神奈川月記9406

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冠省
『パトレイバー』が終わったんで「サンデー」系の購買マンガは『うしおととら』だけになった。
『うしとら』は500年振りに封印を解かれた屈強の妖怪とらととらを封じていた「獣の槍」を操る熱血漢の中学生うしおとが,最終的にはボスキャラたる「白面の者」を倒す怪異譚。とらは獣の槍を恐れて忍従しているものの隙あらばうしおを啖ってとんずらする気でいる。
滑り出し快調だったが,回を追うにつれて絵は荒れ話は浅薄になり展開も類型に堕してきた。明らかに週刊ペイスに負けている。まだ作者(藤田和日郎)の描きたらんという思いが伝わるんで読めるけれど,ちょっと休んだ方が良いなあ。
そう言えば「別コミ」の『BANANA FISH』も終了したらしい。らしいと言うは単行本を買うばかりで「別冊少女コミック」にチェックを入れられず──おれにも恥ずかしいコトがある──最終回を確認していないからだ。あれがエンディングなら今ひとつカタルシスを欠いている。吉田"ハナコ月記"秋生のハードアクション,ニューヨーク・ハーレム・ストリートキッズ・ドラッグ・CIA・アーミイ・マフィア・キッズポルノと横文字の世界である。
82年?に初出の『きつねのよめいり』(狐の群れで暮らす最後のニホンオオカミの話)を読んで以来おれは吉田を気に入っている。TVドラマの構成者によく吉田秋生という名を見るが同一人かは不明,たぶん違う。
『ジョジョの奇妙な冒険』は相変わらずおもしろい。ただ第4部に入ってやや迷走中と言うか一貫した目的が見えなくなった。
第3部終結間近に立てた予想では,第4部の舞台は50年後(2040年頃)の日本。初の国産有人火星探査シャトルが漂流中の鉱物カーズを回収してしまい,100年ぶりに究極の生物復活というもの。ところが蓋を開けてみると1999年の日本,ディオの遺産・スタンド遣いを生み出す弓と矢の争奪戦だった。今はそれもうやむやになり狭い町内でスタンド遣いどうしの小競り合いに終始している。スケイル小さいぞ。いやいや,まだ1999年の5月あたりだ,7月になればアンゴルモアの大王としてカーズが降臨するのである。ぞろぞろ出てくるスタンド遣いはそのとき対抗戦力になるのだ。予言しとこう。
弓と矢は恐らくカーズ一族に対抗すべく石仮面を研究し盡くした波紋戦士の産物である。エンヤ婆はどういう経路かそれを知って盗みだした。当然エイジアの赤石も狙っていたのだが,こっちはジョースターがカーズとの一戦で使ったまま失われている。エンヤ婆は息子(ハングドマン)を殺される以前からディオをむしろ利用してジョースターに復讐(逆恨みだが)しようとしていたに違いない。
『風雲児たち』もパワ ダウンしている。関ケ原以降五稜郭までの日本を作者の史観で描く歴史もので,おれの日本史のネタ本である。ま,『ホモホモ7』のみなもと太郎だからねえ,ギャグの手法も飽和したか。史実的にも盛り上がった徳川時代中期・解体新書やエレキテルの近辺がピークだった。
余談ながら──この月記全部が余談でえ──おれは1603年から1867年までの期間をはっきり「江戸時代」と習った。どうも昨今は「徳川時代」に統一されつつあるらしい。地名としての「江戸」を切り離し,為政者の名で表わす方針のようだ。明治・大正・昭和(戦前)とは平仄が合うが,するってえと徳川以前も北条時代とか豊臣時代とか呼ぶのかね。
あ,江戸で思いだしたが,杉浦日向子はとうとう筆を折ってしまった。『百物語』が完結したとき『ニュースステーション』にゲストで出てたね。何でも34歳で隠居するのが夢だったそうで,まことに惜しい。もともと寡作だったんだし年1本でも良いから描いてもらいたい。
『ドラゴンボール』は完全に自己中毒で身動きできなくなっている。それでも何とか読ませるのは鳥山の絵の達者さだ。どんなに遅くともピッコロを倒した時点で終わってもらいたかったぞ。
関係ないけど,さんまがアメリカン スクールの生徒に好きなTV番組を尋ねたら,くそガキ"DRAGON BALL Z"(zi:)と訛ってやがった。さんますかさず「ちがーう!ドラゴンボールゼット! 言うてみい」。だからおれ,さんま好きなんだ。
こちら葛飾区亀有公園前派出所』。どうぞこのまま続けておくれ,ただし両さんの性生活をあまり描写しないように。
『SLUM DUNK』。「少年ジャンプ」600万部は伊達でなく──毎日新聞と同じくらいの発行数。尤も週刊換算なら毎日は4000万部突破だが──サッカー人口を増やしてJリーグを作らせたのは翼くんだしバスケットを一躍ブームにしたのは桜木花道である。作者井上雄彦の前作は非常に下らん探偵ものだったのに何を以てこんなに化けるのであろうか。「ジャンプ」は一体どういう教育をしておるのか。
『ゴルゴ13』。あなたはぼくの憧れです。さいきん老いを気にする同業者が出てきましたが,あなたはどう克服してゆくのでしょうか。白兵戦を減らしても良いから狙撃は続けてください。
『美味しんぼ』。これの予想は完全に外れた。山岡と栗田の結婚は自明・披露宴で究極のメニューも頷ける。しかしここで最終回の筈だった。栗田は雄山の出席を望んだが頑として拒まれちょっとブルーな式前夜,雄山たおれるの報が入る。言うまでもなく肝硬変である。山岡は式を強行するが栗田に叱責されて披露宴の中途で病室へ。究極のメニューも運ばせた。雄山,医師の止めるのも聞かず箸を付け,うむ,うまいと言って息を引き取る。山岡おもわず,父さあん。
おお,完璧なフィナーレではないか。それなのにふたりは一応つつがなく挙式を済ませ,あまつさえ親子の確執まで解消されそうな勢いだ。それじゃ終わり時を失うぞ。こりゃあ離乳食をひとくさりやるまで続きそうだなあ。

さて上に挙げたマンガの共通点は何か。いや逆だ,ひとつも共通しない点は何か。いや違う,線の話である。どの絵も線がまるで異なる。
今のマンガ家の描く線の多くは大友"AKIRA"克洋か江口"ひばりくん"寿史の真似っこである。このふたりがあの線を生みだすのにどんなに苦心惨憺したことか,初期の作品を開けば一目瞭然だ。描線こそはマンガ家の意識と姿勢そのもの,おれはオリジナリティを尊ぶあまり誰かを真似た線を許しちゃおけねえ。天に代わって,おっと,巷じゃ月に代わってお仕置きよ,か。
ここではたと困ったことにシリアス タッチの吉田秋生の線は大友そっくり系なのだった。慌てて話を反らすことにする。
最近『デビルマン』が復刻されたので大喜びで買った。これは永井"マジンガー"豪の最高傑作で,TVのそれとはまるで別物である(TVのはTVのでおもしろかった)。他にちくま文庫で水木"ねずみ男"しげるが再販される度に買い込んでいる。
おれの好みは怪奇ものかと誤解されそうだ。とんでもない。おれは極めて臆病であって,『オーメン』とか『ドラキュラ』とかきちんと解決しないホラーやオカルトは絶対に観ない。夜中に便所に行けなくなる。でも『ジョーズ』や『エイリアン』は構わない。海や宇宙に行きさえしなければ安全だからである。
おれは単にありそうもないことをありそうに見せてもらいたいだけだ。日常って奴を描かれてもちっとも嬉しくない。
ええと,いま買い付けているのはぜんぶ書いたかな。あっと,「週刊SPA!」連載中の『ゴーマニズム宣言』。小林"異能戦士"よしのりに依る「毒針巷談」である。スタイルはとり・みきの『愛の逆上がり』(懐かしの「平凡パンチ」に連載だった)と同じだが,何と言っても現在メジャ誌で天皇制や部落や身障者について署名発言しているのは小林だけだ。特に目新しい意見は無いが──もちろん目新しさを求めるものではない──目立つ所でというのがポイントである。『東大一直線』の頃はあの恐ろしく下手糞な線(マンガに下描きのあるのを知らなかったそうだ)に呆れておれも正当に評価しなかった。『おぼっちゃまくん』ではおれは手が出ない。『異能戦士』再販してくれ。買うよ。
「SPA!」は投稿欄の「バカはサイレンで泣く」(うーん,良いタイトルだ)がやけにおかしい。でも「SPA!世代」って括りたがるのは──おれの辺りらしい──戴けないぞ。
『パト』が終わったからというのじゃないが,新シリーズを入れよう。また「ジャンプ」からになってしまうけれど,苅部誠の『ヘルズウォリアー魔王』である。いやー,まことに下らないギャグマンガだが,妙におれの琴線に触れるのだな。主役の魔王よりも手下の野獣と対立勢力のシス子姉弟が良く,ことにシス子が秀逸である。シス子はキャー・野獣はキューとしか言わない。苅部はこれが実質デビュ作で,外に作品は無い。そしてたぶん最後の連載だろう。
それから楽しみなのは『1・2の三四郎2』である。小林"マイケル"まことの出世作の続編だ。「少年マガジン」から「ヤングマガジン」に移っての連載,わーおと言いながら買ってみると3週目には載っていなかった。もう終わりなん? 小林の悪癖である。江口と共に連載落としの常習者なのだ。第3回は2週空いて何と6ペイジ・編集部もぎりぎりの妥協をしたか,隔週掲載ですと言い訳が載るようになった。ちゃんと描けよ。『パパリンコ物語』の轍を踏むな。


日本IBMからまた親書が届いた。厭な予感がしたら案の定,PC DOS J6.3/Vのお知らせである。畜生ーっ,まだヴァージョンアップしたばっかりだい。
何よりおもしろくないのはJ5.0/Vからの昇格が9800円と前回よりうんと安いことだ。おれのJ6.1/Vからは2800円だが前回のと合わせりゃ1万5000円オウヴァである。まぁ新機能は要らんからアップグレイドの魅力は無いけどさ。
近頃IBMはTVCFづいていて,盛んに喧伝に努めている。初めてVisionのを観たときは驚いた(今はTVチューナが付いていやがる,畜生ーっ)。でもOS/2のCFなんて効果あるのかしら。
悔しいばかりだとここに書かないが,有益な情報もある。日本IBM主催のパソコン通信「PEOPLE」の紹介だ。「日経パソコン」の記事でずいぶん前から知ってはいたものの入り方は判らなかった。電話で訊きゃあ良さそうなもんだが,生憎おれは電話恐怖症である。
さっそくモデムの物色に入る。モデムというのは主に容姿を売り食いするお姉ちゃんのことだ。欲しい欲しい。
「日経パソコン」の新製品レヴュでサン電子のSUNTAC MS144AVFが折り良くレヴュされている。これで行こう。144AVFはその名のとおり14,400bpsで3万6800円の低価格しかも音声機能付き勿論FAXモデムというのが売りだ。
今は2,400bpsが主流で2万円を割り始めたくらい,14Kbpsは贅沢品とされている。だがしかし数箇月で全てが陳腐化する恐ろしいパソコン界だ。2,400bpsなぞ夏には莫迦者呼ばわりされるに決まっている。ただ14Kbpsは6万円台が普通であり,音声も送れてこの値段というのは価格破壊だ。個人で音声サーヴィスなんか使い道あるかと,レヴュはあまり好意的に書かれていなかった。きっとひと足違いで高いのを買った記者がやっかんでいるのだ。
また秋葉原はLaox ザ コンピュータ館へ降り立つ。ここは電話番号をキイとして客をDB登録している。購入額が100万円に達すると薬玉が割れて鳩が飛び出す仕掛けである。
DOS/Vはコンピュータ館の4階だ。行く度に模様替えをしてある。モデムはショウウインドウに入って店員の厳しい監視下にあり,踊り子さんに手を触れられないようになっている。しかしアイワオムロンばかりでお目当てのサン子ちゃんが居ないぞ。うぬ,と言いつついったん離れてノウトパソコンをいじる。ThinkPad 555BJほしいなあ。もう一度モデムを見る。無いねえ。うぬ,と言いつついったん離れて3階へ。かねて懸案のATOK8を買いましょう。もう一度モデムを見る。無いねえ。店員に訊くと──最初から訊けよ──サン電子は取り扱ってないとの返事,えっ,コンピュータ館に無い物があるの。
おれはいつもブツを特定してから買い出しに行く方針なので,その物が無いと途端に破綻する。今回は次点を全く考えていなかった。こりゃ参ったね。
でもここまで来て目的を果たさず帰るのは業腹だし余所へ回るのもめんどいなあ。良いや,アイワの買っちゃえ。どうせ個人用途で音声サーヴィスなんか使い道ないのさ。
アイワにしたのに大した巨根いや根拠は無く,価格と付属ソフトとデザインの兼ね合い。PV-AF144V5と決まった。5割引き3万2000円。STARFAXなるファクスソフトは付くが,通信ソフトは無い。取り敢えずWindowsのターミナルを使おう。そのうち良いのをダウンロウドさせてもらう。
にはいろんなはがきが入っている。アイワのユーザ登録やNTTへの端末接続請求は当然として,民間ネットの勧誘用のが3通もあった。かの有名なNiftyserveのほかASCII-net・日経MIX。後2者は入会金や基本料金を取るので論外,Niftyにも入る気は無かったんだけど,案に相違して料金は回線料のみだった。んじゃ加入しようっと。
PeopleもNiftyもゲスト用IDを以てアクセスし,入会希望の旨を書き込むと仮IDを発行してくれる。そのとき身上調査と利用料の引き落とし口座を訊いてくるから正直に答えよう。年齢19歳・職業素浪人・UFO信じるなどと嘘を書いてはいけない。
や,紙数が盡きた。以下,次号。おれのID,Peopleは81253413,NiftyはPXN01034。電子メイル入れてちょーだい。

草草

1994年6月9日


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 説明不要。

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bps
 bit per second。1秒間あたりの情報転送量。1bitで"0"と"1"のふたつの状態を表現できる。因みに1byteは8bitなんで2^8=256とおりね。更に因みにアルファベット関係は1byteにすっぽり収まるが漢字はまるっきり無理。だから2byte(2^(8*2)=65,536)遣っているわけだ。

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Kbps
 1,024bpsを1Kbpsと言っとります。

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ASCII-net・日経MIX
 97年にNet事業は廃業。祇園精舎の鐘の声。

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written by nii.n