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[7] 改造自動車、
自動車は地下鉄やバスとならんで僕のアメリカでの外出手段の一つだった。僕は一人では電動車椅子から他の座席への移動ができないので、電動車椅子のまま乗れるリフト付バン以外の自動車の移乗には介助者が必要だった。ボストンでは僕と同じ損傷レベルでC-5頚髄損傷者だが自分で改造自動車を運転していたジムと会った。
1986年6月、ボストンの友人のアパートに滞在していた時、トランジーショナル・ハウスに出掛けた。ボストンCILは、障害をもつ個人を病院、施設、ナーシング・ホーム等から地域社会に出すための通過点としてトランジーショナル・ハウスという居住型のプログラムを持っている。
アパートから行くのに、電動車椅子のままボストン市内を走っていたバスを使ってみた。ボストンのリフト付バスには2種類あったが、リフトがバスの中央のドアに付いている設備の良い新しい型のバスに乗った。目的地を乗り間違えていたが、親切な黒人のおばさんのドライバーが、彼女のボスの許可を得て、僕達のためだけにバスを動かしてくれた。バスは快適だった。
トランジーショナル・ハウスでは最初に、チンコントロールの電動車椅子を使っていたC-4頚髄損傷者ともう一人の電動車椅子を使っていたトランジーショナル・ハウスの入所者・利用者・住人に会った。彼らの部屋に入れて貰った。良く設備の整った冬暖かそうな部屋だった。僕自身が電動車椅子を使っているからだろうが、勿論事前の連絡も入れているが、障害者関係の場所では大体いつも僕はフリーパスだった。
短期間プログラム・ディレクターのジムと会った。彼はC-4・5の頚損者だった。15年前、2人の男に飛びかかられたたかれて受傷し頚髄損傷者になった。ジム自身、古い方のトランジーショナル・ハウスの卒業生だった。
1万ドル(1ドル200円のレートで200万円)のフォードのバンに1万6千ドル(320万円)の改造費を掛けて、ジム自身が運転できるようにしていた。
「バン自体は自費だが、改造費は職業リハビリテーションの方から出た。
最初に運転免許の申請に行った時は、痙攣が強いと言う事で却下されたが、その後、服薬で痙攣を押さえて再度申請したら認可された。
ブレーキとアクセルを操作する右手は弱いが、短い棒を着けてハンドルに差し込み、それを回す左手はまあまあ強い」
とジムが言った。
ジムは特殊な磁気の着いた棒で車の鍵をあけ、リフトを使って電動車椅子のままバンの中に入り、運転席で電動車椅子を最も良い位置でで固定して運転していた。
彼の電動車椅子の最高速度は時速13マイルで安全ベルトを使っていた。
僕が、
「そんなに速い電動車椅子があるなら自動車なんか要らないじゃないか」
と言うと、
「寒い日や雨の日に要るんだ」
と言っていた。
ジムは、
「アパートに一人で住み、パート・タイムの介助者が来る。
介助者は週に37時間だ」
と言った。
同じ日に会ったトランジーショナル・ハウスの長期間プログラムのデレクタ−の話では、
「通過プログラムのトランジーショナル・ハウスには、9カ月以内の短期間プログラムと3年以内の長期間プログラムがある。
しかし例外で5年居る人(女性)もいる。
私達は追い出すことができない。
最大の問題は住居を見つけることだ。
ボストン市内は、利用可能で、楽しい所や便利な所がたくさんあり、他所からトランジーショナル・ハウスに来た障害者もボストンに住む事を希望するが、住居を見付ける事は難しい。
ボストン(米国)にはセクション8ハウジングと言う法律があって、その建物が建てられた時、政府の援助を受けたものであれば、障害者はその収入の30%を家賃として払えば良い事になっているが、実際にはそのようなアパートに入る事は難しい。
アテンダントは住居程重要な問題ではない。
あと、このプログラムのディレクターとして、トランジーショナル・ハウス内でのアルコールやドラッグの問題などがある」
ということだった。
後でジムに、
「ボストン市内で利用しやすいシーフードのレストランを教えてくれ」
と頼んだら、
「俺はシーフードは食べない。
肉しか食べないんだ」
と言いながら、他の職員に聞いて教えてくれた。
ジムと話してみて、また彼を見ていると、バークレーとは少し違うタイプだが、メディケイドを基礎にして、マサチューセッツ州ボストンにも障害者のおとぎ話の国があるんだなあ、と言う気がした。最後にまたC-4頚髄損傷者の人の部屋に寄って、トランジーショナル・ハウスを後にした。
ジムはC-5高位頚損者でも改造自動車の使用で運転免許を取得でき、介助者なしで外出が可能となり、仕事や障害者運動の参加も可能となるということを体現していた高位頚損者の生活例だった。
日本、アメリカ、国籍を問わず世界の障害者は、日常生活の自由を拡げてくれるディバイス、グッズなどを必要としている。歩くズボン、握る手袋みたいなのができれば、もう最高なんだけれど。
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