a.スイング・ジャズ
プロ野球っていえば、セ・リーグと大リーグ。絵画でいえば印象派と狩野派っていうように、物事はたいがい、大まかに二つに分かれるよね。ジャズもおんなじ。ジャズを大まかに二つにわけるとね、それは、スイング・ジャズと、モダン・ジャズ。
もちろん、パ・リーグや抽象画があるように、ジャズにだってそのほかのものだっていっぱいあるんだけどね。まあ、おおまかに、ね。
ジャズっていうのはね、アメリカでできたポピュラー音楽の一つなんだけど、アメリカって若い国だからね、ジャズだって、そんなに歳はくってない。せいぜい、7,80年くらいなのかな。詳しくは知らないけれど。
7,80年前といえば、1920年代。華やかなりしアメリカの古き良き時代。人々は夜な夜な着飾ってダンスパーティで色恋に明け暮れていました。そのまんま華麗なるギャッツビー。
ダンパに欠かせないのが、もちろん音楽。タイタニックの一等船室だったら、ダンス音楽は弦楽四重奏が奏でるクラッシックで充分なんだけれども、ソコは陽気なアメリカ人。もっともっと刺激的で、楽しくて、華やかなダンス音楽を求めました。
激しく踊るためにはビートが必要、ってわけでドラムセットが音頭を取って、ウッドベースが進行役。騒がしい会場に響き渡らなければいけないから、トランペットやサックスや、大きな音が出せる楽器をいっぱい持ち込んで。うきうきさせるためにリズムが揺れる(スイング)。こうしてできたのが、スイング・ジャズ。奏でまするはビックバンド。
さあさみなさん、踊りましょう。
ビックバンドって、大きなバンド。ジャズの世界ではオーケストラって、呼ばれてるよ。
バンドって聞いて、だいたい何人のバンドを想像する? ビートルズは、ドラム、ベース、ギターが2人の4人だよね。ミスチルもそうか。まあミスチルは、小林武史が入ったり、ツアーではサポートはいったりするけれど。まあふつうのバンドって4,5人のことが多い。
でも、ビックバンドっていうのはおっきなバンドだから、もっともっと人数が多い。ふつうのビックバンド編成っていったら、ドラム、ベース、ピアノのスリーリズムに、トランペット4、トロンボーン4、そしてサックス5の16人。後はお好みに応じてギターが入ったりクラリネットが入ったり、もちろん歌が入ったり。まさにオーケストラ。クラッシックのオーケストラは40人から80人、多い時で100人くらいだから、それには負けるけどね。
このでっかいバンドが奏でるスイング・ジャズ。当時、世間は様々なビックバンドとそれを率いる個性的なリーダーがまさに百花繚乱。
だったはずなんだけれども、あんまりよく知らないんだよね。映画、ブルース・ブラザースに出ていたキャブ・キャロウエイくらいかな。名前が思い浮かぶのって。
なぜって? だって、レコードがあんまり残されていないんだもん。
エジソンが蓄音機を発明したのがいつだったかは知らないけれど、スイング・ジャズ全盛の20,30年代には、今のようなCDはもちろんないし、レコードだって30センチのLPレコードなんてある訳なく、せいぜいあって78回転のSPレコード。ちなみにLPってLong
Playの略だったんだよ、知ってた?
そんなもんだから、そのレコードは21世紀の現在にはあんまり伝わってない。もちろんない訳じゃないけれども。
たとえば、今僕が聞いているCD。スイング・ジャズが一つの頂点を極めた演奏。スイング王と呼ばれたベニー・グッドマンのカーネギーホールでのコンサート。
スイング・ジャズは、もともとダンスパーティ用の音楽だったから、お芸術の好きなインテリ層には受けが悪い。ロックが不良の音楽ですっていって先生方に受けが悪かったのと同じだね。一方カーネギーホールはクラッシックの殿堂っていわれているくらいインテリの好むお芸術の本場。
グッドマンはこの下賎なスイング・ジャズで売れに売れてスイング王っていう称号で呼ばれたんだけれども、上流社会では一流とはされずに本人はかなりの劣等感があったのかな。カーネギーが決まった時はそりゃあ喜んだらしい。って僕は映画でしか知らないんだけれども。
ともかくスイング・ジャズがクラッシックの殿堂に殴り込みをかけたのがこの演奏。下賎な音楽が、インテリに認められた瞬間。ついでに、肌の黒いアフリカンアメリカンがカーネギーのステージに立つのも最初だったんじゃないかなあ。(グッドマンは白人ね、一応いっとくと)
そんな能書きは本当はどうでも良くって。
問題はこの録音がスイング・ジャズ全盛期の1938年の録音で、なおかつスクラッチノイズがひどくって、よっぽどの好き者でなければ鑑賞に堪えない、ってこと。演奏はいいんだけどね。
そう、スイング・ジャズは、録音技術黎明期の音楽。
そしてスイング・ジャズをはやらせた、もう一つの重大な技術的側面があって、それは拡声装置。こっちも黎明期だったんだよね、当時。
でっかい音っていうのはそれ自体が快楽だから、古来からでっかい音で音楽を奏でる方法がいろいろ考えられた。それは、いっぱいの人数で声を出して歌うとか、大勢の奴隷を使ってパイプに風を吹き込んでパイプオルガンを弾くとか、大勢のメンバーでバンドを作るとか。
そういうニーズで作られたのがオーケストラ。大人数がいっせいに音を出しておっきな音を奏でるバンド。クラッシック界でもジャズ界でもね。
だけど、大勢のメンバーがいるってことは、維持費がかかるんだよね、当然。メンバーみんなを食わせなくっちゃいけないから。NO
BALLADSツアーで、要さんもいってたでしょ、Big Horns Beeはお金がかかるって。
さらに、録音技術とともにPAと呼ばれる拡声装置が発達してきて、少人数でも大きな音を出せるようになっちゃった。つまり、おっきな音の音楽が、安く作れるようになった。だから、お金のかかるビックバンド、すなわちスイング・ジャズはだんだんと衰退していったんだ。
というわけで、スイング・ジャズは、機械の手を借りないで、贅沢に人を使っておっきな音を作っていた時代が残してくれた、宝物なんだよね。
ふう。
うんちくはここまでにして、スイング・ジャズを楽しみましょうか。
今回のおすすめは、本文中にも出てきた、Benny Goodman At
Carnegie Hall - 1938 - Complete。それからもう一つ、SWING!
Original Cast Recording。これは純粋なジャズ・アルバムではないし、ビックバンドでもないんだけれど。でも十分楽しいし、スイングしてるしね。楽しけりゃあいいんだよ。
音楽ってそういうものでしょ?
聴き所はね、それぞれ違うと思うけど、やっぱりSing Sing Sing。ベニー・グッドマンの不朽の名曲、不朽の名演。それから、SWING!の方は、耳を澄ますと聞いたことのあるフレーズがいっぱいだよ。そしてとにかく楽しんで。
さて、今回はここまでです。リクエストがもしいただけたならば、次回はね、スイング・ジャズに代わって台頭した、少人数で演奏する新しい(モダン)ジャズの話でもしようかな。
スイング・ジャズが何でスイングするか、っていう話もちょっとだけしたかったんだけれどもね。これもまた、リクエストがあれば、っていうことで。
じゃあ、また。
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