選挙人の買収
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2012.11.3
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弁護士河原崎弘
相談:選挙と香典
今月の5日が知事選の投票日でした。投票日が近づいたある日、「家の前まで来ている」と電話があり、前の職場の同僚が訪ねてきました。10年間ほど会ったこともなかったのですが、年賀状の交換はしていました。
話は、選挙のことでした。彼女は、ある宗教団体のメンバーであり、その関係の候補者に投票して欲しいとのことでした。
私は、適当に答えていました。彼女は漬物(1000円程度)を土産に持ってきましたので、帰るときに、私は、お返し(2000円程度)を渡しました。
投票日の前日、再度、彼女が訪ねてきました。やはり、選挙を頼むといい、香典として1万円を置いていきました。1月ほど前に私の母親が亡くなり、前回彼女が来たときに、私がその話をしたからでした。香典を受け取るとき、私は、「これ買収じゃないの」と言いましたら、彼女は、「大丈夫よ」と答えました。
私は、やはり、買収ではないかと気になり、1万円を返すべきか思案し、知人の弁護士を訪ねました。
回答:公職選挙法に違反する可能性
選挙に関し、金銭、物品、財産上の利益の供与、職務の供与は厳しく取り締まられています。あなたの場合、漬物などの物品でも、買収であり、法律(公職選挙法221条)に違反し、罰則として、3年以下の懲役または禁固が、50万円以下の罰金が科せられます。
1万円は、名目上は、香典ですが、実質的に、「金銭の供与」で、法律に違反します。選挙は終わりましたが、1万円については、返還した方が良いでしょう。1万円を返還しても、法律に違反したことには、変りはないですが、あなたの置かれた情状が変ります。返すと人間関係が壊れるおそれがありますが、それは仕方のないことです。違法行為を前提とする人間関係は壊れてもやむをえないです。
1万円を返すには、現金書留を使うなどして、返金したことの証拠が残るようにしてください。
この宗教団体は、大規模に違反行為をしている可能性がありますので、芋づる式にあなたも、あなたの件が発覚し、あなたも違反の責任を問われることもあります。
気が付かないうちに犯罪を犯してしまうので注意すべきでしょう。
判例
- 仙台高等裁判所秋田支部平成27年6月16日判決
平成25年8月当時,Bが立候補する決意が周囲に判明している状態ではなく,被告人はBが立候補しないと考えていたことから,Aから何らの説明も
なく受け取った茶封筒に入っていた10万円は亡夫の母親の葬儀関係費用として受領したにすぎず,「供与の趣旨の認識」を欠いていたと主張する。
しかし,信用できるA証言を中心とする関係証拠によれば,被告人は,旧D議会議員であった頃から長期にわたり議員を務めていたこと,Aとは旧知の間柄であ
り,本件選挙の前である平成22年1月施行の平川市長選挙においては,Aと共に,Aと親戚関係にあるBを応援したこと,Bは,平成25年6月,被告人も出席して
いた平川市議会定例本会議において,本件選挙への出馬の意思を質問され,同年9月に開催される議会ではできる限り前向きな意向を表明したいと発言し,同年8月ま
での間にこれを撤回し,又は出馬に消極的な発言をしたことはなかったことなどが認められる。
このような被告人の地位,被告人とA及びBとの関係並びに平成25年8月当時の選挙情勢を前提とすると,Aが,被告人に対し,同月10日,「Bさんを頼む
よ。」という趣旨のことを告げて現金20万円の入った茶封筒を渡したことが認められるが,他方,その際,被告人がその趣旨をAに確認したり,その後茶封筒内の現
金を確認したときにAに現金の返還を申し出たりした事情が認められないことなどからすれば,被告人に「供与の趣旨の認識」があったことを優に推認することができ
る。原判決の認定判断に不合理な点があるとは認められない。
登録 July 14, 2009
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