じゃみっ子ジャミラの故郷は地球
Jamikko-Jamira talking about "Sweet Home Earth" #2

第2回「パヴァーヌ1992 の巻」

たこいきおし

「原田知世 produced by 鈴木慶一」を読む。「原田知世 LIVE!! with 鈴木慶一」読む。


 こんなタイトルを付けると、またまたキース・ロバーツの話を枕に振るつもりか、とか思われてしまうかもしれないが、今回はそんなつもりは全然ないのである。でもこういう書き出しにしてしまった手前(?)、せっかくだから、少しだけキース・ロバーツの話もしてしまおう(笑)。

 知ってる人はもう知ってると思うが、昨年、福武書店が海外文学叢書から撤退した。ハードカバーで、『エンジン・サマー』とかを出していたシリーズである。そのラインナップにはキース・ロバーツ『パヴァーヌ』『インナー・ホイール』があげられており、大野万紀先生なども昔訳していた原稿を引っ張りだしてきて完訳の準備を進めていたとのことであった。

 ところが、昨年この叢書の担当者が他の部署に突然配属替えされたのに伴い、叢書そのものが立ち消えの形になってしまったのである。これがどうも、バブル崩壊に伴う不採算部門の整理みたいな意味あいであったらしい。サンリオSF文庫の時といい、今回といい、つくづく日本での翻訳運にみはなされた作家である(笑)。こうなるともう笑うしかないような気もする(笑)。


 さて、昨年(1992年)は音楽に金を使うことの少ない僕にしてはけっこういろいろCDを買ったのである。後輩に薦められたフリッパーズ・ギター『ヘッド博士の世界塔』『カラー・ミー・ポップ(ベスト盤)』。この4年間待ちに待ち続けたゼルダの最新アルバム『LOVELIVELIFE』。ムーンライダーズ『A.O.R.』。その他こまごま。

 ムーンライダーズは非常に心地よく聴けてしまうのがちょっと期待外れなアルバム(笑)。なんとなく肩すかしを喰った感じである。でも“ダイナマイトとクールガイ”と“シリコン・ボーイ”がカッコいいので通勤のBGMにはけっこう活躍してもらった。因みに僕のクルマには前のオーナーの置き土産のカーCDがついていて、とっても重宝している(笑)。実はこのカーCD、クルマ買って数ヶ月にして1回壊れて、入れたCD(その時は『ブレードランナー』だったけど)が出てこなくなって往生したことがある。修理には1万円ちょっとかかった。でもカーCDを自分で買って付けることを考えたら安いものだと思う(笑)。

 フリッパーズ・ギターもひとしきりクルマの中で流した。実は今、買って4年たった部屋のミニコンポのCD部分が故障しているので、買ったCDはまず車に持ちこんで、気に入ったらしばらくかけっぱなしにしちゃうのである(笑)。そんな状態をもう半年近くもやっている。とっとと直せばいいようなもんだが(故障といってもCDの演奏部分には何にも問題はなくて、単にフロント・ローディングの駆動部分がイカれてCDを入れることが出来ないというだけ(笑)。あ、故障の症状としてはクルマの時とおんなじか(笑)。何か呪われてるのかしらん(笑))、このミニコンポ、立方体の形をした1体型なので、これを修理に出すとアンプがなくなっちゃうのである。するってえと、修理に出してる間はステレオ音声が使えない。幸い(?)、LDプレーヤーがコンパチのやつで、こっちを使えばCDも一応は聴けるので、不自由はしていないんだよね(笑)。

 ともあれ(笑)、そんな閑話は休題してでも特筆すべき昨年のベストは何といってもゼルダ。この4年間、『空色帽子の日』と『SHOUT SISTER SHOUT』を繰り返し聴き返しながら待ち続けた受難の日々は十二分、いや十五分くらいには報われた。と、思った(笑)。絶対のお薦めアルバムである。

 そんなこんなで、けっこう幸せといっていい1年間ではあった(笑)。


 で、まあ、ここまでの話ではわざと出さなかったんだけど、これも昨年の準ベストくらいには入れたいかな、というのが原田知世の最新アルバム『GARDEN』。ここ3〜4年くらいの原田知世のアルバムなんてちっともフォローしてはいなかったからあまり偉そうなことはいえないんだけど、原田知世の10年間の活動の中でも間違いなくベストといっていい、と思う。あの完成度はちょっと半端じゃないぞ(笑)。

 鈴木慶一がプロデュースしていることで、ムーンライダーズ周辺のミュージシャンのチカラが結集されている、と、いうような話は前号のおたよりで吉田先生が書いているので、ここで再言するまでもない。だから、完成度なんか高くてあたりまえなのである(笑)。しかし、それよりも何よりも原田知世のヴォーカルが何とも気持ちよさそうで、よい(笑)。そしてそこには、僕の好きだった原田知世が、そのままのキャラクターで、重ねた年月の分だけきっちり深みを増して存在していたのである。

 今から思い返してみるに、原田知世は割と一貫して“知”的であったと思う。

 『早春物語』という映画は原田知世の主演作品の中でも屈指の駄作(笑)ということで衆目は一致すると思うけど、アレが駄作であったというところに一つの象徴がある。

 とり・みきの『愛のさかあがり』の中で、映画撮影中の原田知世をとり・みきが訪ねるエピソードがある。このエピソードの最後で、原田知世はとり・みきに向かって「『早春物語』をどう思われましたか?」と尋ねている。その後でかわされた会話については故意に伏せられた形になってはいるのだが、その内容はおそらく一つしか考えられまい。

 『早春物語』は薬師丸ひろ子主演『探偵物語』と、ストーリーの構造がまったく同じなのである。主人公の少女がふとしたことで中年男性と恋に落ち、成長する(笑)。物語のラストが空港での別れのシーンであるところまで一緒だったのには流石に苦笑させられたのを覚えている。

 なにゆえに薬師丸ひろ子がやったことを原田知世にもう一度繰り返させる必要があるのか? 観客ですらそう思うくらいであるから、当の原田知世がそういう疑念を持っていなかった筈がない。その疑念を反映してか、『早春物語』の中の原田知世は他の作品に比べ生硬な印象がある。単に演技がヘタというのではなくて(確かに演技そのものもヘタなんだけど(笑))、自分の演ずる役柄にたいして充分に納得し切れていないが故の生硬さ。あの映画の世界の中では主演の原田知世だけが妙に浮いているのである。

 いみじくも大林宣彦がいった言葉がある。「原田知世は“対話型”の女優である」、と。与えられた役柄と“対話”して、その役柄について“頭”で納得して折りあいをつけるまではちゃんとした演技ができない。

 北村薫の小説に出てきた言葉で、「知は永遠に情を嫉妬せざるを得ない」という円紫師匠の台詞があって、これは要するに、“情”よりも“知”の方が先に立っちゃう人間は、何か引っかかることがあると、考えて考えて、充分に納得できるまでは行動を起こせない、だから、直情的にぱっと行動できる人のことが時として羨ましくなる、みたいな話なのだけど、原田知世はこの“知”のタイプじゃないかと思う。まあ、不器用(笑)というか、世渡りが下手(笑)というか、何にしても難儀な性分ではある。ただ、“自分”というものに対しては常に正直で、まっすぐである。この素直さってのは、やっぱり魅力だと思う(笑)。

 で、話は別に映画だけにかぎらなくて、原田知世自身が“納得”していないというのは、演技や歌の質に如実に反映される。傾向としては、演出とかプロデュースの“型”をハメてくるような方向性にたいしては、あまり相性がよくない。『早春物語』の生硬さ。それと比べると、『黒いドレスの女』『私をスキーに連れてって』なんかは肩の力がすっと抜けた感じでけっこう好きだ(笑)。“折りあい”がうまくついていたんだと思う。

 レコードでも、秋元康&後藤次利(笑)がプロデュースしてた“アイドル歌謡曲(笑)”の時期は、なんか窮屈そうに唄ってる曲が多くて、それよりは、3枚目のバースディ・アルバム『パヴァーヌ』の頃の方がよほど気持ちよさそうなのである。いわゆる“ノリ”のいい曲は全然なくて、穏やかな曲を穏やかなアレンジにのせて淡々と唄っている。あれはたぶん、原田知世がもっとも“自然体”に近かったアルバムだと思う。個人的には昔いちばん好きだったアルバムである。

 原田知世の過去の作品は1度しか聴かなかったという鈴木慶一も、そこいら辺のことはわかっていたんじゃないか。と、いうのも、『GARDEN』のラスト11曲めには弦楽四重奏にアレンジされた“早春物語”が納められているのだが、この弦楽器中心のアレンジは、映画主題歌のシングル“早春物語”ではなくてアルバム『パヴァーヌ』収録のバージョンをさらに発展させたもの、と思える。『GARDEN』そのものも、全体にゆったりとした曲を中心に構成されている。そもそも、過去の作品の中からなにゆえに“早春物語”がセレクトされたのか、とまで考えると、鈴木慶一が今回のプロデュースをするにあたって、『パヴァーヌ』にみられた自然体の原田知世を生かすべきキャラクターとして選択した、と思えてくるのである。

 あと、これは余談になるけど、鈴木慶一は、ムーンライダーズのレコーディングの時ですら12時前には現れないというのに(笑)、このアルバムの時は11時などという早朝(笑)から原田知世と部屋にこもって、マックで曲をいじったり、その場で原田知世に唄わせたり、そんなレコーディング以前の作業に随分の時間をさいたとのことである(笑)。そういうプロデュースの方法が、先に指摘した原田知世の性格としっくりきた、ということもおそらくはプラスに働いたに違いない。

 『GARDEN』のベースには、きっと『パヴァーヌ』の原田知世がある。というのは僕にとってはもはや確信に近いんだけど、ベースはあくまでベースにすぎない。『GARDEN』の原田知世には年齢相応の成熟がみられる。こういうアルバムを聴くと、10年という時間も捨てたもんじゃないかな、という気がしてくる。82年のデビューから『GARDEN』に到るまでにはいろいろ紆余曲折あった訳だし、これからもいろいろ紆余曲折していくんだろうとは思うけど、もうしばらくつきあってみるのもいいかもしれない(笑)。


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