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2019.2.1mf
潜在的稼働能力と養育費、婚姻費用の計算
弁護士河原崎弘
質問 1:支払い義務者の退職
私は、元夫から養育費を受け取っています。
養育費を支払っていた元夫が会社を退職し、収入がゼロになりました。養育費の減額請求をされますか。質問 2:支払い義務者の再婚相手の出産
私は、離婚した元妻に養育費を支払っています。再婚した現在の妻が出産しました。生まれた子供の外に、現在の妻も扶養家族に入れて、養育費を計算することができますか。
質問 3:権利者の退職
私は、元妻に養育費を支払っています。先月、元妻は、勤めを辞め(退職)てしまいました。この場合、元妻の収入をゼロとして、養育費を計算するのでしょうか。
弁護士の回答
収入がゼロでも、潜在的稼働能力があるとして、収入ありとみなされる場合があります。しかし、それは、抑制的です。
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支払い義務者が退職した場合
退職が、倒産など会社都合など、やむおえない事情であるなら、収入ゼロとします(失業保険があれば、その金額が収入です)。しかし、養育費を支払いたくない動機などの場合は、潜在的稼働能力ありとし、従前の給料から推測した給料を基に、養育費を計算します。 - 支払い義務者の
再婚相手が出産をした場合
再婚相手を扶養家族として、計算します。その期間は、育児休業期間(10か月)とした判決もあります。しかし、一般的には、母親には、子どもの養育の仕事がありますので、子どもが小学校低学年の間は、潜在的稼働能力はないとし、母親を扶養家族とします。
- 養育費を請求する権利者の場合
養育費を請求できる権利者が退職し、収入がゼロになった場合はどうでしょう。この場合は、退職した事情によります。潜在的稼働能力があると
認定される可能性はあります。子供に手がかからなくなる小学校高学年以上
の場合です(下記平成17年3月8日の判決では、子供は小学2年ですが、母親に潜在的稼働能力を認めました。母親の実家にいることを考慮した可能性があります)。しかも、認定は、抑制的で、潜在的な稼働能力に基づき認定する収入は、パート収入で、50万円から100万円程度でしょう(下記判例)。それ以外の場合は、権利者の収入は、ゼロ(潜在的稼働の力なし)として計算します。
以上の事情は、婚姻費用の場合も同じです。
判例
- 名古屋高等裁判所平成28年2月19日決定
また,上記2の認定事実によれば,前件調停が成立した平成21年□□月□□日当時,長男は10歳,二男は7歳であったことに加え,相手方が,心療内科
に通院していたことから,前件調停においては,相手方が無収入であることが前提とされていたものと推認される。
しかし,本件申立てがされた平成26年□月□日の時点では,長男は14歳,二男は12歳であり,長男及び二男を養育する必要から,相手方の就労が困難
であるとはいえない。また,上記2の認定事実によれば,相手方は,精神疾患が平癒しているとはいえないものの(乙4,11),不定期ながら託児の仕事を請け負っ
て収入を得ており,稼働能力がないとはいえない。
これは,前件調停の成立後,当事者が前提としていた相手方の稼働能力の点に変更が生じたものであるから,婚姻費用の分担額の減額を認めるべき「事情の
変更」に該当するものである。
そして,相手方は,精神疾患が平癒したとはいえないこと,抗告人との同居期間中は基本的に専業主婦であったこと,平成26年□月の本件申立て当時44
歳であったことを考慮すると,相手方には,平成26年賃金構造基本統計調査報告第3巻第13表「短時間労働者の年齢階級別1時間当たり所定内給与額及び年間賞与
その他特別給与額」産業計・企業規模計・女子40歳〜44歳の年収額119万9582円(1時間当たりの所定内給与額1023円×1日当たりの所定内実労働時間
5.4時間×実労働日数17.5日×12か月+年間賞与等3万9500円)の半額程度(60万円)の収入を得られる稼働能力があることを前提に,抗告人が分担す
べき婚姻費用額を算定すべきである。
-
東京家庭裁判所平成22年11月24日審判
相手方の収入について,申立人は,相手方はより多額の収入を得るための努力をすべきであり,賃金センサスによれば,相手方は,その学歴に照らし少なくとも
375万円の年収を得ることが期待できるから,本件においては,実収入を前提とすべきではないと主張する。
確かに,相手方の学歴からすれば,相手方が現在よりも
高収入の職に就くことのできる可能性が相当程度認められ,年少の子を養育しているなど,その求職活動を妨げる事情は特に見あたらない。しかし,相手方は,現にそ
の学歴等を生かして大学の非常勤講師として稼働しているのであるから,その潜在的稼働能力に従った努力を怠っているとは言い難く,本件において,相手方の収入に
ついて,実収入ではなく,賃金センサス等に基づく統計値を用いるべき事情は特に認められない。
- 大阪高等裁判所平成22年3月3日決定
調停において合意した婚姻費用の分担額について,その変更を求めるには,それが当事者の自由な意思に基づいてされた合意であることからすると,合意
当時予測できなかった重大な事情変更が生じた場合など,分担額の変更をやむを得ないものとする事情の変更が必要である。
そこで,本件についてこれをみるに,前記認定のとおり,相手方は前件調停が成立してから×か月後に就職先を退職し,大学の研究生として勤務して収入を得
る状況となっており,平成21年の収入は合計399万7890円となり,前件調停成立時に比して約3割減少していることを認めることができる。相手方は,退職の
理由について,人事の都合でやむを得なかった旨主張するが,実際にやむを得なかったか否かはこれを明らかにする証拠がない上,仮に退職がやむを得なかったとして
も,その年齢,資格,経験等からみて,同程度の収入を得る稼働能力はあるものと認めることができる。
そうすると,相手方が大学の研究生として勤務しているのは,
自らの意思で低い収入に甘んじていることとなり,その収入を生活保持義務である婚姻費用分担額算定のための収入とすることはできない。
したがって,本件においては,相手方の転職による収入の減少は,前件調停で合意した婚姻費用分担額を変更する事情の変更とは認められない。
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大阪高等裁判所平成20年10月8日決定
抗告人は,相手方が,長男を幼稚園に通わせ,長女を保育園に預けていることから,就業が可能であるので,少なくとも年収125万円程度の潜在的稼働
能力があるものとして扱うべきである旨主張するが,潜在的稼働能力を判断するには,母親の就労歴や健康状態,子の年齢やその健康状態など諸般の事情を総合的に検
討すべきところ,本件では,相手方は過去に就労歴はあるものの,婚姻してからは主婦専業であった者で,別居してからの期間は短いうえ,子らを幼稚園,保育園に預
けるに至ったとはいえ,その送迎があり,子らの年齢が幼いこともあって,いつ病気,事故等の予測できない事態が発生するかも知れず,就職のための時間的余裕は必
ずしも確保されているとはいい難く,現時点で相手方に稼働能力が存在することを前提とすべきとの抗告人の主張は採用できない。
また,抗告人は,相手方が一方的に
別居したことを考慮すべきであるとも主張するが,一件記録によれば,夫婦間の口論あるいはののしり等が高じた末,相手方が腹に据えかねて自宅を出て行った面もあ
り,一方的に相手方に非があるともいえないから,抗告人の上記主張も採用し得ない。
-
福岡家庭裁判所平成18年1月18日審判
申立人は,勤務先を退職し,収入が無くなったのであるから,養育料について免除されるべきであると主張する。
前記1(3)(4)によれば,申立人は,前件審判で定められた養育料を一度も任意に支払ったことがなかったところ,前件審判に基づく強制執行を受けたことを契
機として,勤務先を退職したから,現在は収入を得ていないことが認められる。
しかしながら,前記1(2)(4)によれば,申立人は,前件審判時から,強制執行を受けた場合には勤務先を退職して抵抗する旨の意向を有していたところ,現に
強制執行を受け,裁判所により強制的に支払わされることに納得できなかったために,勤務先を退職したのであり,稼動能力は有していると認められる。そもそも,未
成年者らの実父である申立人は,未成年者らを扶養し,未成年者らを監護する相手方に対し養育料を支払うべき義務があるところ,前件審判において,養育料の支払を
命ぜられたにもかかわらず,一度も任意に履行せず,強制執行を受けるやそれを免れるために勤務先を退職したのであるから,申立人が現在収入を得ていないことを前
提として養育料を免除するのは相当ではなく,申立人が潜在的稼動能力を有していることを前提として,勤務を続けていれば得べかりし収入に基づき,養育料を算定す
るのが相当である。
-
東京地方裁判所平成17年5月13日判決
争点6(離婚後の監護費用(養育費))について
原告(夫)は,別居中の婚姻費用として17万5000円の負担をしてきたこと,原告の収入(売上げ)は,1000万円ないし1200万円程度であること,原告が
弁護士を業として営むには,事務所負担金等相応の経費が必要であること(乙35),長女A子は,私立小学校に入学したことを考慮し,離婚後の監護費用としては,
1か月あたり12万円が相当である。
原告は,離婚後の監護費用を定めるにあたっては,被告(妻)の潜在的稼働能力も考慮すべきであるとするが,長女A子は小学校低学年であり,前記第3,1(1)セ
のとおり,長女A子の監護養育には,健康や環境への配慮が必要であるから,現状において,潜在的稼働能力を考慮すべきとは言えない。
- 東京地方裁判所平成17年3月8日判決
養育費について
原告(夫)の平成15年度の収入が1001万9300円であったことは前記認定のとおりである。一方,被告(妻)もパートタイムであれば就労は不可能ではなく,年額120
万円程度の潜在的稼働能力を有していると認められる(乙3参照)。これらを前提に,統計資料を基に作成された養育費の標準算定方式なども勘案すると,原告は,養
育費として,本判決の確定により離婚が成立した日の翌日から長男が20歳に達する日の属する月である平成28年8月まで1か月11万円を毎月末日限り支払うのが
相当である。
登録 2016.4.4
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