ストーカー対策
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2015.6.9mf更新
弁護士河原崎弘
相談
22歳の女子大生の場合は、18歳(高校3年)のときに、小学校5、6年次の男子同級生から、「結婚しよう」との内容の手紙が来た。
断りの手紙を書いたら、以来、年に何10数通の手紙が来るようになった。20歳のときに、成人式で会い、話をした。相手は一方的に「君とは結婚する運命にある」と話し、毎日、深夜、家の前に来て、相談者の様子を見ているようであった。
相談者(女子大生)が「家に来るのはやめてくれ」と言うと、相手は「行かないと結婚について話し合えないじゃないか。その代わり電話番号を教えてくれ」と言うので、相談者は電話番号を教えてしまった。その後、頻繁に電話がかかってきたので、電話は出ずに留守番電話を設置した。
その後も、この男は毎日午前2時半頃、家の前の道路に出没し、「結婚しよう」などと叫んでいる。
その後、相談者は、警察に相談し、相談者の名前を出さずに相手の親に注意をしてもらった。親も、息子が「ジョギングする」と言って、毎晩家を出ていることにおかしいと気付いていたようだ。その注意の後、1週間ほどは出没がなくなったが、また元に戻って、深夜出没し、叫んでいる。相手が深夜叫んでいるときにも、警察に電話をしてパトカ−に来てもらったが、相手は逃げてしまった。近所の人がパトカ−を呼んだときも同じであった。
2年ほど前に相談者が電話に出て、相手に交際を断った。その後、叫ぶ内容が変わった。ここ2年ほどは、「殺してやる。犯してやる。何度も凶器を持ってお前の家に行
った」などと叫んでいる。このような脅迫的な状況が2年間も続いているのです。この男は無職のようで、母親は、男を持てあましている様子でした。
対策
スト−カ−対策は、これといった有効策があるわけでもなく、相手に応じ臨機応変に対応するしかありません。このケ−スでは、相手が脅迫という不法行為を継続的に行っていますので、損害賠償を求めて訴えを提起することができます。
しかし、裁判所が認める損害賠償額はせいぜい100万円から300万円程度であり、訴えには、弁護士費用(着手金と報酬)を合計しても70万円〜100万円位がかかること、訴えによって相手を刺激し、行動がエスカレ−トすることをおそれ、相談者は躊躇しました。
他方、警察に脅迫罪で告訴することができます。告訴した場合、警察には捜査義務があり、効果があります。
しかし、不起訴になり、かえって相手を刺激し、悪効果を招くことをおそれ、相談者は告訴はしませんでした。
問題は、相手が小学校5年次および6年次に同じクラスであっただけですので、相手に関する情報がないことでした。弁護士が、住民票、戸籍謄本をとって調べたところ、相手の両親は数年前に離婚し、母とその男の二人暮らしでした。午前2時半から4時半に出没するので、正規の職業についていないと予想できました。
このような社会性のない男に対する対処は難しいです。こちらに対処に対しどのような反応をするか、予想することは困難でした。
- パトロ−ル要請
相談者は、警察の被害者相談室に2回電話し、実際に警察の生活安全課に2回赴き、実情を訴えています。警察も1回は被害者の母親に注意をしています。この注意で1週間程は男性は現れませんでした。しかし、1週間経過すると、やはり、毎晩現れるようになりました。
相談者は、ビデオカメラを設置し、男の様子を毎晩ビデオに撮っていました。相談者は、万一危害を加えられないかと心配していました。
そこで、弁護士は、文書(書留郵便)で、被害の実情を説明し、警察にパトロ−ルの要請をするよう勧めました。公務員である警察官は証拠が残るような形で仕事上の要請があった場合、これを無視できません。
2週間ほど経過した日、ポストに警察からのメモが入っていました。「○○月○○日午前2時10分頃パトロ−ルしたが、不審者は見つかりませんでした」と書いてありました。パトロ−ルの要請文書には、男が現れる時間を午前2時半〜午前4時半頃と書いておきましたので、警察は、見当違いの時間にパトロ−ルしたのです。
そこで、相談者は、今度は再度、「指摘した時間帯にパトロ−ルして欲しいこと、パ
トカ−で近づいたり、制服警察官が行けば、男は逃げてしますから、私服で近づいてくれるよう」文書(書留郵便)で要請しました。
警察は、仕事が増えるのを嫌がります。自分の責任を負うことも嫌がります。
告訴しても、受理ではなく、「預かる」と言って、告訴の受理をしません。法律的にはおかしなことですが、これが実情です。公務員に限らず、仕事に熱心でないことは身分が安定した職場に共通する現象です。
そこで、告訴の場合は、最後の手段として、告訴状を書留郵便で送ることです。警察は、嫌がり、怒りますが、仕方なく捜査はします。
- ビデオ撮影、録音など、将来、損害賠償の訴えを提起する際、あるいは、脅迫罪などで告訴するときに必要な証拠を確保することが大切です。
立法による対処
ストーカー行為等の規制に関する法律 が成立しました(平成12.5.24公布、平成12.11.24施行)。
平成12年4月、静岡県沼津市で起きた女子高生殺人事件など凶悪事件に発展するケースが相次ぎ社会問題化しているストーカー行為に、最高で「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」を科すことになります。
- 警察署長が警告
「つきまとい等」、「ストーカー行為」のいずれも、被害者の申出を受けて、警察署長が警告を発します。
- 禁止命令
これに従わなければ都道府県の公安委員会が禁止命令を出します。禁止命令を無視してさらに迷惑行為が続くようなら、最高で1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科すことができます。
さらに、「ストーカー行為」のうち、特に悪質なものについては被害者の告訴があれば、警告など行政命令を省いて「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」を科すことができます。
警察の発表では、警告により90%のストーカーは止まるそうです。しかし、止まらない10%があるのです。特に、警告により、逆上するストーカーがあります。このような場合は、傷害、殺人などの重大犯罪に発展します。十分注意し、異常なストーから逃げる必要があるでしょう。
言葉の定義
- つきまとい等
「つきまとい等」とは、特定の者への「恋愛感情」、「好意感情」と「それが満たされなかったことへの怨恨の感情」を満たす目的で住居を見張ったり、つきまといや待ち伏せ、無言電話などを行うことと規定している。
- 「ストーカー行為」
つきまとい等を繰り返す、より悪質なケースを「ストーカー行為」としています。
この定義には、行為の中身は同じでも商品などの悪質な勧誘や、リストラなどによる逆恨みが原因の無言電話などには適用されません。
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