レオノール・フィニ展
展覧会名:レオノール・フィニ展
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
日時:2005年6月18日
入場料:1200円



 実を言えばそれまで名前を意識したことも、作品を注視したこともなかったレオノール・フィニというイタリア出身のアーティストの、日本では20年ぶりとなる本格的な展覧会で、96年の没後では初になる回顧展「レオノール・フィニ展」を渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで見物。これは良いっ! シュールレアリストって分類されてアンドレ・ブルトンだとかマックス・エルンストとったあたりとひとかたまりにされ、サルバドール・ダリにも通じる精緻な筆致からそちら方面とも関連づけられて言われる事も多かった画家らしいけど、なかなかどうしてどの作品も実にオリジナリティにあふれメッセージを持ち強く、そして激しく何かを見る者に訴えかけて来る。

 台座の上に座る乳房もあらわなスフィンクスの絵が有名らしくポスターにも使われていてそれを見るとなるほどダリっぽい精緻さと発想性が伺えるレオノール・フィニ。けれどもそうし超絶リアルでシュールな絵は割に初期に描かれた作品で、見るからに異次元へと誘ってくれる絵として楽しくレオノール・フィニ理解のひとつの切り口にはなっても、それで全体は語れない。

 だいいち画家を志したトリエステ時代の絵が続くシュールレアリスムの時代と違ってて目にも優しい肖像画群で、感じを言うなら有元利夫的っというか柔らかい色彩でフレスコ画っぽい平面系の人物を描いていて、それもそれで素晴らしい作品で見れば誰もが好きになる。有元自身がイタリアのフレスコ画に衝撃を受けて画業にのめりこんでいった人だから、トリエステで育ったレオノール・フィニが有元に通じる絵を描いてても不思議じゃない。歳から言えば先輩だし。

 そんな明るい世界から一転、シュールレアリスムの時代をくぐって次に進んだのが「鉱物の時代」でこれは色の出てきた時代のオディロン・ルドン的な沈んでいるのに絢爛に見える不思議な色彩の中に沈みそこから浮かび上がるような人物だったり、機械めいた人物だったりが描かれていてこれはいったい未来の図か、それとも異星の図かとSF心、ファンタジー心をくすぐられる。

 「ドラゴンの番人」なんて何がドラゴンで何が番人だか分からないんだけど、鉱物的で無機的で、なのにどこか生命感を持つモチーフがそこにあって「ドラゴンの番人」的な何かを想起させる。そうタイトルによって言われたからそう思うだけかもしれないけれど。

 「エロティシズム」と銘打たれたコーナーに並べられたのは女体もあらわな女性たちが描かれた作品群で、そこには戯れる女性たちが持って男たちの目を引きつけて止まないエロスがあり、なおかつ女性にそんな関心した見せない男性の下心を見透かし引き寄せはじき飛ばすパワーがあり、女性たちが己に持つプライドがあって居住まいを糺される。とりたてて運動めいたところはないにも関わらず、強いメッセージは伝わる作品というのはとても難しいけど、それをやってしまっているところに深く感心。

 円熟期にはいるとシュールさがあり優しさがあって強さもあって、ちょっぴり黒さも出てきたりと実に様々。ダリに有元にルドンにデルヴォーにバルテュスに興味がある人たちを惹き付け満足させつつもしっかりとオリジナルな世界へと観覧者を引き込みファンにさせる。SFとか幻想とかに興味がある人もいって損なし。あっとあと猫好きも。アパルトマンに15匹もの猫を飼いながら暮らしていたって話のレオノーラ・フィニの絵には、ふわふわとしてふかふかとした猫たちがいっぱい描かれていてその柔らかそうなボディをぎゅっと抱きしめたくなってくる。

 とにかくデカい猫ばかり。そんなのが10数匹もいたらきっと部屋は猫でぎゅうぎゅう詰めだったんだろう。部屋一杯の猫。浸かってみたいなそんな部屋。タイトルに猫が入って猫好きっぷりが伺えるフィニの著書で、工作舎から昔出た「夢先案内猫」も展覧会に合わせて復刊してるから興味を覚えた人は買って読もう。
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