冷徹な科学者のようなまなざしで

見つめているのだろう。

 

でも、ぼくは聞きたい。

このような軋んだ音しか生み出さない瓦礫の山が

あなたの望みなのか?

ぼくは戦わずにはいられない。

訴えずにはいられない。

 

朝の霧の中で

星屑が輝く夜空の上で

干からびた荒野の境界で

ぼくはあなたと戦うだろう。

幾度ともなく切り立った波をぶつけ合い、

意志を擦り減らし、

互いの文字を戦わせるだろう。

 

夜の森の閉ざされた神話よ、

微生物たちの非人格的な陰謀よ、

打ち壊された文明よ、

傷つけられた精神よ、

蔑まれた人間たちの愛よ、

この遊星の上の一切の混乱、

口ごもった祈り、

血塗られた宗教、

歪められた悟り、

それらすべてがあなたの意志によっているのだ。

 

だからぼくは祈りの破片をさらに小さく砕き、

狂気と失意の荒野で

荒れ騒ぐ月に向かって呼び掛ける。

地底の魔王よ、

十億年の彼方の鬼神たちよ、

トキの断片を食い尽くす羅刹たちよ、

さあ、今こそやって来るがいい、

おまえたちの時代なのだ。

錯乱と幻惑の中で

根拠のないらんちき騒ぎをやっている

投げ捨てられた生き物たちの声を聞くがいい。

ぼくの領土の野ざらしにされた祭壇を見るがいい。

独裁者の闊歩する巨大な機構と

数字の支配する冷酷な電子回路を

おまえたちの炎で焼き尽くすがいい。

 

けれどあなたの扉は開かれない。

あなたは拒絶したままなのだ。

ああ、いらだちを含んだ瞬間的な創造力よ、

原初の光によって泡立たされた色彩のポリフォニーよ、

でも、あなただけではない。

あなたが拒絶しているだけではないのだ!

 

ぼくの道はいつも

何者かによって閉ざされている。

遊星の上の虫たちのように

ぼくは這いつくばり、

狭い空間を跳びはねて生きている。

焼けつく砂と、

ひび割れた記憶回路と、

意識にとっては無に等しい沈黙。

光と電子のうねりが

ぼくの夢をがんじがらめにしている。

 

ぼくの年月は電磁波の絶えず変調する

空無の領域を歩くことに捧げられた。

ぼくの呪術はホトケを呼び出すことに費やされた。

意味不明の氾濫する文字たち、

化石の中に隠されてしまった普遍性のヴィジョン。

 

ぼくはキャンバスを引き裂きたい野望をもっている。

過激な衝動がぼくの斜面を駆け下り、

稲妻のような閃光がぼくの住処をうち震えさせている。

ぼくの反抗の突き当たる空よ!

巨大な宇宙の墳墓よ!

破滅へと導く神よ!

 

きっとぼくは誰でもない者たちが

空虚の中から取り出してきた魔法陣を

砂の上に刻印するだろう。

きっとぼくは鬼神たちによって傷つけられた雪の領域に

ぼく自身の小さなつぶやきを投げ入れるだろう。

あなたは新しい場を用意するかもしれない。

けれどぼくだって

これまで無であった世界からの

新しい宇宙の風を

心の内に吹き抜けさせているのだ、

光が食い荒らされるこの宇宙の冬に。

 

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向殿充浩 (こうでんみつひろ) / 第7詩集『架空世界の底で』