神奈川月記9403c

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冠省
買ってみました。
ああた,これは大変な物ですぞ。遂にカセットの時代は終わった。この刺客は必ずや任務を成し遂げるだろう。
MDはソニーシャープだけかと思っていたらとんでもない。ビクターケンウッド・懐かしやサンスイやLo-Dまで参入している。アイワの無かったのはちょっと奇妙。でもこれだけ揃っていればひと安心だ。なに,DATもそうだった? なんでそんなこと言うの
おれの買ったのはビクターのXM-D1。93年9月発売だからけっこう日が経つ。購入ポイントは一にも二にもデザインで,価格が若干たかめなのも何のその,どんな物かは下のスーパ_リアリズム_イラストを見てちょうだい。

187×130×55.5mm^3のB6サイズ,パームトップと言うから椰子のてっぺんで何をするのかと思ったら,掌サイズのことだそうだ。頼りないほど小さいが,重量800gは数字よりずっと重く感じる。ガンメタ_グレイのプラボディは見慣れると安っぽい。1回/日のタイマ内蔵・リモコン付き。
3電源対応でも付属はACアダプタのみで,バッテリ_パックと充電器・カー_バッテリ_コードは別売りである。可搬性ポータビリティは強く意識していたが,かなりでかいバッテリ_パック(ビデオカメラと共通)を使っても再生時間は100分ということだ。バッテリ4500円・充電器1万円と値も張るし,ウォークマン的活用の実現は困難である。
当の本体は秋葉原で買った。殆ど3割引きの7万1000円,破格値である。CDソフトケイスと生カセット1割引き券つき。
実はこれは急な買い物なのだ。迷うおれをMD派に引き込もうとしていた甘木が熱弁を振るううちに自分も欲しくなってしまい(甘木はカーステMD所有者),買わはるんなら一所に行きましょかと言い出した結果なのである。先の買い値も甘木が秋葉原の大手5店舗(メジャーズ)のうち最も安かったのを更に1000円ひかせたものだ。まことに驚くべき手腕と言わねばならぬ。
MDのターゲットには最初からカーステレオが入っている。世間はやっとCDを載せるのが普通になってきたところで,4連装・6連装・12連装のCDチェンジャが人気の的だ。
しかしながらCDは車で扱うには大きすぎる。重連装になると尚更で,マガジン交換の度に車を停めているらしい。ダッシュボードの空間的制約も強い。それがMDなら運転しながらでも交換できるし──なんかマッチ_ポンプという言葉が思い浮かぶなあ──キャディのおかげで多少はラフに扱えるそうだ。
ましてやMDは振動でピックアップからの信号が10秒間とぎれても音飛びしないのである。カーステを制すれば録音用のMDデッキも同数うれる。奸計きわまった戦略と言えよう。
XM-D1(\99,800)のライヴァルはソニーのMDS-102(\86,000)だった。ソニーでない物というのは今おれの中で大きな要素なのだが──単色に染まりたくないだけ,他意なし──心憎いばかりにツボを突いてくるメイカなので必ず候補に残る。店頭で見た分にはサンスイの金色の奴もおっとこ前だった。
ここで言及すべきは102にせよサンスイ機にせよミニコン_サイズ(225mm)である点だ。フルサイズ(430mm)のMDS-501(\108,000)は眼中に無かった。一応チェックは入れたものの早早に脱落し,実機に触れても妙に間延びして見える。スペイス_ファクタを重要視する眼がそうさせるのである。
これは明らかにおれの方向転換を示している。A-10に代表される巨艦主義は影を潜め,コンパクトさが訴求力を持つようになった。先般購入のFM/AMステレオ_チューナはフルサイズだが,それは本機が当時ポケッタブルでない唯一のAMステレオ_チューナだったためだ。既にフルサイズは必須条件たり得なかったのである。
ただし重量はいぜん重ければ重いほど良い。重さと電源の強力さは概ね比例するからね。

さて,XM-D1。
最大の特徴は上面4半分を占める液晶パネルだ。しかもバック_ライト付き(消灯不可)。手動4段階でポップ_アップできる。文字情報は5×9ドット2のセグメントが16個,それが2行構成で,その下はピーク_メイタと運転状態表示部である。
メイタは−60dBから0dB・OVERの8セグメント。メセイジ1行目にトラックNOと経過時分を,2行目にディスクないしトラックのタイトル_ロールを常時かかげる。
タイトルは英数字で1曲あたり32文字うちこめる。ビクター機は特に片仮名を遣えて便利だ。文字の選択にはもうひとつの特徴であるジョグ_ダイアルを用いる。やり方はテプラと同じだ。もちろん2速順逆転のコントロウラでもある。レスポンスは今一で,加減が難しい。
ディスクをロウディングしてTOC(後述)を読み,準備完になるまで7秒かかる。[プレイ]を押して1曲目のスタートまでに3秒,シャフルの選曲と位置決めはちょいトロくて4秒を費やす。
メカノイズが意外に大きい。スタンバイ時にチッチッチッと舌打ちしており,演奏中でもジャンプするときチョインキイイとピックアップの移動がばればれである。耳に付く音だ。
スキップやシャフル・タイトル設定といったトリック_プレイは全てトラック単位に行われる。そしてトラックを分けるのがトラック_マークだ。CDからのディジタル_ダイレクトなら全自動で,アナログINなら3秒間の空白毎にマーキングされる。もちろん手動でも編集可能だ。
こうした情報を格納する場所がTOC(Table Of Contents)である。曲目の削除や並び替えはTOC情報の更新だけで済み,曲自体の収録部分には触らない。FDと同じである。カセットのように消去に再生と同じ時間が掛かるなんてことが無いわけだ。
逆に言えばTOCが破壊されれば余所がどんなに無傷でもそのディスクはパーになる。だから"TOC WRITING"のメセイジ表示中はぜったい揺するなとマニュアルもうるさい。
録音は常に最後のトラック_マークから始まり,ユーザが位置決めすることはない。したがって1秒たりともディスクを無駄にしたくない場合は最後の編集でゴミ録音をきっちり消しておかなければならない。後ろを潰しながらの新録音はできないのである。このへん一長一短だ。

PCMプロセッサの修理がまだ終わらないので取り敢えずカセットから落としてみる。
曲間3秒で自動マーキングされる筈が,カセットのヒス_ノイズを拾われてしまい大概あとで打ち込まねばならなかった。この打ち込みは1曲を分割するという意味で"divide"と呼ばれる。操作そのものはジョグ_ダイアルのおかげで簡単だ。
編集機能には他に"join"・"renumber"・"erase"がある。ポーズし損ねて次の要らん曲が入ってしまった場合はまずdivideして2曲に分け,次いで後ろの曲をeraseする。2曲を1曲に纏めるには間のマークを消去する,それがjoin。Renumberは曲順の並び替えね。いずれもビクターの用語で,ソニーではそれぞれ"divide"・"combine"・"move"・"erase"と言う。統一しろ。ソニーの方が適当かな。
CDないしMDのディジタル入力以外でかつオウト_マーキングにしているときは要注意,うっかり寝込んで先にソースが終わりでもすれば無音録音と見做されるから3秒たつ度にトラック_マークを挿入される。したがって後で何百回もeraseする羽目になる。おれじゃないよ,甘木の実話。
音質は,うぬ,こんなに悪いとは思わなかったぞ,しかもトロいのなんのって。いや,カセットの方だ。Dolbyなんて掛けるもんじゃあないね。あたしゃ今更ながら後悔してるん。ちっとも正しく再生されない。諦めて潰す奴がたくさん出た。そのうちCD買い直そう。あ,MDソフトにするか。

XM-D1の入出力は次のとおり。ディジタルIN/OUT各1・アナログIN/OUT各1・マイク1・ヘッドフォン1・ビクターのミニコンポと連動するコントロウル端子が1。ディジタルは光のみ,外は皆ミニ_ジャックである。マイク入力用にアッテネイション(-20dB)とリミッタのスイッチが付く。
ヴォリウムはアナログINのとヘッドフォンのとあって,どっちもセコい。すぐにガリ来そう。アナログOUTは固定出力(1.2V)だ。ディジタル入出力が光だけなのはMD全部がそうで,CDプレイヤにディジタルOUTがあっても同軸なら繋がらない。アナログで入力するしかない。
またダイレクトはCDかMDに限られ,衛星放送のA/B両モウド・DATは駄目だ。サンプリング周波数が違うからである。更に例のSCMSが効く。PCMプロセッサもサンプリングは44.1kHzだからPCMダイレクトを試してみたかったのに,こいつは同軸しか無い。くそぉ。
しかし幸いおれのコンパチは光を持っていた。買った当初は,要らんとこに金つかいやがってと毒づいたものだが──光の方が音が悪い──今となっては偉い。やってみましょ。
光ケイブルは別売りで,わざわざ買ってくる。1.5mが2000円てとこ。生きてる端子をうっかり覗いて慌てて眼を反らしたのだけれど,もちろん無害である。信号光はきれいなルビー色だ。壁に映してみたら盛大に拡散する。レーザの直進光を期待したのにこりゃがっかり。
CDのトラックIDを読めるので,あーもすーもない。スタートさせたら──これがまた録音ポーズ解除の際リモコンの野郎CDプレイヤの再生コマンド_パルスを同時に飛ばすんだな──ノータッチで1枚完全コピイしてしまう。趣味の領域を逸脱している。単なる海賊版作成マシンだ。音質の差だって無きに等しい。

冒頭に戻って,こりゃ大変なマシンだ。DATはおよびじゃないしdccの存在価値は全く無い。カセットを確実に屠れる。録音時間もひょっとしたら延長されるかもしれない,60分のディスクと74分のそれとは記録密度が違うそうだ。おれはMDを信じてる
せっかくMDを入れてもPCMプロセッサが直らんことにはカセット_コピイしかできぬ。そのコピイもPCMから落語を落とすのにカセットを空けるためであって酔狂でやっているのでは,ある。
いいかげん音質の悪いカセット(デッキの経年劣化のせいか)を無理してダビングするMDは当然スーパー_ヒット_パレイドとなり,中身は言わば聴き飽きたものばかりだ。繰り返し再生する魅力に乏しい。
MD生ディスクは94年3月現在,74分と60分と僅か2種類である。おれは74分のしか持っていないが,実際にフル録音すると74分58秒とれる。TOCが幾分つかうのとMDが2秒以下のトラックを扱えない(見失う)ところから,編集を入れるほど収録時間は短くなるようだ。それでも常識的な使い方なら74分をじゅうぶん確保できる。
74分ディスクは1枚1700円。実売価格は店によってまちまちで市場調査は欠かせない。まぁ多くは1350円で売っており,おれの知る限りいちばん安いのは下北沢での1150円である。60分ディスクは1000円を割った。初期のメタル_テイプ(TYPE IV)並みですな。まだ纏め買いをする段階なので100円の違いは大きいのだ。


PCMプロセッサは嵐の水曜日にソニーへ預けて以来2週間,未だ直ってこない。心配になって電話を掛けたら,先のソニーの姉ちゃんは工場に問い合わせるから少し待ってろと丁寧に言う。おれ居ないからファクスにしてね。
ファクスが届いた。ショックだ,コメントを全文掲載しよう。

★補修に必要な部品(発振子クリスタル)が供給不能な為,手直し等で修理が可能か?検討中の為,日数がかかり大変ご迷惑をおかけしており,申し訳けございません。できる限り早く,お返事を申し上げますので,もうしばらくお待ちいただきたいのですが…よろしくお願いいたします。

クォーツが無いだと? んなもんCDの持ってくりゃええやんけ。直せんかったらほんま殺すで。ソニーの姉ちゃんを1秒間に4万4100回サンプリングしてやる。
もし修理できなかった場合ソニーはどういう態度を取るのであろうか。あなたも運の悪い人だ御免と言うのか代替品を寄越すのか外の媒体にダビングしてくれるのか。諦めるわけには行かないぞ。

草草

1994年3月28日


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なんでそんなこと言うの
 RC Succession『雨上がりの夜空に』の一節。

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CDソフトケイスと生カセット1割引き券
 どうして「MD」を買ってこのようなお負けが付くのだ。

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片仮名を遣えて便利
 最近の機械なら漢字も遣える(98/6/29記)。

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後ろを潰しながらの新録音はできない
 最近の機械ならできる(98/6/29記)。

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ディジタル入出力が光だけなのはMD全部がそう
 最近の機械なら同軸もある(98/6/29記)。

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おれはMDを信じてる
 当時こういうCMコピーがあったのだ。

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74分ディスクは1枚1700円
 今(98/6)となっては信じ難い値段ですな。おれ達がせっせと買って安くしてやったんだぞ。感謝しろ。←やな奴

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嵐の水曜日
 元ネタ忘れたけど,絶対なんかの捩り。

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あなたも運の悪い人だ御免
 これは井上陽水『御免』。

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written by nii.n