布留今道 ふるのいまみち 生没年未詳

布留氏は代々石上神宮の神主をつとめた家系。貞観三年(861)、内蔵少属。元慶六年(882)、従五位下。下野介などを経て、寛平十年(898)、三河介。古今集に三首を載せる。

石上(いそのかみの)並松(なむまつ)が、宮仕へもせで、石上といふ所に籠り侍りけるを、にはかに(かうぶり)賜れりければ、喜び言ひ遣はすとて、よみて遣はしける

日のひかり薮し分かねばいそのかみ古りにし里に花も咲きけり(古今870)

【通釈】太陽が薮も分け隔てなく照らすように、天皇のお恵みは世に埋れた人にも注がれるので、石上の荒れ古びた里にも、花の咲くような慶事があったことだ。

【語釈】◇石上並松 人名。仁和二年(886)に従七位から従五位下に昇叙された。石上神宮に関わりのある人物であろう。◇日のひかり 天皇(この場合光孝天皇)の恩恵を暗喩。◇薮し分かねば 薮も分け隔てしないので。薮には並松らの暗い境遇などを暗示する。◇花も咲きけり 冠を賜わった(叙位にあずかった)ことを言う。

【主な派生歌】
薮し分かぬ春とやなれも花の咲くその名もしらぬ山の下草(花園院[風雅])
薮し分かぬ春の光に北南かすみそめけり生駒大比叡(賀茂季鷹)

題しらず

知りにけむ聞きてもいとへ世の中は波のさわぎに風ぞしくめる(古今946)

【通釈】知ったでしょう。よく聞いて、世を厭いなさい。この世の中は、波が騒ぐ音に加えて、風さえ吹き重なるようですよ。

【語釈】◇聞きてもいとへ 私の話を聞いて、世を厭え。下句から、「波の騷ぎや風の音を聞いて厭え」の意味が重なる。◇風ぞしくめる 「しくめる」は動詞「重(し)く」+推量助動詞「める」。

【補記】世間の騒擾は今に始まったことではないから、背を向け、世を厭え、という内容の歌。

【主な派生歌】
初時雨そめしもみぢの唐錦にはにうちはふ風ぞしくめる(藤原教長)
稲筵ほなみはるかに打ちなびきおきふしみえて風ぞしくめる(二条為明)


公開日:平成12年02月13日
最終更新日:平成15年03月21日