紙の上の冒険
展覧会名:メトロポリタン美術館所蔵・紙の上の冒険
会場:東京国立近代美術館
日時:1995年4月23日
入場料:1200円



 産経新聞の主催する美術展では、一昨年のMOMAの物が人気、質ともに抜群の成績を収めたが、今回はそれに比べると、いささか地味との印象を拭い切れない。そもそも会場が竹橋の国立近代美術館とあっては、大量の観客を動員して何百日にも亘って興業を打つ、といった雰囲気にはならないのが当然ではあるが。

 もっとも僕個人としては、この美術館が大好きなので、中身がどんなぼろ屑であってもいっちゃんだけど。

 さて紙の上の冒険と題された今回の美術展。中身は地味どころか最先端を行くすっげーものばっかりで、印象派の淡い絵を見慣れた日本人の眼には、ちっとも楽しい絵に映らなかっただろう。キャンバスを黒と淡い黒と、灰色に塗り分けただけの巨大な絵画を2枚並べた展示なのど、なんでこれがゲージュツなの、いったいいくらするの、という 日本人なら誰でも抱く感情を、普段の1000倍くらいの大きさで引き起こしてしまう。

 だけどずっと見ていてごらん。眼がなれてくるに従って、暗い中にうっすらと起伏が見えてくる。それこそ画家が自分の手で絵の具を塗り、削り、また上塗りしていったプロセスを、今に再現して見せてくれている。人によって見えて来る物が違うかもしれない。それは僕らの心の状態が、この黒い鏡に映し出されているからなのだ。

 クーニングはカキカキした人体顔得意で、線と面塗だけで女を描く。バリントン・ベイリーの小説「王様の家来がみんな寄っても」が、「SFマガジン」に掲載された時に付いていたイラストの王様は、たしかこんなカキカキとした王様だった。

 女性の口だけいやにリアルだと気に掛かってたが、近寄ってみたらなんと、写真が切り抜いて貼ってあった。写真集だけでは分からないことが、本物だと見えてくる。


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