WORKING QUADS GUESTS
後郷 法文 さん

Research Association on Work of the persons with severely disabilities;
President, Kazuo Seike

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1995年5月、Stephan M. Salzberg さん、来福

「学生生活を振り返って」

後郷法文さん

 バリアフリーの意識はここ数年で確かに高まってきている。もちろん、社会全体の
意識としては、いまだ十分なものとはいえないが、それでも来る高齢化社会を意識し
てか、公共施設を手始めに、大手のデパートなどではスロープやエレベーターはもち
ろん、障害者用トイレなどの設備の充実が目立っている。かく言う、私の通う北九州
大学も例外でない。敷地内のほとんどの建物にはスロープが設置されてあるし、エレ
ベーターや障害者用トイレも他の大学に比べると設置率が高い。当然のことながら、
北九州大学といえども、当初からこのような環境であったわけではない。私の知り合
いの障害者は、今から十数年前、北九州大学への進学を希望したが、進学を断念せざ
るを得ないほどの環境であったと言っている。その頃に比べると、私が入学した当時
は、松木君も含めて多くの先輩障害者がおり、すでに設備の整った大学という印象を
与えられた。

 さらに、私が大学2年になろうという頃、北九州大学は新館を設立した。この新館
は近代的なイメージを与える外装をしているが、内装においてもなかなかで、エレベ
ーターを6台有し、うち3台に車椅子用ボタンが設置されている。車椅子用トイレも三
つあり、うち一つは自動ドアという気の配りようである。障害者向けの給水機や公衆
電話の設置などもあり、これを最初に目にしたときは、思わず動かない両手で拍手し
そうになった。

 こうしてみると、大学敷地内においては、もはや不自由がないようにみえるが、こ
れがそうでもない。 実際に使ってみると、その使い勝手の悪さに失望することが多
かった。実用的でないのだ。たとえば、車椅子での利用を考えて全体を低くし、ボタ
ンを大きくした給水機は、しかし、車椅子では膝がつかえて給水口まで口を近づけら
れないといった具合なのである。こうなってしまうと、せっかくの配慮が健常者にと
っても、障害者にとってもムダなものになる。こうした失敗の原因は、建設段階にお
いて、障害者に意見を求めなかったことにあるのではないだろうか。現在、私を含め
て数人の障害者が大学に籍を置いているが、彼等の誰か一人にでも意見を求めていた
なら、より素晴しい建物になっていたであろうと悔やまれる。

 施設の充実という点のほかにも、障害のある人間にとって北九州大学は居心地がよ
い。というのは、土地柄であろうか、北九州大学で働いている人は親切な方が多いよ
うである。お金の出し入れから食事の準備までしてくれた生協の職員の方や、いつも
図書館の出入りに気を配ってくれ、時には付き添って本を探してくれた図書館職員の
方(試験期間中は学生が多いため彼等にお願いするが、普段は本をとって欲しくても
人がいない!?)には「本当にお世話になりました」と言いたい。

 私のような重度の障害者が日常生活を送るには、施設の充実だけでは補いきれない
部分がどうしてもある。その部分は、障害の程度が重くなれば重くなるほど増すので
あろう。そうすると、結局、頼るところはマン・パワーということになるのだが、こ
の点、大学には十分なマン・パワーがあったように思う。このことはゼミ活動を通し
ても実感した。

 3,4年のとき、私が参加したゼミは、少年院や刑務所などの施設の参観を活発にお
こなうことで有名な行動的なゼミであった。当然、これら施設にスロープなどの設備
は完備されていない。そればかりか、その施設にたどり着くことさえ、車椅子では困
難を極める(強制施設は街はずれに追いやられる現状があるため、交通の便が悪いの
だ)。そのような状況であっても、私のゼミの友人は私を見捨てることなく、知恵と
力を振りしぼって見事に施設見学を実現させてくれた。そして、この困難を共にした
ことで、私は、私の障害を多少なりとも友人に理解してもらえたし、私と友人との間
に、より良い信頼関係が築けたのではないかと思うのである。

 このような私の学生生活はとても大切な思い出であり、今後の私にとって、貴重な
財産となるであろう。

                                          1998年2月18日

                                            後郷法文



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