源当純 みなもとのまさずみ 生没年未詳

近院右大臣源能有の子。寛平六年(894)、太皇太后宮少進。延喜三年(903)、少納言。勅撰入集は古今集に1首のみ。

寛平御時きさいの宮の歌合の歌

谷風にとくる氷のひまごとに打ち出づる波や春の初花(古今12)

【通釈】谷を吹く春風によって解け始める氷――その隙間隙間に、ほとばしり出る波よ、これが春の初花なのか。

【補記】『礼記』などに見える「東風解凍」(→資料編)に基づく発想であるが、融けた氷の隙間に奔出する谷川を生き生きと捉えている。これをさらに「春の初花」に見立てたところが当時の好尚である。寛平五年(893)以前、宇多天皇の母班子女王が主催した歌合に出された歌で、掲出歌は春の最初の番の右。勝負付、判詞などはなく、紙上の撰歌合であったろうと推測されている。初句を「山風に」として載せる本もある。

【他出】新撰万葉集、古今和歌六帖、金玉集、和漢朗詠集、俊頼髄脳、和歌童蒙抄、袋草紙、古来風躰抄、定家八代抄、桐火桶、歌林良材

【主な派生歌】
谷川のうち出づる波も声たてつ鶯さそへ春の山風(*藤原家隆[新古今])
いはそそく清水も春の声たてて打ちてや出づる谷の早蕨(藤原定家)
吉野山かすまぬ方の谷水も打ち出づる波に春は立つなり(藤原定家)
谷川をうち出づる波にみし花の峰の梢になりにけるかな(藤原良経[続後拾遺])
すはの海や氷のうへは霞めども猶うちいでぬ春のしら浪(*宗良親王)
おく霜の氷吹きとく松風にうちいづる波や梅の初花(正徹)
雪消えぬ谷の古巣を鶯のうち出づる声も春の初花(賀茂季鷹)


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成22年12月31日